後編【勘違い】
男衆とは逆方面の駅へ歩く、赤と白の人影。
その二人は、とある『依頼』を先ほど終えて。
その成果、バレンタインの真実について話していた。
─「ねぇ、協力して────」─
「まさか千秋が蒼太にチョコを渡すことの協力を依頼してくるとはね」
「もう志保ちゃんそればっかり」
「だってあんなやつのどこが良いのよー?」
「それは言ったでしょ『カッコ悪い人』が好きだって」
「まぁ確かにアイツはカッコよくないけど⋯⋯」
「そうじゃないよ。七海さんはね、大変そうな掃除のおばさんを手伝って一緒に掃除をするの」
「あー⋯⋯なんかやりそうねアイツ」
「窓際に見つけたポイ捨ての缶を見過ごさないで拾うの」
「拾うまでに変な動きしてそうね」
「それに、誰も私を助けてくれない時。普段あんなに威張っている人達が、小さく隠れている時に。七海さんだけは違うの」
「それが本物ってことね。あーあ、蒼太には勿体ないよこんないい子!」
「お陰様でちゃんと『本命』の手作りチョコ渡せましたっ。今日は本当にありがとう志保ちゃん」
「どういたしまして。でも私だってアキラ君にチョコ渡せたし、あれが本命なのも嘘じゃない。お互い大成功ね」
「そうだねっ!」
これが、志保から蒼太への『依頼』の真実。
志保がアキラにチョコを渡したかったのは決して嘘ではない。
嘘ではないのだが、真実でもなく。
始まりの依頼は千秋から志保へ。
『蒼太にチョコを渡すことへの協力』こそ本来の依頼だったのだ。
千秋は蒼太へ、志保はアキラへ渡したいのならば。
「私が蒼太に『依頼』をすればいい。我ながら上手くいったわね」
「志保ちゃん天才っ。ばっちりでした!」
志保は『千秋の依頼』に従って正直に蒼太に質問をする。
しかし蒼太は『志保の依頼』に従ってアキラに話を振る。
こうすれば千秋は蒼太の、志保はアキラのことを間接的に聞くことができる。
逆にアキラから話が始まった時は『ついで感』を出して蒼太に振ればいい。
しかしそもそも──
「なんでそんなにバレたくなかったわけ? 千秋なら渡せば絶対OK貰えるのに」
「そうとは限らないじゃん! きっと昼間の人達なら大丈夫なんだとは思うけどさ、七海さんは違うもん」
「だからこそ好きなんだもんね。たしかにアイツ『貰っても別に』みたいな雰囲気出してるかも」
「でしょー! だから貰って嬉しいかとか手作りは重くないかって聞きたかったのっ」
「乙女心ね。でも映画の話はかなり盛り上がってたじゃない」
「あれは私も映画好きだったから⋯⋯それに同じ趣味なら気が合うかなって」
「千秋にしては興奮してたもんね。いやー良かった良かった」
千秋からの依頼を見事完遂した志保。
蒼太は志保の『依頼』を遂行していたようで、実のところ志保に上手く操られていて。
つまり、今日の会を準備したのは蒼太だが、あの状況をセッティングしたのは志保であり。
気を使って蒼太と千秋の席が斜めになるように座ったのも志保であり。
そして──
「あのバカ、私からの贈り物──千秋のLINEにさっさと気付きなさいよ!」
ちゃんとチョコレートに代わるプレゼントまで『もう渡していた』のも志保だったわけだ。
「わざわざ写真撮ってグループ作ったんだから、早く千秋にLINE送りなさいよね」
「七海さん気付くのかなぁ? あんまりそういうタイプに見えないけど⋯⋯」
「たぶん蒼太は一生気付かないタイプね。アイツ自分のことはてんでダメだから。でも、アキラ君はちゃんと分かってるはず」
「アキラさんが?」
「彼途中から千秋が蒼太のこと気にしてるの気付いてたからね」
「えっ嘘!? あっ──ねぇ志保ちゃんLINE来たっ」
「おっさすがアキラ君。なになにー?」
【──────────────】
そう、さすがのアキラである。
千秋の真実を読み切り蒼太にチョコを開けるよう促す。
入っているのは当然読み通り『手作り』のチョコで。
「ってことは『本命』じゃん蒼太。やったな!」
「えっいやそんな⋯⋯俺とアキラのを間違えたんじゃないか?」
「ちゃんと箱見てみろよ。『To Souta』って書いてあるだろ」
「本当だ⋯⋯ってことは俺に? でもなんで──?」
「そりゃ『カッコ悪い人が好き』だからだろ」
「それのどこが当てはまって──」
──いや。
思い当たる節がない、とは言えない。
ならばあの『うふふふ──』は変に思われていたわけではなく。
俺の行為を肯定的に捉えていてくれた、ということなのだろうか。
「じゃあこれ──本命ってことでいいのか?」
「千秋さんがそう言ってただろ」
「本命ってことは──そういうことでいいのか!?」
「そういうことでいいと思うぜ」
「──────マジか。⋯⋯マジか!?」
こうなったらいいのにと、夢みたいに漠然と考えたことはいくらでもあったが。
本当に貰ってしまったら、実感がなさすぎてむしろ怖いくらいだけど、しかし。
じわじわと胸の奥で喜びが溢れて来るのを感じる。
え、てかヤバくね。
綾乃さんとお付き合いですか!?
ていうことは詰まるところによると!?
「はぁー⋯⋯へぇー⋯⋯」
「考えすぎて思考停止してんぞ蒼太。ちゃんとルーラで帰って来い」
「あーパルプンテパルプンテ」
「それは俺の近くで使わないでくれ!」
「おう──アキラのツッコミで帰って来たわ。けどなんで俺のチョコレートが手作りだって分かったんだ?」
「そりゃ千秋さんの態度を見てだろ。『手作りが重くないか』、あれは明らかに俺じゃなく蒼太に聞いてた」
「えーマジ? よく分かるよなぁ本当」
─「⋯⋯七海さんも?」─
あの質問が蒼太に飛んだ瞬間。
全てを察した完璧超人は、千秋のサポートに回るべく。
多少不自然ではあったが、『蒼太の彼女』についての話を振り。
最後の『タイプの人』もそのまま千秋へ流し。
お会計でも『蒼太が千秋の分出せよ』という意味で逆だと言った。
「長年の戦いの甲斐あってか、そこら辺には敏感でな」
「あー⋯⋯──お疲れ様です」
「それより蒼太、志保さんからのプレゼント気付いてる?」
「志保からのプレゼント? そういえば、『もう渡してる』とか言ってやつか?」
「そうそれ。写真貼ったグループLINE、入ってるの誰?」
「そりゃ俺とアキラ、志保と──綾乃さん!?」
「やっぱり気付いてなかったのか。だからモテないんだぞ蒼太」
「えっお前まで言う!? ていうか綾乃さんのLINEあるくね!?」
「落ち着け蒼太。んで折角本命貰ったんだからLINEしてみろよ」
「おっおう、そうだな⋯⋯」
震える指で文字を打つ蒼太。
その横で、志保から本命だと名言されつつチョコを受け取ったこの男。
たしかにあのグループLINEは、蒼太に千秋のLINEを教えるためのものだが。
「志保さんちゃっかり俺のLINEもゲットしてるんだよなぁ」
その抜け目のなさに、さすがのアキラも関心しつつ。
─「カッコイイ人にはそれだけの理由があるの」─
君がカッコイイのは内面が素晴らしいからだよ、というメッセージを思い出して。
「志保さんなら、アリかもね」
「なに独り言言ってんだよアキラ。それより文章これでいいかな!?」
「なんでもいいだろ。とりあえずチョコのお礼は言っとけよー」
「お、送ります!」
【本日は誠にありがとうございました。いただいたチョコレートは大切に食べさせていただきます。】
「いや店員かよ!!」
「なんでもいいって言ったじゃんか!!」
「いや言ったけどさ⋯⋯じゃあその後にデートのお誘いも入れとけ!」
「デデデデデ、デート!?」
「あー俺の言い方が悪かった。二人とも映画好きなんだろ? だったら映画見に行きましょうでいい」
「お、おう。映画だったらまぁ、大丈夫そうだ」
「何に対して大丈夫なんだよ⋯⋯早く送れって」
「お、お、送ります!」
【もし良かったら、今度映画見に行きませんか】
「断られたりしねぇか⋯⋯?」
「あの話の感じからして絶対大丈夫だよ」
「だといいんだけど⋯⋯うおっ返信来た!」
「さてなになにー?」
【是非行きたいですっ。3月14日なんてどうでしょう?】
「「お返し考えねぇとだな────」」
─ハッピーバレンタイン!!─
バレンタイン企画作完結です!
この結末、皆さんは読めましたか?
それぞれの思惑によるクロスしたコンビネーションは楽しんでいただけたでしょうか。
上手く『勘違い』していてくれたら嬉しいです。
自分はまだこの『小説家になろう』に投稿したての新人ですので、評価やコメントなどいただけたら励みになります。
ではまた、他の作品でお会いしましょう!