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そのなな お兄ちゃんロックオン!

今回は音成奈芝美さん視点です。

ちょっとだけ過去に戻ります。


あと、評価とブクマありがとうございます。

純粋に嬉しいです。



霊安室から出て、私は学校へと登校する準備をするために

一度家に帰らねばならなかった。

着の身着のままの部屋着にパーカーを羽織っただけで出てきていたので

今は寝起き時の状態となんら変わりないのである。


もう一限目は完全に諦めた。

いや、二限目もおそらく無理だろう。


まあいいや

どのみち行ったところで

こんな精神状態では勉学になんか身が入るわけもないし

そもそももう私はスポーツ推薦により

皆よりも一足先に高校進学は既に決定しているのだ。


つまり、今の私にとって学校生活はただの消化試合なのである。

まだ受験が終わってない他の生徒達には悪いんだけど。


「…………折角、春からは伊吹と同じ学校に通えると思ってたのになあ……」


ぐすんと鼻を鳴らし溜息をつきながら

リノリウムの廊下を少しだけ足早に歩いていたら

不意に、視線を感じた。


「……?」


なんだろう? と思い立ち止まり辺りを見渡すと

車椅子に乗った少女がはたと目に止まった。


どうやらこちらの様子を伺っていたようだが

今はそっぽを向いている。

じっと様子を伺っていると少女はまたこちらにそろりと視線を移してきた。


当然ではあるが、それほど間を置かずにやがてこちらと視線が交差する。

瞬間、少女は慌てて視線を逸らした。


そして、この場をいそいそと離れようとしているが

車椅子の操作に不慣れなのかなんだか動きがぎこちない。

それでもなんとか一人でドアを開け、外へと脱出を試みようとしていた。


……いったい、何なんだろうか?


「……あっ!」


でも、そこは、確か私がここに入って来た時の職員通用口……

時間外で正面玄関がまだ開いていなかったので

病院の関係者であろう人の後をついて行って勝手に入ってきたのだ。


けれど、ここは……駄目だっ……!


「危ないっ!」


「……え?」


私は掛け声と同時にダッシュした。

次の瞬間、がたんと、車椅子の前輪が一瞬で姿を消す。


「うえっ!? えええっ!?」


彼女は、そのまま頭から地面へとダイブする。

そう、この出入り口は階段となっている。

車椅子はもとより身体の悪い患者が出入りするようには作られていないのだ。


「うぁ、うあああっ!」


がしっ!


「ああああああああああぁぁぁぁぁ~~~っ! 

……………………て、…………あれ?」


間一髪!

車椅子が脱輪し、空中に投げ出された少女をどうにかキャッチに成功する。

私は安堵のため息を短く吐き出すと同時に腕の中の少女に声をかけた。


「……お嬢ちゃん、大丈夫?」


「…………ひぃっ!!」


びくりと、まるで仔猫が毛を逆立てて飛び上がったかのようなリアクション。


「…………」


捕食されたとでも思ってるのかな?

別に取って食うつもりは無いのだが。


「だ……だいじょう、ぶ……です! 

あ、その……えと……あ、ありがとうございますっ!! た、助かりましたっ!」


「……!」


驚いた。

遠目でも思ってたんだが

間近で見るととてつもなかった。

とてつもない美少女であった。


透き通るような白い肌。

流れるようなサラサラのロングヘアー。

曇りのない宝石のような大きい瞳。

これ以上ないほどに

絶妙に均整の取れた顔立ち。


まるで無菌室から作られて出てきたばかりのお人形さんのように

一切の曇りのない、完璧という言葉がふさわしいほどの美少女であった。


それに、なにこれ? 甘い……ミルクのような香りがする。

まるで…………そう、生まれたての赤ん坊の、ような……?


彼女は私の方を再度ちらりと上目遣いに覗き見る。

しかし、目が合うとまたしてもサッと逸らされてしまった。


「…………」


そんなに私、怖そうに見えるのかな? ちょっと傷ついたんですけど!


「あ、あの…………助けてもらって申し訳ないのですが

そろそろ降ろしてもらっても良い……ですか?

なんだかその…………は、恥ずかしいのでっ!」


「あ、ああ……そういや……」


よく考えたら私、お姫様抱っこをしたまま仁王立ちしてる状態だった。

確かにこれはちょっと恥ずいかも。


彼女も赤い顔をしたまま顔を伏せている。


「じゃあ、ちょっと降ろすけど、肩貸してたら立ってられる?」


「えと……な、なんとか……」


流石に廊下の地べたに座らせるわけにもいかなかったので

なんとか片手で支えて立ってもらって

空いた方の手で脱輪している車椅子を引き寄せた。


「ふんっ!」


ちょっと重たかったけど、なんとかなった。


「……わあ、力持ちですね! 流石なじ……いえっ!

今のオ…………わたっ、私には、絶対無理ですっ!」


「まあ、それなりに鍛えてるからね

これくらいどってことないよ……ほい!」


廊下に戻した車椅子に

ひょいと彼女を持ち上げて、そのままぽすんと座らせた。


「あ、ありがとう! な……お、おねえちゃんっ!」


「いえいえ~、これからは気をつけるんだよ? お嬢ちゃん」


相変わらず目線は合わせてもらえないが

きちんとお礼も言ってもらえたし、まあいいか。

きっと人見知りの激しい子なんだろう


けれど、この女の子…………どこかで……?


私は何故か見覚えがあるような気がした。



じい~……



「……そ、それではこれでっ! 失礼しますっ!」


「あ、ああ、それじゃあ、お大事にね」


少女は挨拶もほどほどに、すぐに車椅子を走らせ去っていった。

う~ん、やっぱり最後まで若干避けられてる感があったのが、ちょっと悔しいな。


後ろ姿を見送りながら、次会うことがあれば

今度はもっと愛想よくしてみようと心の中でプチ反省会をしてみるのだった。


「…………あれ?」


……確かこの先は、もう病室などは無かったはず。

他にもこの少女が利用するような部屋は見当たらなかったと思う。


ただの、散歩だろうか?


でも……


この先にあるのは……


「!」


――そう! 霊安室のみだ。


「…………伊吹の……関係者? ……あっ!」


そうだ! 見覚えがあるはずだ!

あの美少女は、他の誰でもない。

彼女は伊吹に…………どこか、伊吹の面影があったからだ!


「親戚……なのかな? ……いや、でも……」


何故だか無性に気になった。


霊安室にはまだあやめちゃんが残っている。


「……もう授業は、お昼からでいっか……」


私は後をつけることにした。




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