第二話 ~突然の桶狭間~
<永禄3年(1560年)五月十九日 尾張国 知多郡 桶狭間>
ガン!
強い衝撃を感じた。右の背中を強くぶつけたようだ。
痛みをこらえてゆっくりと目を開けると…… そこは森の中だった。
「ここは……?」
思わず声が出た。地震があって、地割れに落ちたはずだったのに。
気が付けば、琴美ちゃんが俺の腕の中にいた。気を失っているようだ。
「イテテテ……」
「畜生。何だったんだよ」
土田と飛島もいた。どうやら学校の近くに落ちたのか? にしても学校の敷地内に森なんてなかったはずだ。
「雨が降ってる……」
いつの間にか、雨が降っていた。というか土砂降りの雨だ。雨宿りする場所を探さないと。
そんな時だった。
「いたぞ!!」
気づけば頭に白い鉢巻き、戦国時代の武士のような胴鎧、腰にはよくできた刀の見本を差している二人組がいた。何だろ。時代劇のエキストラの人達かな? 背は低い。大人なんだろうけど160cmもないくらいだ。
「おう。何だよ、こいつら?」
「変なカッコしてんな! ははっ!」
エキストラさんに近づく土田と飛島。
だが、
ズブッ
「えっ?」
土田の背中から、刀が生えた。というか、刀で貫かれた!?
「おいっ!! 何してんだよ!!」
エキストラに詰め寄る飛島。
しかし、
「キェイィ!!!」
ズバッ
飛島の大きな体が、もう一人の男に袈裟懸けに斜めに斬られた。血がほとばしる! やめろっ! やりすぎだっ!!
しかし、声が出ない。
倒れた二人。いい奴ではなかった。だが、殺されるほどの悪人でもなかった!
「おみゃーたち! 今川のモンか!?」
えっ!? 今川? 何言ってるんだ?
「違う! 北陽高校の二年生です!」
「はぁん? 何言ってんだ? あやしいのう!」
「この桶狭間にいる者など、我ら織田か今川の者しかおらん!」
ええっ!? 桶狭間? 何言ってんの?
「もうええ。殺してまおう。」
「娘っ子がいるわ。売って足しにせわ。」
そう言うと二人組は、ギラリと白刃を俺に向けてきた! 本気だ! 俺を殺す気だ!! このままでは殺される!!
何か武器になるものは!
俺は必死で周囲を見回すと、棒きれを見つけた。こんなものでも無いよりましか。
小学校の頃を思い出し、正眼の構えで相手と対峙する。だが相手は真剣。まともにやり合っては勝ち目はないかもしれない。
「気品のある態度で全力で」
俺は子どもの頃の教えを思い出した。大会では一度も入賞することすらできなかったが、やれるだけやるしかない!
覚悟を決めた俺。
「うぉおおおおおっ!!」
俺は斬りかかってきた二人に立ち向かった!
身長はクラスの中でも高い方で180cmはある。相手は150cmほど。相手の刀をかわしながら何とか体格でできる所まで押し切る!
だが相手は本物の侍のようだ。息を合わせるように二手に分かれ、俺を前後左右から狙ってくる。
だめだ! このままでは…… 殺されるっ!!
そこへ俺と侍二人の間を割りこむように、意外な乱入者が現れた!
馬だ!
そして馬に乗った武士だ!
猛烈な勢いで突っ込んできた騎馬武者。俺はさっと紙一重で避けた。二人組も同様だ。
そのまま走り去るかと思いきや、馬が一気に態勢を崩した!
ドシャッ!!
馬は深手を負っていたのだろう。倒れ込んだ後は動かなかった。
だが、馬から振り落とされた武士は地面に叩きつけられなかった。
いや! それどころか身をクルリと回転させ、軽やかに地面へと着地した! 恐るべき身体能力だ!
その武士の姿を見るた。
顔を白く塗り、眉は公家のような麻呂眉だ。煌びやかな鎧を身に付け、所々に傷がある。
「おおっ! 大将首じゃ!」
「今川義元じゃ!!」
えっ!? 今川義元!?
よくバカ殿みたいな顔をしていて間抜けと言われる武将?
足が短くて馬に乗れなかったんじゃなかったっけ?
しかし、それとは全く違う精悍な顔立ち。それに先ほどの身のこなし。とても俺の知っている義元とは思えない。
「我は織田家馬廻、服部小平太!」
「同じく、毛利新介! その首貰い受ける!」
二人は一斉に、義元に討ちかかった!!
今川義元は「織田信長に奇襲を受けて殺された間抜け」として描かれることが多いですが、近年ではその人物像が大きく変わっています。
今川氏親の三男として生まれ寺に預けられた義元。相次ぐ兄の死により1536年頃還俗し、母違いの兄玄広恵探との「花倉の乱」を勝ち抜き、混乱していた後継者争いを制します。
その後は武田・北条といった強大な相手に囲まれながらも二十年に渡って勢力を拡大。宿敵三河の松平氏をもほぼ傘下に収めました。「海道一の弓取り」の異名は伊達ではありません。
「馬に乗れず輿に乗っていた」は、将軍家を継げるほどの家格を示し優位に立とうとしたという説。「公家のような顔」は、当時の上流階級の嗜み。僧上がりでしたが、武家の棟梁として剣術修行もしていたと思われます。
金山開発、東海道を使った物流の整備、戦国家法「今川仮名目録」を追加する形で「仮名目録追加」を定め領地の安定化を図るなど、国づくりを成功させています。
本作品を書く原動力となった一人でもあります。
よろしければ拙著作者の別物語「佐渡ヶ島から始まる戦国乱世」第百二話 ~蠢く者達~ をご一読いただけましたら幸いです。
https://ncode.syosetu.com/n1637gb/102/
※追記
本文よりも後書きが長い時があります\( 'ω')/!
飛ばしてくださっても大丈夫です!!