表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

そのに お兄ちゃんは鬼でした?

二話目です。

続きはまだ書けてませんので後日となります。



「代わりに私の方から説明いたしましょう」



主治医の先生が、混乱していた私達全員の収拾をつけるべく

落ち着いた口調で喋り始めた。


「まず、音小野伊吹おとこのいぶきくんについてですが……

残念なことに昨晩暴走トラックに撥ねられ、私の所に運び込まれた時には

既にもう、息はありませんでした。

一応蘇生を試みてはみましたが……おそらく、

ほぼ即死に近い状態だったかと思われます」


「ちょ、ちょっと待ってください! 

それじゃあお兄の、その、遺体は……どこに!?」


「……一応あるにはありますが、もはや直視に耐えられない状態で……

見ます? たぶん素人の方が見たらゲロ吐きますよ」


「!! …………そ、それでも……あた、あたしは……」


ちゃんと確認しないといけない。

じゃないと、たぶん私は一生引きずって生きてしまうことになるから。


「いや、だからオレ、生きてるぞ?」


そこで主治医の先生は、黙って右手のひらを前に出し、落ち着くように指示をする。


「……私が音小野さん一家の主治医を務めさせて頂いているのには

それなりの理由わけがあるのですよ」


「昔から、ここの先生にはお世話になってます。

もう先々代の今の先生のおじいちゃんの頃から」


そんなことを言うお兄ちゃんのパパだった? ママ


「いえいえ、貴女のご先祖様には随分助けられたと、

祖父から聞いておりますので、これはおたがい様ということで」


お兄ちゃんの家系はどうやらこの先生一家とは相当古い付き合いをしているようだ。


「そ、その理由とやらを、早く聞かせてください!

なんでこのちっこくて可愛らしい生き物が、お兄を名乗っているのかを!」


「……え? ちっこくて……かわいい……?」


そう言いつつ、少女は下を向き自分の身体を眺める。


「…………あ? なんだ、これ?」


ムニムニ


眼下にある自らの双丘を揉みしだき始める少女。


「……な! なんじゃあこりゃあーーっっ!?」


「落ち着いてください。 伊吹くん」


「お、おぱっ! ……おぱぱぱぱぱっ!?」


「え……ほ、ホントに……マジでお兄……なの?」


「コホン! まあ、結論から言いますと

音小野伊吹おとこのいぶきくんは、女の子として生まれ変わりました」



「「ええーーっ!?」」






◆◇






翌日の朝。


私たち母娘おやこはお兄ちゃんの処置が深夜遅くにまで及んだ為、

そのまま病院の空きベッドに泊まらせてもらっていた。


昨夜の主治医さんの説明によると

大体こういうことらしい。



音小野一族は遥かな昔

人とはまた違った種であったらしい。


それは、一部地域では鬼と呼ばれたり、悪魔と呼ばれたり

天狗とか、また一部では神扱いされ崇められたこともあったそうな……


しかし、それももう遠い昔のおはなし。

今では人と交わり混ざり、力も衰え

外見上も能力もほぼほぼ一般の人間とは見分けがつかなくなった。


しかしそれでも残っているものがあった。



その能力とは――――




音小野一族は、命を二つ、持っていたのだ。




男子として生まれた一族の者は

すくすくと育つ。

それはもう、すくすくと。


一般人よりもいい体格であることが多い。


現に、お兄ちゃんも身長は190以上もあり、

強面で周囲に一目置かれる恐れられる存在であった。

(けれど、本当のお兄ちゃんはそんなんじゃないんだけどね……)


実はこれ

身体内部で転生体を成長させるための基盤を作っている工程の一環なんだそうだ。

音小野の一族は、男として一度は天寿を全うするも、第二の人生がある。


そう! 身体内部で女性の転生体が既にスタンバイされているのだ。


つまりママはパパだったというのは、そういうことなのだ。


成人する前はまだハッキリとしたものはできていないらしい。


だけど一般の医療機関のレントゲン撮影などには

希に写り込んでしまう危険があるとのことだ。


そのため、他の病院には極力かかわらないようにしてるのだとか


お兄ちゃんは、トラックから私を護るために自ら犠牲になった。


外装部分、つまりお兄ちゃん自身は死んでしまったのだが、

その内部では突貫工事で目まぐるしく

たった一晩で次世代ボディが再構築されていたのだ。


しかし、である。


「伊吹くんが成人さえしていれば、

もっとちゃんと成長した女の子になってたんだけどねえ……

残念だけど、まだ、ちゃんと育ってなかったようだね。

一晩でがんばって作られたボディだけど、残念ながらタイムリミットだったね

これ以上死体のままで放置していれば、中身の方も危なかっただろう」


先生はそう言った。


つまり、完全にはいかなかったらしい

何がと言いますと、これから聞くんだけど……


「あやめー」


お兄ちゃんが呼んでる。

元だけど


まだ入院中で、ベッドから起きてくるのは許されていないのだ。

というか、これから徐々に歩く練習をしないといけないらしい

身体がピカピカの新品になったため、急に歩いたり走り回ったりはできないそうだ。

流石に赤ちゃんみたいなことはないらしいが、一応は基本動作からやり直しなんだとか


「な、なによ? お、お兄……」


「……すまん……そ、その……」


なんか、顔を真っ赤っかにしてモジモジしている。

もしかして……


「お……お……おしっこ! したい!」


「…………え、マジで?」


普通、寝たきりで入院する場合って、アレだよね?


「付けてないの? 導尿カテーテル」


そう、通常、術後寝たきりの患者さんなら問答無用で付けられる物。

尿道に管を通し、おしっこ袋を設置し、

そこに自動的に排尿されるという仕組みとなっている

はずなんだけど。


「そ、そんなの! 女の子になっていきなりつけられるかあー!」


どうやらお兄ちゃんは尿道に管を通されるのを断固拒否したようである。


「……はあー…………だったら、どうすんのよ?

まだ自力で歩くこともできないのに、このままおもらしするの?」


まあ、おむつをするという選択肢もあるのだが

それは結局おもらしとほぼ大差無い、ていうかおもらしだよね。

いくら幼くなったとはいえ年頃の女の子がおむつというのは……


「よし! じゃあ、おむつ、しようか?」


考えとはうらはらに

口をついてこの台詞が飛び出していた。


だって! それはそれで、背徳的ですごくいい!


「あ、あほかーっ!

普通にトイレまで、連れて行こうって考えにならんのかー!」


まあ、そうだよねー


「んもう! 仕方ないわね!

ほら、肩貸してあげるから、しっかりつかまって」


「ちょ、ちょっと待て!

あ、足だけじゃなく、腕にも力がうまく入らなくて……」


お兄ちゃんは必死に私にしがみついてきた。


あ! なんかすごい甘くていい香り……


たぶん術後、まだ一度もお風呂にすら入っていないこの新しい身体。

なのに、なんだこれ?


それに透明感ある栗色の腰付近まで綺麗に伸びたロングヘアー。

当然だけど、日焼けとかシミとか全く無い、瑞々しくて真っ白に綺麗な柔肌。

今は幼いが将来間違いなく絶世レベルまで行くであろうと

予想される、とっても端正な顔立ち。

パッチリ大きな目に澄み切った色素の薄いライトブラウンの綺麗な瞳。


完璧じゃん! 完璧な美少女じゃん! なにこれ絵に描いたようなやつー!


わたし勝ててる所一個もないよ!

あ、あった! おっぱいだけだー!(がっくし)


けれど、本当に力は弱々しくて……

おまけに、私よりも遥かに華奢で小柄で

どう見ても幼い妹にしか見えないし


もう、こんなのどう見てもお兄ちゃんじゃないけれど

これはこれでめちゃ可愛い……って! 駄目じゃん!!

私の野望、何処行った!?


……でも、こうなったらどうしようもない……よねえ……


「……でも、お兄、早く歩けるようにならないと

あたしも学校あるし、その間我慢するわけにもいかないでしょう?」


「う……まあ、そうなんだけど……で、でもでもおむつはやっぱ、むりー!」


「…………」


お兄ちゃんの喋り方ってこんなんじゃなかったよね

なんか、身体だけじゃなく精神も幼児退行してるのかな?


「まあ、突貫工事で一夜で作った身体だからね」


「「おわ!」」


いつの間にやら先生が背後に現れていた。


「そろそろトイレに行きたくなるんじゃないかと思って、様子見に来たんだよ」


ニコニコと笑いながらそう仰る先生。


「薬に利尿剤混ぜておいたからね」


「「おい!」」


酷い先生もいたもんだ。 わざとかよ!?


「カテーテルか、おむつかの選択を早く決めて欲しくてね

まさかあやめちゃんに頼むとは思わなかったよ」


せっかちな先生だね

いや、もしかしたらそれは単なる言い訳で

楽しんでるだけなのかもしれない。

現に今もニヤニヤしてるし。


「……でも、先生

さっき言ったことって、どういうことですか?」


「……ん? ああ……さっきも言いかけたんだが

伊吹くん……いや伊吹ちゃんは

伊吹くんの脳みそからの情報供給が完全じゃなかったんだよ」


「……え? それってどういう……」


「一夜にして身体を完成させたと言っただろう?」


「え、ええ……」


「……は、はやくしてくれっ! ……も、漏る……」


「そもそも、女の伊吹ちゃんの脳みそは

男の伊吹くんの脳みそとは物理的に別物なんだよ」


「「えっ?」」


「普通は、伊吹くんが成人へと成長していく過程の中、

体内で伊吹ちゃんの身体が出来上がっていく工程で

ゆっくりと伊吹ちゃんの脳に伊吹くんの脳のデータがコピーされ送られていくんだ」


「こ、コピーなんですか?」


「脳そのものも若返らす必要があるからね

でないと二人分の寿命を全うできないよ。

それに、男と女では脳の構造も違うし、

一度フォーマットしてからインプットしなおす必要があるのさ」


確かに、それに脳を共用しようと思ったら頭部はそのまま再利用ということになる

つまり、事故で損傷してたとしたらもう既に再起不能となっていたことだろう


「伊吹くんは事故の際、頭部にも損傷を受けていた」


「……え?」

「…………え、ええ……」(ぷるぷる)


「そして、伊吹ちゃんの身体も十分にできてなかった」


「……つ、つまり?」


「心身共に不十分なんだよ。 

知識もどこが欠落しているのか現時点ではハッキリとはわからないが

おそらく伊吹くんほどの学力は期待できないだろう……

精神レベルもおそらく、中途半端にしか伝達されていない

身体的特徴から判断するに、だいたい10~11才程度と言って差し支えないんじゃないかな?」


「そ、それはもう、身体だけじゃなく、中身……心も元には戻らないってことですかっ!?」


「現時点ではそう、なるね。 また育てなおし、だよ」


そ、そんな! 外見はどうあれ

せめて心だけでも寄り添い

添い遂げることができたなら

それで我慢しようかとも思いかけていたのに……

これじゃあもうお兄ちゃんとは精神的にも恋人に、なれないのっ!?


「うあーーーーっ!」


「……あっ! ああっ!?」


「ありゃー、やっちまったね、伊吹ちゃん……ふふ」


「…………」


いや、あんた絶対ワザと話を引き延ばしたでしょ!




こうしてお兄ちゃんの初めての女の子のおトイレは粗相に終わったのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ