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(49)一足遅かった

挿絵(By みてみん)

 フレデリックが走ってレオンの後を追うと、幸いにもレオンはまだ街に入ったばかりのところを歩いていた。


「――レオンさん!」


 フレデリックが大声でレオンを呼ぶと、レオンがすぐさま振り返る。家路を急ぐ人混みの中にもかかわらず一瞬でフレデリックを見つけると、笑顔になった。男のフレデリックでも惚れ惚れとするような笑みに、緊急時かもしれないというのにフレデリックはつい笑みを返してしまった。


 レオンがフレデリックに向かって歩いてくると、フレデリックを見下ろした。


「どうした? 急に休みにでもなったのか?」

「いやっ違うんです! 王国騎士だ……!」


 フレデリックが大声で報告しようとした瞬間、レオンがさっとフレデリックの口を手で(ふさ)いだ。端正な男らしい顔をフレデリックに近づけると、(ささや)く様に注意をする。


「誰が聞いているか分かんねえからな、大声でその名前を呼ぶんじゃない」

「ふぁ、ふぁい!」


 こくこくとフレデリックが頷くと、レオンは辺りに注意を払いながら声を(ひそ)めて尋ねた。


「――で、王国騎士団がどうしたって?」


 フレデリックは、極力声を抑えようとしているが、興奮からか段々声が大きくなっていく。


「そ、それが、レオンさんがまだ屋敷にいる間に、騎士団の証の指輪を見せられたので門を開けたんですが、シュタインさんが会ってないって!」


 レオンが、その言葉を聞いて眉を(ひそ)める。


「そうか……続きを」

「はい! それでナタ様が門番の詰め所で待機して、シュタインさんが屋敷に確認しに行ったんです! 僕はレオンさんを呼んで来るように言われて……!」


 フレデリックの言葉を聞いた途端、レオンの表情が険しいものに変わった。


「向こうは、何人だ?」

「ご、五人でした!」

「……チッ」


 思い切り舌打ちをすると、レオンはフレデリックの腕を掴んで街の外へと走り出した。


「行くぞ! ナタが危ないかもしれない!」

「は、はい!」


 レオンの視界に、ナッシュと他の部下の姿が一瞬映る。


 レオンは、全速力で街を駆け抜けて行く。すでにここまで走ってきていたフレデリックの足は、遅れがちだ。


「お前は後から来い! 俺は先に行く!」

「はっはひいいいいっ」


 ゼーハーと息を切らせたフレデリックが、苦しそうにこくこくと頷いた。それを見届けると、レオンはフレデリックから手を離して街の外へ出る。


 辺りは真っ暗闇で、月明かりが辛うじて道を照らしてくれている。屋敷の方向へと続く土の道を、レオンはひた走った。はあ、はあ、と息が上がってくるが、そのスピードは(おとろ)えない。


「ナタ……! 無事でいてくれよ……!」


 ギリ、と奥歯を噛み締め、レオンが祈るように呟いた。


「レオン様!」


 背後から、突然レオンを呼ぶ声がしたかと思うと、レオンは道の端へなぎ倒された。ザザザーッ! と地面に投げ出された腕が砂で()れる。


「なにを……!」


 レオンが起き上がろうとすると、先程までレオンが走っていた場所を、屋敷の方角から来た馬が、次々と駆け抜けていくではないか。


「なっ……!?」


 レオンの視界に一瞬ひらりと、穏やかなクリーム色のドレスの裾が月明かりになびいて見えた。そして、だらりと揺れる華奢(きゃしゃ)な足も。


 馬たちは、轟音を立てて一瞬で過ぎ去って行った。


 土煙を吸って、レオンがむせる。


 レオンを道の端になぎ倒した張本人、ナッシュが「ふうーっ」とわざとらしい声を出した。レオンを離すと、先に立ち上がってレオンに手を差し出した。


 呆然としているレオンは、それでもその手を握るとグワッと立ち上がる。


「レオン様、もしかして見ました?」


 ナッシュが、馬が去った方向を見ながらレオンに尋ねた。レオンは渋い顔をして、頷く。


「見えた。あれはナタだ」

「あんな一瞬でよく分かりましたねえ。さすが愛だなあ」


 ナッシュが茶化すように言ったが、レオンは真面目に答えた。


「あれはナタが『マヨネーズ色だ』と気に入って着ていた服だし今日も着ていたからな、すぐに分かった。それにあの足も、あれはナタの足だった」


 レオンの脳裏に、力なく垂れていた華奢な足が浮かぶ。ナッシュが、横で腕組みをしながらうんうんと頷いてみせた。


「前にナタ様の足を掴んで無理やり洗ってましたもんねえ。もしかして目に焼き付いちゃってます? にしても、ご令嬢のスカートを()くりあげるなんて、レオン様もやる時は結構大胆なんだなあなんて僕思っちゃいましたよ! ははっ」


 ナッシュの言葉に、レオンが一瞬焦った様な表情を浮かべた。


「おい、お前まさか見てたのか」

「僕はレオン様の護衛ですからねえ、まあ大体のところは」

「あれを見てたのか……」


 レオンが額を押さえながら、屋敷の方へと歩を進め始めた。横に並んだナッシュが、主人であるレオンを見上げる。軽薄そうなその顔には、普段には見ることのできない、(たけ)る様な色が浮かんでいた。


「で、どうされます? 後を追わせますか?」

「……いや、屋敷へ急ごう」

「了解でーす」


 ナッシュが軽く答える。レオンは首を横に振ると、ナッシュと並走してスチュワート家の屋敷まで急いだのだった。

次話は明日朝投稿します。

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