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ONEGAI - 叶うとしたら -

作者: TANTAN

「あたしさ。子供の頃読んだ本で忘れらない話があってさ。

タイトルとか作家の名前は覚えてないんだけど、その内容が衝撃的でね。」


高校時代から仲良しのミオと会うのは久しぶりだ。

この頃はコロナの影響で友達を誘うのも気がひける。

今ではどのお店もアクリル板を挟んで斜めに座るのが当たり前になっている。


「目の前にいない相手と会話するって変じゃない?うけるよね」

そう言ってミオは笑った。

昔からまわりの目を気にしない子でちょっと浮いてたけど、相変わらずみたいだ。


「でね。その物語なんだけど。」

そう言ってミオは席につくなり話し始めた。


「すごーく貧しい家庭に子供が生まれるところから、その物語は始まるの。

食べてくのもやっとなのに新しく子供が生まれて、これからどうしようってお母さん困り果ててるのね。

見るに見かねた神様みたいな人が、そのお母さんに

" ひとつだけお前の願いを叶えてやろう " って言うの。

まぁ神様だったら人じゃないんだけどさ。」

そう言ってまたミオは笑った。


「すごーく貧しいんだよ。あたしだったらさぁ

" 満腹になるまで食べたいです!!"とか言っちゃうとこだけど

そのお母さん、なんて言ったと思う?

" この子が誰からも愛されますように " って。

神様確認するよねー。ほんとにそれでいいのか?他にないのか?って。念を押すんだけど。

" はい。この子が誰からも愛されるように。お願いします。"

ってそうお母さんそう言うんだよね。」


「いい物語でしょ?あたしはここで泣いたよ。

自分は食べるものもないのに子供の幸せ願うなんて。

これが母心ってもんなんだねってね。

うちのママだったら絶対 "満腹になるまで・・・"って言ってる。」

そう言ってまたミオは笑った。

話がなかなか進まないのも昔のままだ。


「そう。それでね。願い。叶うわけよ。神様。杖を右回りに振って願い叶えてあげちゃうのね。

で。その子は誰からも愛されてスクスクと育つの。

出会う人みんなに愛されるもんだから、食べ物も服も与えてもらえて。

家族は食べ物に困らなくなったし、何不自由ない暮らしができるようになっていって。

私そこでピンときたね!

あ。そういうお話か。子供が愛されて家族みんな幸せになりました。めでたし。めでたし。」


「でもね・・・。

その子が小さい頃はまだそれでよかったんだけど。

想像してみて?

どんなに悪いことをしても許されちゃうんだよ。

誰も怒らないって怖くない?

みんなに愛されたからって優しいいい子に育つわけじゃないよね。

その子はだんだん凶暴になっていって、自分を愛してくれるみんなを傷つけるようになるの。

それでね。その子。

ある日友達を殴り殺しちゃうんだ。」


「そんなの許されるわけないじゃん。

でも。その友達の親は怒らないのよ。怒れないのね。愛してるから。愛してることになってるから。

怒らないどころか " 息子を殺してくれてありがとう " って感謝するの。泣きながらね。

それでお母さんはやっと気付くんだよ。

願いが呪いになったってことにね。

このままだとこの子はもっともっとダメになってしまう。

" どうか。どうか。私の願いを解いてください。" って。

そう神様にお願いするの。」


「神様はお母さんにこう聞きました。

" 誰からも愛されるという願いを本当に解いてしまっていいのかい?"

" 願いを解いたら2度と元には戻らないけど、その覚悟はあるのかい? "

はい!ファイナルアンサーきた。

願いが解ければいい子に育つって信じているお母さんはそりゃ"YES"って答えちゃうよね。

" 私の願いのせいで息子はこんなダメな子になってしまいました。どうか願いを解いてください。"

神様は " そうか。わかった。お前の願いを今解こう。"

そう言って杖を左回しに振って願いを解くの。」


「その瞬間。どうなったと思う?」

ミオはアクリル板の向こうからキラキラした目で私の目を覗き込んで、

これから自分が伝える結末にワクワクしているように見えた。

そしてこう言った。


「その子。自分を愛してくれた全員に瞬殺されたよ。」


「あたしそれで悟ったんだぁ。愛されたいなんて願うもんじゃないって。」

そう言ってまたミオは笑った。









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