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夢のその先へ  作者: zzz
【再会の章】
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第4日 彼女と俺の事前準備

 


 夜の闇は深く濃い……。



 夜明けの暁すらも顔を出さない深夜。


 もぞもぞと布団の中で深い眠りについてる筈の彼は徐に布団を捲り起き上がった。




「……眠れない…とか…俺はガキか……」



 頭を抱え自分の挙動不審さを自嘲したロイドはまだまだ暗い空を窓から見上げ深い溜め息を吐く。


 ――久し振りの幼馴染との再会に心を高ぶらせ過ぎたロイドは期待と嬉しさに遠足前の子供のように寝付けなかったのだった……。

















 ガヤガヤと賑わうのは騎士団本部内の食堂。


 広い食堂内にはいくつもの長机が並び、多くの騎士達が入り乱れ各々気安いメンバーと共に朝の食事を囲んでいた。


 入れ代わり立ち代わり、食事をしに来た者と食事を終えた者が行き交う食堂前でロイドは本日の献立が書かれた看板を見つめていた。




『本日のおすすめ!』と銘打たれた定食は日替わりで内容が変わる。

 今日は豚肉の煮込み料理と魚の煮付け料理の2種類だった。


 何時もならば仕事を考え腹に溜まり精が付く肉料理にする所だが今日は久し振りに魚でも食べようか、とロイドは本日の朝食のメニューを決めて食堂に足を踏み入れる。




 カウンター状の配膳台の前に並び頼んだメニューといつものように数品のおまけを貰っていると背後に感じた気配。


 見慣れた制服の袖を視界の端で確認すればロイドは軽く笑みを浮かべた。



「おう!何だロイド珍しいな今日は魚か?」


「あぁ、夜勤お疲れ。今日は魚料理の気分だったからな――皆もお疲れ」



 ガシっと肩に掛かる体重。

 手元を覗き込んだのはよれた制服を着崩した大柄な男。

 馴れ馴れしく肩を組まれた事を嫌がるでも無くロイドは労りの言葉を返した。


 他にも数人の気配に男の腕を外しつつ振り返れば後ろにはこれまた顔馴染みの仲間達が。


 全員が黒檀騎士団所属の同僚達だった。



 勤務交代をした後なのだろう、眠さに欠伸を漏らしながらも配膳台に並び各々が腹を満たすメニューを注文している。



「あれ?でもロイド先輩今日はお休みの日じゃなかったですか?」


「そーいや珍しく朝早いな」



 休みがある日は基本的に部屋から出ないロイドの姿に目を丸くするのは小柄な体躯の少年。

 それぞれがロイドを囲む形でテーブルに座るが後輩の発言にロイドはつい苦笑を浮かべた。



「俺だって休み日でも早く起きるさ」



 現在は朝の6時。

 城で働く者たちの活動時間であり、夜勤などの騎士は勤務交代して眠りに入る時刻だ。


 早起きにしてもまだまだ早い時間帯。


 そんな時間に現れたロイドは珍しく、同僚達の好奇心を刺激する。



 騎士団に入ってからロイドは余り自分の生活リズムを崩す事がなかった。

 仕事の時は夜明け前に起き出し朝の鍛錬をし汗を流してから朝食を、出勤してからは一日中勤務に励み、片手間に昼食と夕食。そして勤務終了後は軽く運動をしてから就寝。

 逆に珍しい半休の日などはずっと読書ばかりして部屋に篭っており外に出る事がない。


 騎士の仕事は予定通りに行かない事の方が多い。

しかしロイドは面白みもないと揶揄されるそのリズムを乱す事なく坦々とこなし、そして急な出動要請などに備え余り騎士団の敷地内から出ないようにしていた。


 そんなロイドが滅多に無い休日に、否、ほぼ無かった同然の一日休みの日に朝早くから部屋を出ているとは一体何があったのか。



 黙々と食事を進めるロイドを尻目に四人の同僚達は互いに目配せした。





「――なんだ?もしかしてまた誰かと休み交代したのか?」



 取り敢えず疑問の口火を切ったのはロイドと長年共に働く同僚。

 その言葉に他のメンバーは納得の表情を浮かべた。



 いつもいつも誰かしらと休みを代わり働くロイドは黒檀騎士団内では有名な事だった。


 皆が皆、またか。と呆れたような表情と心配の色を瞳に乗せるがロイドは苦笑を深めて否定する。




「残念だが違う、今日はちょっと大事な用事があってな……悪いがそろそろ行くから先に失礼する」


「え!?外に出るのか!?」



 あのロイドが、休日に、街に!?



 そんな叫びがありありと表情に浮かぶメンバーにロイドは軽くため息を吐く。



「俺だって街にぐらい出るさ。それと外泊届けも出してるから今日、明日は帰らんぞ。何かあれば伝令を飛ばしてくれ」



 最後の言葉はロイドらしいというか、騎士団内でも第三席という立場柄、責任感がある発言だがそれを最後にロイドは席を立ち食堂を後にする。





「――おい」

「大事件じゃないか?」

「あのロイド先輩が外泊って……」


「……もしかして女、とか?」




「「「はぁあああ!!!?」」」




 心なし上機嫌なロイドの後ろ姿に残されたメンバーは顔を見合わせ叫び出す。



 こうしちゃいられない。




 目配せだけで通じ合うその心。

 夜勤明けの疲れも何のその。

 この時、【ロイドをひっそり見守り隊】の結成が成されたのだった……。














 *







 そんな食堂に置いてきた同僚達が結束している事など露知らず、ロイドは足早に自室に戻り手早く荷物を纏めた。



 動きやすいシャツにズボン。足は黒のブーツ。もしもの場合に腰には細身の短剣を忍ばせ、身分証明のドッグタグを首から下げる。


 ドッグタグには騎士の証明と所属騎士団の紋章が名前と共に刻印されていた。


 財布をズボンのポケットに突っ込み、軽く洗面所で身嗜みを整える。

 短い髪は整えるのに楽で騎士になってからは常に同じ髪型に整えていた。寝癖を確認し少し伸びた髪の毛に今度切ろうかと思いながらかき上げた前髪。

 鏡に映る両耳には琥珀と青いラピスラズリの石が付いた耳飾りが朝日を浴びてキラリと煌めく。

 その蜂蜜色の宝石はロイドの心の拠り所だった。


 その色を宿す瞳を思い出し彼は目を細める。

 確かめる様に触れたそれにロイドは無意識に口端を上げた――――







「おはようございます」


「あらあら、ロイドさん!どうなさったの?」


「朝早くにすみません。今から街に下りるので外泊許可の届け出を」


「ああ、話は聞いていますよ。はいこれにサインを」



 基本的に寮住まいの騎士は外出や外泊をする時は必ず届け出を出さなければならない決まりになっていた。

 すでに黒檀騎士団長直々に許可を貰っているが律儀に決まりを守るロイドに寮母は微笑ましげに笑みを浮かべた。




「――あの幼馴染の子に会いに行くんですってね?」


「はい。何か入り用のものがあれば買ってきますが……」


「ふふふ、良いのよ。楽しんで来てね」


「……ありがとうございます」



 幼馴染との間柄はそれとなく昔、話したことがある。


 まだ若かった自分を見守ってくれていた寮母は死んだ母親代わりに親身になって助けてくれた事も少なくない。


 そんな彼女からの見送りは照れくさくて俯くロイドだがそんな彼女の気持ちが嬉しいのも事実でついつい笑みを浮かべる。





「それでは後をよろしくお願いします。何かあれば団長が場所を知っていますので伝令を飛ばして下さい」


「えぇ分かったわ」



 最後に寮母にも緊急事態の連絡先を教えてロイドは寮を出た。


 そんなロイドの後ろ姿を見つめる四対の眼にも気付かず彼は街へと下りていく……。








 *



 城下街に下りればそこは既に賑やかな活気に溢れていた。

 休日は外に出る事が無いロイドだが騎士団の仕事で何度か街を見回った事がある。


 迷う事なく街の中に入り大通りへと出ればそこは様々な店が軒を連ねる商店街。


 客寄せの声が行き交う通りは朝から商人や主婦達が買い物の為にごった返していた。




「さて、土産は何がいいか」



 通りには商店は勿論、屋台や露店がずらりと並ぶ。

 肉や魚、野菜の店。軽食やお菓子の屋台。装飾品や骨董品の露店。


 ぐるりと見回し幼馴染に土産物をと思うが、さてどうしようか?と首をひねる。



 再会の喜びに花が良いか、装飾品が良いか、それとも甘いお菓子か、いやしかし……女ではあるが食い意地が張っているアイツならば……。



 故郷であるこの国に帰って来たのはつい先日だろうと予想する。

 手紙を受け取った一昨日。その時点で国に程近い街道の町にいる事を仄めかしていた手紙を思い出し、そこからの道のりの日数と手紙が着くまでのタイムラグを逆算。




「やっぱり食べ物の方がいいか」



 一つの事に集中してしまいがちな幼馴染は食事を抜く事が多々あった。

 それを無理矢理食事を取らせる役目をしていた小さな頃の日々を思い出し笑う。



 どうせ店の開店準備でろくに食べていないだろう。




「アイツは確か……肉派だったか」



 幼馴染の好みを思い出し歩みを進める。




 一緒に居たのはたった三年だけ。

 しかしその間はずっと一緒にいた日々を思い出し、ロイドは足取り軽く肉屋へと進んでいった……。

















 *



 そんなロイドの後を付けるのは四人の男達。




「アイツ肉屋に行ったぞ」

「女の所に行くんなら普通行くか?」

「普通は花屋とかだよなぁ?」

「あ、でも調味料類も買ってますね」




 建物の影から気配を消してロイドの買い物風景を見つめる。




「次は野菜?」

「あ、でも果物も」

「それで小麦にパンに……酒?」

「何?アイツ料理でもするのか?」




 商店街の並ぶ店を次々にはしごするロイド。

 その両手は買った物で埋まっていき両手に抱える程になっていた。 



 女の所に行くんだと思えば食料品を買い込む彼に後を付ける面々は首を傾げる。



「あれじゃないか?カノジョに飯作って貰うとか」

「その買い出しって事ですか?」

「有り得なくはねぇな」

「……羨ましぃ」


「「「同感」」」




 ごった返す大通りに気配を殺す彼らは気づかれる事が無かった。

 それは流石は精鋭中の精鋭である黒檀騎士団か、と言う所だがその実力を発揮する所が如何せん情けなく思える。

 それぞれがカノジョ無しの寂しい独り身男達の呟きが路地裏に情けなく響いたのだった……。











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