第八話
「さあ、たんと食べてくれ。どうせ世界の危機なんだ、騎士団長の権限で城にある高級な食材をたっぷり使ったぞ」
運ばれた料理には脂の乗った上品質な肉が贅沢に使われており、ナキシィが王国でもそれなりの権限を持つ人物であることが容易に予想できた。
「では、これから向かう危険地帯『デジャーン』について話そう。食べながら聞いてほしい」
テーブルの料理を口へと運ぶ。味が薄かったので塩を振っているとナキシィは悲しそうな顔をしていた。
「デジャーンはこの王国から南西に位置する洞窟で、濃い瘴気で溢れかえっている。幸いなことに日光を嫌うモンスターが多いので、基本的に王国への被害は少ないのだが、食糧難の時期には餌を求め王国まで狩りをしにくる。その時は我ら騎士団が迎え撃っているのだよ」
「もぐもぐ」
「デジャーンのモンスターの強さは、あの時私を襲っていたトロールよりも弱い程度だ……今まではな。今では状況が大きく変わっている。威信君が倒れている間に瘴気はさらに濃くなり、世界全体を覆った。普段なら私が容易に倒せるトロールですら、あの時点で敵わない相手となった。デジャーンのモンスターともなると、どれほど強くなっているか想像もできない」
「むしゃむしゃ」
「そんなにおいしい?塩を足した私の料理」
「食べてみていいよ」
「ぱくっ……うわーーーーーーー!(おいしすぎて叫んでいる)」
俺はこの世界に来る前は天才高校生料理人として生きていた。俺にかかれば塩加減の調節だけでも料理のレベルををワンランク上げられる。
「ぐぬぬ、この場にいない女神の私は食べられません…」
✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱
「と、いうわけでだ。今からデジャーンに向かう。私とエリー、カイもついていくよ」
「3人はどういう関係なんだ?トロールの森の調査も3人に任されていたけど」
「情けない話だが、これでも私たちは剣技、魔法、回復のそれぞれにおけるこの国のトップなんだよ。だからこの3人がいれば少し危険な調査も容易く遂行できるはずだったんだがな。今回はそうもいかないようだ。戦闘面では期待しないでくれ、案内とサポートを行うから…」
ナキシィは悔しそうな表情を浮かべながらそう言った。本当は王国騎士団団長としてこの国を、そしてこの世界を守りたいのだろう。
「メガミィ、今の俺のレベルは?」
「38です」
聞いたは良いが高いのかがわからない。トロールを倒した時の3よりは確実に上がっているが。
「3日で38になったのか!?すごい、一切の欲を断ち瘴気で強くなったモンスターを倒し続けていただけあるな!」
「高いのか?」
「ああ、20年ほど毎日稽古をしモンスターを倒し続けている私が87だからな」
2日寝込んだとはいえ、その分を上回るほどのレベリングをできていた事実に安堵していると、救護室の扉を叩く音が聞こえた。
「失礼します。団長、羽賀威信様、デジャーンへ向かう準備が整いました」
「おお、ありがとう。エリーとカイは?」
「城門前で待機していただいています」
「よし、下がって良いぞ。さあ行くぞ、威信君!」
トラックが来るまであと2日。俺は、仇を打ち、この世界を救う。