第十話
数時間の騎乗を経て、体が馬の動きに馴染んできたその時、目的の場所が姿を現した。ここが、デジャーンの入り口のようだ。
「実際に中に入るのは……これが初めてだな」
ナキシィの顔に逡巡の色が見える。だが無理もない、この洞窟には王国最強の騎士をそうさせるだけの悍ましさが渦巻いていた。入り口からは鼻をつく腐臭と硫黄の匂いが混ざり合い、生暖かい瘴気が肌にまとわりつく。飢えた獣の低い唸り声が反響し、もう一歩でも踏み出せば彼らの縄張りへと侵入するという張り詰めた緊張が突きつけてくる。城門前では覚悟を決めた者も、この底知れぬ闇を目の前にすると動き出せずにいた。顔を見合わせた4人の間に幾許かの沈黙が流れる。
「よ〜し、はいるよ〜」
空気を読まずに口火を切る。正直、客観的にみて恐ろしそうと思っただけで、破壊神である俺目線では全く怖くない。というか絶対に復讐を成功させたいので早く入りたい。
「い、威信さんの強さは信じていますけどぉ……やっぱり、実際にデジャーンを目にすると恐ろしくて動けないって言うか……」
エリーが弱音をこぼした矢先であった。洞窟の奥から唸り声が膨れ上がり、こちらに近づいてくる。複数の足音が次第に大きくなり、目前に迫った戦闘を告げる。
「「「ウァォォォォォォォォン」」」
カイの顔から血の気が引くのが見て取れた。彼女は絶望に染まった瞳で俺に視線を向け、悲鳴を上げるように叫んだ。
「こ、この音はウゼツボウルフの群れだわ!威信!早くどうにかして!」
もはや自分に敵う相手ではないことを理解しているのだろう、真っ先に俺に助けを求めてきた。3000年に一度のイケメンの俺は、いい香りの髪を靡かせながら目標を見定める。俺が何かを破壊するためには、少なくとも対象をこの目で見て認識している必要がある。洞窟の中は暗く、モンスターの姿は見えない。つまり、襲いかかってくるモンスターを破壊するためには、洞窟から出てきたその瞬間を狙う必要があるのだ。もう、誰も死なせない。トラックに家族を殺されたあの日、そう誓った。
「「「アォゥゥゥゥゥゥゥゥン」」」
暗闇から複数の影が躍り出た。視界に捉えた刹那。
「destroy of the earth」
詠唱と共に破壊を念じると、モンスターの群れは跡形もなく消え去った。
『……羽賀威信、前も言いましたが詠唱は不必要です。仲間が死ぬかも知れないという時によく悠長なことしますね』
メガミィの注意を聞き流していると、3人から安堵と歓喜の声が上がる。どうやらパーティーを組んだ恩恵でレベルが上昇しているようだ。
「おお!明らかに体が軽くなったのを感じる……つまり、今の一瞬で得た経験値が想像を絶するものだったということか……」
「よ、よかった……威信、あんた本当に強いのね」
「威信さ〜〜ん今日は守ってくださいねぇぇぇぇぇ」
エリーが腕に抱きつくが、鬱陶しいのでそれを振り払った。
「もう時間がない。3人は明かりを用意して俺に同行してくれ。トラックが来るまでに必ず強くなろう」
絶対に復讐を遂げる、その一心でデジャーンに入る。タイムリミットはもう、2日を切っていた。パーティ後方ではエリーが補助魔法『ヒカリィ』を使用し、洞窟の内部を明るく照らしている。しかし、その表情はどこか悲しそうだった。
「……前は腕に抱きついても、あんなに嫌そうにしなかったのになぁ」




