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「梨華、昨日倒れたって聞いたけれど、もう大丈夫なの?」
愛らしい顔を曇らせて、美月がそう声をかける。
大好きだった親友のその顔を見るだけで、気持ちが騒ついてしまう。
ーーダメ、美月は純粋に心配してくれているの。憎しみなんて抱いちゃダメ。
そう自分に言い聞かせながら、なんとか顔に笑顔を貼り付ける。大丈夫だよ、と答える。妙に感情の落ちた声が出てしまった。
美月はまだ心配そうに私を見ているが、私が「それより!」と話題を切った。
「美月が先輩と付き合うなんてびっくり。いつから好きだったの?」
自ら傷口に塩を塗り込むような話題だが、避けて通る訳にはいかない。美月と先輩の関係をしっかりと応援できるようにならないと、うっかりゲームのように破滅を迎えてしまうかもしれない。
そう聞いた瞬間、美月の顔が真っ赤に染まった。その顔を見て、若干モヤモヤしたものの、「かわいいな」とも思えた自分に安心する。大丈夫、私はまだ美月の全てを恨んではいない。
「あの、ね。先週……私が先生に頼まれて大きな荷物を持ってたら、先輩がさっと持ってくれたの。女の子には大変でしょ、って。すっごくときめいちゃって、そこから先輩が話してくるたびにドキドキして。先輩の特別になりたいって思ったの。」
「素敵だね」
そう返したものの、笑顔は引き攣っていたと思う。
先週?先輩の良さに気づいたの遅くない?私の方がずっと前から先輩のことが好きだったよ。
そう、言いたいのを我慢する。
美月の、自分の気持ちに一直線なところ、すごく眩しいと思う。
でも、私の気持ちに一切気付かない美月に対し、苛立ちも感じてしまう。
ーーこれじゃ、ダメだ。
思い出した記憶を反芻する。
このままでは、ゲーム内の美月と梨華の関係と同じになってしまう。
確かゲームでは既に美月と先輩が付き合っているところから始まっている。恐らく今より少し先の未来がゲームの舞台だ。
エンディング近くで、梨華が先輩のことをずっと愛していたって判明していたなあとぼんやり考える。
ただ、梨華が先輩を好きになった理由とかは別に語られはしなかった。梨華の愛と嫉妬が行き過ぎて猟奇的な行動にまで移っていたから、そんな掘り下げができなかっただけだろうけど。そんな取り留めのない考えが頭に浮かんでは消える。
ただ、私はあんな女にはなりたく無いって思う。破滅も嫌だけど、それよりも嫉妬に駆られた梨華は本当に醜悪だった。あんなの耐えられない。
先輩のことを考えると胸が痛む。美月のことを考えると心が澱む。だけど、ここで立ち止まらなきゃ。
そうしないと繰り返してしまう。
美月の話を半分聞き流しながら、私はそう自分に誓いを立てた。
***
「梨華ちゃんが生徒会に入るなんて意外だったよー!」
「うんうん、でも梨華ちゃんしっかりしているし、ピッタリ!がんばってねー!」
クラスの女の子達にそう声を掛けられる。
「ありがとう、頑張るね。」
そう返事をし、笑顔で手を振る。
ゲーム通りに嫉妬に狂わない為に、どうするべきか。
私の出した結論はーー美月と先輩と過ごす時間を減らすことだった。
美月は私の一番の親友で幼馴染で、家も近い。基本的に毎日一緒に登下校をしていた。
加えて先輩は、美月と付き合ってから登下校を一緒にするようになっていた。
「先輩と二人で学校行ったら?」そう美月に伝えたこともあるけれど、えー梨華との時間が減るの嫌だよー!と返されてしまった。
友人を大事にできて、明るくて、愛らしい。そんな美月が今は心底憎たらしい。
だから私は強制的に美月との時間を減らすため、生徒会に入ることにした。
事後報告した生徒会入りは、当然ながら美月のご機嫌を損ねてしまった。
黙っていてごめんねと言いながらも、これで美月との時間を減らせると思うと晴れ晴れとした気持ちになった。
実は、物語の黒幕である英梨華についてはゲーム内であまり語られていない。
生徒会に入りがシナリオから逸脱した行動なのかどうかも分からない。
だけど、きっと何もしなければ後悔する。それだけは何故だか確信できたから行動に移した。
もう二度と絶対に、間違えない。
その決意のもと日々を過ごし、そしてゲームのシナリオが始まった。