第3日 俺と彼女の休み希望
朝靄がまだ薄っすらと漂う時間帯。
朝日が顔を出し、差し込む光に目を細めロイドは振り回していた木剣を下ろし空を見上げた――。
ガルシア王国騎士団本部。
赤茶、白淡、深緑、漆黒の騎士服の団員達が忙しなく廊下を行き交う。
それぞれ四つの騎士団の特色とも言える団服はその色で所属を表していた。
深緑は緑峰騎士団。
守護するのは地方地域の要所であり、国の防衛の要を担う。
赤茶は赤杢騎士団。
守護するのは弱き民であり、憲兵として一番市民に身近な騎士だ。
白淡は白樺騎士団。
守護するのは高位貴族又は王族であり、花形である近衛騎士でもある。
漆黒は黒檀騎士団。
守護するのはこの国のそのものであり、他の三つの騎士団の補佐を担う。
その多岐にわたる任務は“何でも騎士団”とさえ揶揄されるが、その実力は他の騎士団をも凌駕する実力派集団だった。
――漆黒の団服に胸には輝く徽章を揺らし、彼は賑わう廊下を足早に進んでいた。
「アレン様!おはようございます!今日もいい天気ですわね!」
「おはようございます。いつもご苦労様です」
「アレン第三席!おはようございます!」
「ああ、おはよう。朝から精が出るな」
「ん?おっす、ロイド〜いつもより早くないか?」
「おはよう。今日はちょっと団長に用があってな」
賑わう廊下を突き進むロイドに次々と掛かる挨拶。
メイドが、後輩が、同僚が、掛けられる声に言葉少なに返事をするがそれだけでも彼が周囲から慕われているのが良く分かった。
黒檀騎士団第三席ロイド・アレンは騎士団本部黒檀騎士団長の執務室に辿り着き僅かな緊張を湛えた顔付きでその扉を叩いた。
コンコンっ
「――誰だ?」
誰何する声に見えないと分かっていても居住まいを正す。
「ロイド・アレンです。少し宜しいでしょうか?」
上げた声の返答の代わりに扉が開く。
「おや?珍しいですねロイド、どうしました?」
「朝早く申し訳ありません。ドナート副団長、ベルナルド団長はいらっしゃいますか?」
ひょっこりと顔を出した赤髪の男性にロイドは頭を下げた。
彼は【ドナート・アルバレス・ディスカス】
黒檀騎士団の頭脳と言われる彼にロイドは用件を告げる。
その声に反応して執務室の奥から唸るような声が聞こえた。
「おおー居るぞー、書類に殺されそうだがな」
「それはこれ程溜めていた自分の所為でしょうに」
まったく、とため息を吐くドナートに少し苦笑いを浮かべながらロイドは奥へと目を向けた。
そこには積み重なる書類の山に挟まれて大柄の男がいた。
熊かと思う程分厚い筋肉に覆われた身体。それに加えて鋭い目つきと右目を縦断する一文字の傷跡が目を引く黒髪の男。
丸太のような太い腕を億劫そうに動かして書類を捌く彼こそが黒檀騎士団の頂点であり、国防を担う将軍の一人。
黒檀騎士団団長【ベルナルド・イーバス・ザグレブ】その人だった。
「まぁ入れ入れ、丁度いいからちょっと休憩だ」
「まったく団長はそう言って事あるごとにサボるのですから」
疲れたと言わんばかりに肩を鳴らすベルナルドにドナートは冷たい目を向ける。
それに怖い怖いと呟きながらもベルナルドは書類を机の脇に寄せお茶の催促をした。
「自分が――」
「いえ、私が行ってくるので大丈夫ですよ。ロイドは団長に用があったのでしょう?気にせず座りなさい」
メイドに頼んでくる。と続けようとした言葉は上司であるドナートに遮られた。
ドナートもベルナルドも貴族ではあるが、平民出身であるロイドにはそんな立場など気にしないで接する。
それは三人が共に戦争という名の死線を乗り越えた戦友であり、仲間だからだ。
その繋がりがロイドを騎士に取り立て、そして恐れ多くも国のエリート部隊である黒檀騎士団入団へと繋がった。
「すみません。ではお言葉に甘えて」
「それで宜しい」
団長には一切向けない優しげな笑顔を浮かべてドナートは執務室を出ていく。
「あいつ、俺にはあんな顔しねぇぞ」
「……それは団長がいつも副団長を困らせているのが原因では?」
「たかがちょーっと書類を溜めただけだぞ?」
「……これがちょっとの量だと自分は思いませんが……」
ベルナルドの机にもだがその足元には先程までは見えなかった書類の山が床に直接置かれていた。
ざっと見て期限切れの書類さえある。
一体どれ位溜めていたのか気になる所だが知らない方が幸せな事もある。とロイドはその書類の山をスルーしてソファーに腰を下ろす。
「んで?お前が直接ここに来るなんて何があったんだ?」
事件か?と訝しむベルナルドにロイドは少し罰が悪そうに頭を掻いて否定した。
ロイドは黒檀騎士団で第三席という序列に席を置く為、団長、副団長のすぐ下の立場であり黒檀騎士団の中では実質的なリーダーでもあった。
しかし優秀な部下が直接執務室に訪れるのは滅多に無いのでベルナルドは僅かに緊張感を漂わせていたがロイドの表情に肩透かしを食らって目を丸くする。
直接団長であるベルナルドに用があると言っていたからこそ余程の大事か?と思っていた分、その落差は驚きに値した。
「なんだ?どうした?本当に珍しいな」
「あー、その……実は」
まだ二十代半ばのロイドはベルナルドにとって弟分であり、寧ろ年の差を考えれば息子同然だった。
戦争では彼のお陰で命拾いしたのは数知れず、騎士見習い以前のただの騎士付き従者だった彼の才能が埋もれるのは忍びないと自らが長を務める黒檀騎士団にスカウトしたのは良くやったと当時の自分を褒めたい程だ。
魔法は勿論、自己流だと言うその剣の腕は今や国でもトップクラスで驚異的な身体能力、膨大な魔力量、瞬時の判断力や頭の回転は早く、書類などの事務処理能力も高い。
こんな人間がいるのかと思う程の非の打ち所の無い実力と人柄は周囲の人間を惹き付ける。
勿論それは陰で努力し鍛えた日々の賜物だと知っているからこそ、その過程を間近で見てきたベルナルドにとってロイドは心底から信頼出来る部下であり、可愛い後輩なのだ。
そんなロイドが朝早く自分を訪ねてくるなんて、事件以外に何があったんだ?と首を傾げる。
「その、本当に、何でもないような話なんですけど、ちょっとお聞きしたい事がありまして」
「なんだ俺の誕生日か?」
「いや、なんでですか!?」
「ちなみに来週だぞ!プレゼントなら喜んで受け取ってやるぞ!一番は酒がいいがな!」
ガハハハ!と笑うベルナルドにロイドは緊張に強張っていた身体が脱力するのを感じた。
「いや、そんなの知りませんよ」
つーか、聞きたい事は違いますから。はぁとため息を吐くロイド。
その後ろからも同時に聞こえた溜め息にロイドは呆れに俯けていた顔を上げた。
「何をしているんですか貴方は……」
ただでさえ大きなベルナルドの笑い声は廊下にも聞こえていた。折角珍しくロイドが朝から訪ねてきたので二人っきりにしようと気遣ったが茶化す上司にドナートは怒りすら抱き睨みつけた。
「すみません、俺がやります」
「ああ、悪いね」
カラカラとティーワゴンを押すドナートに慌てて駆け寄る。手慣れた様子で紅茶を淹れるロイドを見ながらもドナートは再び深い溜め息を吐いたのだった。
「それで?ロイドの用はきちんと聞いたんでしょうね?」
「いや、ちょうど今聞くところだったんだよ」
お前が邪魔したんだと言わんばかりに肩を竦めるベルナルド。
ドナートのこめかみには怒りの皺が寄り、ロイドは苦笑を浮かべた。
「大丈夫です。急ぎでは無いので、宜しければドナート副団長にも聞いて頂きたく」
「……そうですか?」
怒鳴ろうと口を開いたドナートを遮りロイドが茶器を置きながら発言する。
三人分のお茶を淹れ、ロイドも腰を下ろし改めて二人に本題を告げた。
「本当に何でもない話なんですが、実は次の休みをお聞きしたかっただけなんです」
「次の?」
「休み?」
少し照れたように頭を掻いて告げるロイドにベルナルドもドナートも虚を付かれたように目を丸くした。
黒檀騎士団では他の騎士団とは異なる隊の編成をしていた。元々少数精鋭と言う事もあり、他の騎士団とは所属人数も全員合わせてたった百人弱という、騎士団としては余りにも少ない構成人数だ。
五人で一斑とし全部で二十の斑に分かれ、それらを束ねる隊長格が四人。
ロイド自身も一つの隊を纏め、そして全体の隊を指揮する総隊長という立場でもあった。
休みは隊ごとに入れ替え制で行っており、必ず週に一度は休めるシフト制になっていた。
だがロイドが隊長を務める第一隊だけは急な任務も良く入る事から不定期であり、特にロイドは他の隊員や隊長格の休みを肩代わりする事もあるので特に休みが少ない現状。
休めと散々苦言を呈しても団長や副団長の休みの日も代わりに出勤する仕事人間なロイドからの言葉に、ベルナルドは驚きからいち早く立ち直りその表情をにやにやと邪推する笑みに変えた。
「なんだロイド、女でも出来たか?」
エリート部隊の黒檀騎士団所属であり、その三番目の地位であるロイドは特に女性にモテる。
平民出身と言う事を差し引いてもその実力、立場は十分高く、精悍な顔立ちは整っており、人柄は言うに及ばず老若男女周囲から慕われる程。
全てに置いて十分過ぎるほど上等な部類のロイドはメイドや文官、仲間の騎士や果ては貴族の女性達から秋波を送られ続けているのを知っている。
ロイド自身はそういった事は考えられないと躱しに躱して今だそういった話は一度たりとも出なかったが、ここに来てやっとか!とベルナルドは喜色ばんだ。
「あー、いえ、女なのはそうなんですが……その幼馴染が……」
「幼馴染?と言う事はあの薬師の幼馴染の事ですか?」
言いづらそうにしどろもどろのロイドにドナートはその言葉を拾い驚いた。
ロイドの幼馴染と言えば一人だけ。
ロイドに命を助けられた分、同じ様にその幼馴染の薬によって何回も助けられた事を思い出す。
「そうです。あいつ今度王都の南に店を出すらしくて……やっと、会えるんです」
「そうですか」
「良かったな」
感慨深く言うロイドに二人は言葉少なに返事を返す。
どれだけ会いたいと望んでいたか。
どれだけその無事を祈っていたか。
戦時中、常にその幼馴染の無事を祈り会いたいと零していたかを知っている二人は嬉しそうにはにかむロイドを優しい眼差しで見つめた。
「昨日その手紙が来て、それで今度の休みに会いに行こうと思いまして」
「良かったですねロイド」
「ありがとうございます」
あの激動の時代。生き別れ同然だった幼馴染が近くに居るとなればそりゃあ早く会いたいだろうに。
急遽休みを申請しても構わない立場に居るのにも関わらず律儀に聞いてくるロイドにドナートは祝福の言葉を述べた。
「あの、それで俺の次の休みは……」
「それなんですが、朗報ですよロイド」
「え?」
そわそわと落ち着かない様子の彼にドナートは微笑ましげに笑って一枚の書類をベルナルドの机から引き抜いた。
「つい最近、騎士団の事務から苦情が来ましてね」
「ロイド、お前働き過ぎなんだとよ」
「有給も使わず、他の隊員達の休みも肩代わりする有様なので休みが有り余って困る。とね」
半休や公休以外に使われない休みが溜まりに溜まって全体で二年半位の休みが溜まっている。
その明確な詳細と騎士団の労働基準の違反を警告する書類を手渡されロイドは目を丸くした。
――ガルシア王国の騎士団は戦後からきちんとした労働基準を整備した。
それ以前は騎士団ごとにバラバラで下手すれば一ヶ月連勤などザラにあり、優秀な人物達がその割りを食っていたのだ。戦争時、余りにもその負担が明るみとなり優秀な人物ほど犠牲となった。
地方に行けば行くほど、少ない人数で警備や警邏を行い休み無く働いたが為に油断し戦争時敵国の侵入を許した事件は騎士団全体の責任でもあった。
疲労が残っている状態で戦うなど以ての外。
そう国王が宣言し、騎士団全てに法として労働基準体制が敷かれていた……。
勿論、事件などがあればその限りではないが、それ以降の休みは必ず約束されている。
ロイドが良かれと思って、困っていた隊員達の休みや団長、副団長の代わりに休日返上で出勤していたが、それが事務方にとっては頭の痛い問題になっていたらしい。
今のロイドの休みは週に半休あればいい方だ。
ひと月換算でたった二日だけ。それでロイドは十分休めていたし、余り気にしていなかったがそれで非難されるとは思わなかった。
「今や情勢も落ち着いていますし、魔物駆除もそう大きいものはありませんから」
「なんなら今から休みだって良いんだぞ?」
「え?」
え?と同じ言葉を繰り返し呆けた表情のロイドに上司である二人は笑う。
「会いに行きたいのでしょう?」
「俺達も居るし、急な用事は当分ないからな」
ベルナルドとドナートは戦争が終わってから色々な手続きや私生活の用事で急な休みを取ることが多かった。結婚や育児、戦後処理など国王に呼ばれたり上層部との話し合いなどそれらの所為で席を外す二人に代わってロイドは黒檀騎士団を率いた。
団長や副団長の代わりの事務処理、急な出動要請や他騎士団との調整。
上から下から若いことを侮られることは多々あったが、それらを全て飲み込みただ黒檀騎士団の為に身を粉にして働いた。その結果、ロイドは十分過ぎる程の成果を出した。
だからこその自他認める第三席という序列。その地位。
ロイドより年上の者も、経験豊富な者も黒檀騎士団にはいる。しかしロイドが必死に突き進んだ先、彼らはロイドを自分達の上に立つ者と認めている。
「心配するな。俺達の騎士団はたった一人抜けただけでは揺るがん」
「そうですよ。あの戦争からもう八年です。この騎士団もここまで立て直したのですから」
戦争ではいく数多の命が失われた。
戦争には勝利したが、精鋭揃いの黒檀騎士団は特に被害が大きく戦争前の半分以下の人員になってしまった。――その全てが最前線の地で失われたのだ。
だが彼らの犠牲があったからこそこの国は護られ、そして勝った。
現在ではその人員は戦争前まで戻り、その実力も変わることなく国の英雄たる強さを誇る。
だが、それまでには様々な障害と苦難があった。
精鋭という名は伊達ではなく、落ちた国力を取り戻すまでベルナルドもドナートもロイドと共に毎日騎士達を鍛えに鍛え、戦争を知らぬ者たちに話を聞かせもう二度とあんな事が無いようにと戒めた。
「お前が育てた奴らを信じろ」
「……はい」
黒檀騎士団の隊員は四分の一が戦前からの古参でそれ以外はロイドと同じかそれ以下の年齢の者だ。
同期は騎士学校出身者でその殆どが戦争に参加しておらず、その下は戦争自体歴史の話としてしか知らない。
それらを戦前までの実力を身に付けるまで扱きに扱いた。
鬼、悪魔、と罵られようが嫌われ役を買って出て、その生まれや育ちを卑しいものと囁かれようがその後ろ盾を嫉まれようが全てを無視してただ強くなる様に彼らを鍛え抜いた。
「それに上の立場に立つ者としてはきちんと休みを取ることも重要ですよ」
「他の奴らが気軽に休めないからな!」
呵々と笑うベルナルド。
そんな彼に冷めた目線を向けながらもドナートは改めて目の前の部下を見つめた。
「団長は休み過ぎだと思いますが……まぁ、取り敢えずどうしますか?急ぎの仕事はありませんし、私達も他の者もロイドには甘え過ぎていましたからね。今からでも休みに出来ますが」
「あ、いえ。今日はこのまま仕事をしようかと……引き継ぎもありますし、ただ出来れば明日か明後日に一日お休みを頂ければ……」
「なら一週間ぐらい休暇にしますか」
「え!?いや、流石にそれは……」
さらりと連休を告げるドナートにどこから驚けば良いのやら、ロイドは慌てた。
「なんだいらんのか?」
寧ろ俺が欲しい。などと言うベルナルドにドナートはにっこりと目が笑ってない笑みを浮かべる。
「あの馬鹿は放っといて下さい。……しかし一日だけと言うのも少ないと思いますが?」
「え、えっと……なら二日、二連休を」
「欲がないですねぇ、まぁ良いでしょう。ならば明日、明後日とその次の日は夜勤で午前中は休みで結構」
「え、あの副団長?」
言ってもないのに休み明けの日は夜勤と随分とゆったりできる出勤にロイドは目を白黒させる。
あれよあれよと決まった休暇にロイドはただ驚くしかない。
「分かってないですねロイド。私達も貴方が大切なのですよ。その再会を喜ばしいと祝福するくらいには」
「そうだぞ。お前は昔っから幼馴染の事以外我儘を言わないしなぁ。少しは甘えろよ」
戦時中、ロイドは多くの敵を屠り仲間を助けた。
淡々と、粛々と、にこりともしない表情とその魔法特性により【氷の悪魔】とさえ呼ばれた。
そんなロイドが望んだたった一つの我儘はただ幼馴染についてだけだった。
最前線では様々な情報が飛び交い極秘任務や作戦、機密情報が数少ない手段で交される。
その為、家族への手紙などの私信は後回しとなり基本的に送る事自体を禁止されていた。
少しでも現状を書いてしまえば、敵に奪われた際その情報が知られてしまう恐れさえあったからだ。
それに加え、ロイドの幼馴染は敵国に拘束されていた。
国外渡航を禁止され、薬師という役職のために強制的に治療を強要されていた。
その安否を知る情報を、彼女の情報を、ロイドはボロボロになりながらもそれだけを望んで我儘を言った。
そしてベルナルドは自分の持つツテとコネを使ってなんとかその我儘を叶えたのだ。
そうして知った彼女の安否。彼女の情報。
それを知ったロイドは周囲の反対と制止を振り切り、単騎で敵陣へと飛び込んで敵将の首を刈り取り、戦争を終結させた……。
――それは上層部しか知らない真実。
まだ成人前の十七歳の青年がたった一人で敵将の首を取るなど前代未聞の事態に騎士団の沽券にも関わると全ての情報は伏せられた。
表向きには黒檀騎士団の生き残りの精鋭が決死の突撃を掛けて勝利を治めたとしているが、六年もの長きに続いた戦争を終わらせた真の英雄が誰なのか、二人は知っている。
様々な報奨と賞賛、名誉を望まずただ幼馴染の安否だけを気に掛けたロイドに二人はあの時思ったのだ。
もし二人が再会するその時は、全ての障害を取り除いてやろう。と
だからこそ二人は快く送り出す。
「本当ならばもっとあげたいのですが」
「お前が望まないならなぁ……まぁ流石に一週間とか月や年単位で休み取られちゃあ確かに困るかもだが、ニ、三日位ゆっくりして来い」
「ロイドはうちの大黒柱ですからねぇ」
どこぞの奴とは違って、とちらりとベルナルドを見るドナート。
「お、俺だってなぁ」
「実質、うちの諸々を取り仕切っているのはロイドですからね。私達は主に指示と調整だけですし」
それが仕事だと言われればそれまでだが、団長のベルナルドは将軍としての職務もあり、副団長のドナードはその補佐に掛かりきりだ。
その為実際の実務や任務の割り振りなどは主にロイドが取り仕切っている。
小まめに報告などは上がってもあくまで上司としての裁決をするだけに留まっているのは偏にロイドが優秀だからこそ。
「こちらは気にせず、ゆっくりと羽根を伸ばしてきなさい」
「他の休みは幼馴染の子と決めて合わせりゃいい。それ位は融通してやるぞ」
勿論土産話は聞かせろよ。と告げるベルナルドにロイドは深く頭を下げた。
「すみません。ありがとうございます!」
負担を強いてしまう事に対して謝罪とその思いに感謝を。
律儀に頭を下げ続けるロイドを見てベルナルドとドナートは互いに顔を見合わせ笑った。