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そのよん お兄ちゃんの幼馴染





「伊吹っ!!」



お兄ちゃんの名を呼ぶ声が聞こえた。


その声の主に心当たりがあったので

私は母や先生のいる部屋から出て

声のする方、病院の待合ロビーに赴いた。


まだ開院前の時間帯ではあるが 

既にもう当直以外の事務員や看護師さん達も

出勤してて準備を始めているようだし、

周りに迷惑をかけないうちに

騒ぎの種は早々に摘み取っておいた方が良さそうだ。



案の定、そこにいたのは見知った顔であった。



「伊吹っ! あ! あやめちゃんっ!? 伊吹はどこ!?

朝、あんたんちに行ったら誰もいなくて! 

そしたらお向かいのお、おばさんが……

伊吹が、伊吹が事故ってここに運ばれたって、言うからっ!」


「……あ~……、奈芝美なじみちゃん…………あのね……」


この子は私の同級生。

小学校に上がる直前くらいにお隣に引っ越してきた。

以来ずっと一緒にいる腐れ縁、所謂幼馴染の女の子である。


名は音成おとなり奈芝美なじみ

ショートボブの髪の毛を普段はいつもポニーテールでまとめている

背は高めで、どちらかと言えばカッコイイ系のスポーツ女子だ。


……ただ、私自身はそんなにというか、

実は、あんまり親しくは無いんだよね。


ちっちゃい頃から彼女がずっと付き纏っていたのはお兄ちゃんの方で

いつもあーだこーだと理由をつけてはお兄ちゃんを引っ張り回し

私とお兄ちゃんとの貴重で大切な時間を奪ってきた。


おそらく、というかこれバレバレだよね!


彼女は、お兄ちゃんを狙っている雌猫の一匹なのである。


もちろんそれでも表面上は仲良くしている。

だって一応私はお兄ちゃんの妹なんだから。


「なんですぐに言ってくれなかったの!? お隣なのにっ!」


「……いや、あたしも事故現場から直行だったから……ごめんね」


「それでっ、どうなったの? 伊吹はっ!?」


……あれ? でもよく思い返してみると確か

あんたの母親にもちゃんとウチのお母さんが

「お隣さんにも伝えてからここに来たから」って言ってたよ?


「…………」


……ああ、どうせあんたのことだから爆睡かまして親が出勤しても

遅刻ギリギリまで起きて来なかったんでしょうよ。


私の同級生だからってことで、

いつもお兄ちゃんに気にかけてもらってて

お兄ちゃんは「男が女の部屋には入れないから、あやめ頼む!」って

渋々私が毎朝起こしに行ってあげてたのに

今日はいつになく誰も起こしに来なかったもんだから文句でも言いにウチに来てたのかな?


幼馴染キャラとしては行動が逆だと思うんですけど?

お兄ちゃんを狙ってるんなら普通そこはあんたが起こしに来る役じゃないのかな?

テンプレ通りに動いてないのは職務怠慢だと思うのですが、

皆さんも、そうは思いませんか!?


「…………」


誰に向かって私は訴えているんだろう?


……まあ、それはいいとしても!


前から思ってたけど何? その”伊吹”って、呼び方? なんで呼び捨てなの?

お兄ちゃんはいちおー先輩なんだけど!

なのになんで同級の私は”あやめちゃん”なのよ?

もしかして、お義姉さんぶってるのかな? もう嫁さん気分ですか?

そんなの私、認めた覚えないんですけど!


……あ、なんかちょっとイライラしてきた。


最近少し調子に乗ってきたのか

お兄ちゃんへのスキンシップも過激になりつつあったので

ストレス溜まってきてたんだよね。

ここらでちょっと一発かましてやろうかなーとも思っていたのだ。



「ちょっと! なんとか言ってよあやめちゃんっ!」



何時の間にか、私は彼女に胸ぐらを掴まれ首をぐわんぐわん振り回されていた。



「お、おおおおお兄ちゃんは…………死にました!」


「えっ」


ピタ!


っと首振り運動が停止する。


「……………………ぐふっ!」



丁度よく、これ以上ないであろう一発を

かますことができたのであった。(今、自分自身にもブーメラン突き刺さったけど)



「……………………死んだ?」


「……即死、だそうです」


「……………………」


反応が無くなった。 ついでに彼女の瞳からハイライトも消え失せた。

彼女の目の前を手でひらひらさせるも全く微動だにしない。


「…………」


しばらくそっとしておくか


私はお兄ちゃんの病室に戻ろうとした。


が、一歩が踏み出せなかった。


背後から私の両肩に、彼女のショルダークローが決まっていたからだ。


ギリギリギリ……


「……イタ、イタイ! イタタタ!

あ、あのう……これほんと痛いんですけど!」 


この馬鹿力め! これだから体育会系女は!


「…………嘘……よ」


「…………事実、だよ」


まあ、気持ちはわからなくはないけど


「信じない! だって! 昨日だって

”また明日”って言って別れたのにっ!」


「…………」


「お互い、家に入って、ご飯食べて、部屋の電気が点いて勉強して、

お風呂に入って、そんでまた部屋に戻って来て就寝消灯するとこまで!

ちゃんと、最後まで見てたのに!」


ええ……、そこまで観察してやんのですかこの子は

お隣さんじゃなければ……いや、やっぱこれ普通にストーカーじゃあ?


「どうして事故なんて……なんで、外になんかいたのよっ!?」


「……っ!」


ズキッ! と


胸が、痛んだ。

だって、その原因は、実は私にあるのだから。


「…………」


「……………………会わせて」


「……え」


「霊安室、あるんでしょう? 伊吹に、会わせてよ!」


「そ、それは……」



「いいよ」



「「!」」


声のする方にばっと振り向くと

そこには、主治医の先生が居た。


「…………で、でもっ、お兄の遺体は……」


確か、損傷が激しくて


「…………ただし、後で気分が悪くなったとしても

僕は責任持たないからね。 それでもいいのなら、だ。

どうやら、見なきゃ納得してもらえないみたいじゃないか

丁度いい、二人で見れば少しは紛れるだろう

あやめちゃんも、一緒に見てくればいい」


「……えっ、あやめちゃんも、もしかして、まだ……?」


「…………」


見るつもりだった。

見なきゃいけないと、思っていた。

でも、いざ許可が下りると、とたんに膝がガクガクと震えだし

まるで身体全体が鉛にでもなったかのように、一気に足取りが重くなった。



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