第十二話
何かが近づいて来る。それは強大で、圧倒的な力を持つ存在──そして、もう、すぐ目の前にまで迫っている。
─────────────────────────────────────
浅い眠りから目を覚ます。王国に到着した俺は戦いに備えて寝室で休息を取っていた。極度の緊張と戦闘で精神は深く磨耗しており、自ら望んで一人にしてもらっていた。
「……」
見たのはまた同じ夢だった。転生者が持つという、新たな転生者の波長を感じ取る力。これが、トラックの転生が近いことを告げているのは疑いようがない。だが、なぜだろう。俺は夢の中で触れた強大な気配の奥底に、確かに純粋な「善」の意志を感じ取っていた。己の快楽のため、女子高生を装い虐殺を繰り返した悪逆非道な存在。それが、俺が元の世界で知るトラックだ。しかし、破壊神となり研ぎ澄まされた直感が俺に告げる。夢の中で触れた善性は、偽りなく正しい物であった。
「もしかして、俺はトラックのことを何も知らないのかもしれない。あいつは俺のことも、俺の家族も殺したけど、そこには本当は何か理由があったとしたら……」
俺の呟きは、部屋の静寂に溶けて消える。
「はは、関係ないか」
自嘲するようにうっすらと笑みを浮かべる。夢の中で感じた曖昧な感覚により、復讐という目的を忘れかけた自分を馬鹿馬鹿しく思う。
「仇だもんな、殺さなきゃ。そのためにこの世界に来た。迷うな、冷徹になれ」
本物のトラックを前にして情けをかける余裕なんて無い。トラックとの戦いは、きっとそれほどまでに苛烈で、一切の迷いを許さないだろう。俺は、あの時感じた憎悪を再度、意識的に膨らませる。なぜだか、少し自分が強くなったような気がした。
「……そうか」
気づいた。トラックに勝つために必要なのはレベルだけではない。何が起ころうと、トラックへの殺意を失ってはならない。
「そのために邪魔なのは……」
『待ってください!何をするつもりですか!?』
ただならぬ気配にメガミィが焦りに満ちた声をかける。しかし、もう遅かった。
「 破壊 」
夢で感じた「善」の意志。それが羽賀威信にさせた決断は、あまりにも皮肉なものだった。
彼は、自身の「善性」を完全に破壊した。




