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夢のその先へ  作者: zzz
【再会の章】
10/23

第9日 俺と彼女の掃除

 




 文句を言いながらも言われた通りに手作業で片付けを始めたアイビーを見てロイドは他の部屋を見て回った。



「ここは……簡単で良いか」



 来客用だという部屋は夫婦用と子供用の部屋よりも狭くシングルベッドと机、そして小さな棚が机の隣に置かれておりそれだけで部屋が一杯だった。

 ベッドには埃避けの布が被されており、匂いもどこか埃っぽく湿った空気。


 ロイドはまずは部屋にあった小さな窓を開けて風通しの為の風魔法を発動した。


 魔法によって呼び込んだ風が通る窓のすぐ目の前には敷地内を囲む生け垣があった。通常の生け垣よりも遥か高く成長したそれは二階を越えて建物と同じ高さだ。お陰で二階も周囲から中の様子が見えないようになっていたが鬱蒼と生い茂る葉に日差しは遮られ、部屋は日陰になっていた。


 家具の上に薄っすらと埃が積もっていたがカビ臭さは無いので最低限の風通しはしていたのだろう。


 机に積もった埃を指で払い、その状態に力加減を調節する。

 込める魔力を微量単位で加減し手の平に再び発動した魔法を部屋の中に投げ込めばそれは風を纏い円を描く小さな旋風(つむじかぜ)となって部屋を縦横無尽に吹き抜ける。

 机の上を、棚の上を、家具の隙間を小さな旋風は埃やゴミを取り込んで少しずつ大きく成長しながらも部屋を巡る……。


 それを指先で操作しながらも空いた手で、今度は水魔法を発動。

 ロイドの片手の上でどこからともなく集まった水は水滴から流れる水流となり、そして球体の渦巻きと成った。

 大小様々な大きさの水球はロイドの手のひらから零れ落ち、床や壁をころころと転がっていく――





 ロイドが手を軽く振るえば風通しに呼び込んだ風はその威力を強め、そよ風から突風となった。

 旋風が埃を外に吐き出し、水球が水拭きを、仕上げにその濡れた所を吹き乾かす突風。


 風に遊ばれた前髪をかき上げながらもロイドはまるで指揮者のように次々と腕を振るい魔法を行使する。


 指先一つで魔法を操り、絶妙な力加減で部屋の物を一切傷付ける事無く掃除を進めていく。


 その魔法自体は比較的簡単な、俗に“生活魔法”と呼ばれる低級魔法で子供でも発動出来るようなものだった。

 しかしその発動した数と緻密なコントロールは例えその一つ一つが生活魔法程度でも、上級魔法に匹敵する程の難易度だった。

 その道を極めた者しか扱えないと言われる上級魔法。

 なのにも関わらずロイドは息をするかのような気軽さで同時に幾つもの魔法を発動し操る。


 風魔法の応用である浮遊の力で空中に浮かんだ布団はシーツや枕と共に水魔法で一瞬で洗われて風と火の複合魔法で乾かされていく。

 そうすれば湿気を吸ってヘタっていた布団は日干ししたかのようにフカフカな弾力が戻った。




 ――キラキラと水の煌めきが部屋に光を呼び込む。

 反射した光は七色に照り返し、ロイドを包み込んだ……。




 瞬く間に綺麗になっていく部屋。


 それは……その光景こそが、“魔法”みたいだと思える程に現実離れした不思議な光景だった。



 ――余談だが、実はアイビーが手作業ではなく頑なに魔法で掃除しようとするのはこのロイドの掃除の光景に憧れてるからなのだがロイド自身はそれを知る由もない。







 ぱちん、と指を鳴らし全ての魔法の発動を解く。

 水と風は窓から外に飛び出し、浮かんでいた寝具一式はゆっくりと、そのあるべき場所に降りる。






 掃除が終わった部屋を見回し、満足がいったのかロイドは一人頷いては次の部屋へと向かった。


 ちなみに掃除に掛かった所要時間はたったの数分。


 普通の人が同じ様に掃除してもその数倍の時間が掛かるだろう。それを鑑みてもロイドの魔法は余りにも規格外だった……。






 *




「おーい、ビー終わったか?」


「な、なんとか?ある程度は……」



 来客用部屋を二つ、娘用の部屋とついでにトイレと風呂も掃除してアイビーがいる部屋に戻れば少し泣きそうな彼女が雑巾を片手に立ち竦んでいた。


 なんとか部屋の床が見えるぐらいにはなっていたが本の山が机に、洗濯物の山がベッドにあり至る所に荷物が入った道具類。

 まだまだ終わりには程遠いものだが、アイビーにしては頑張ったなと心で呟く。


 これからどうすれば良いのかと途方に暮れるアイビーに近付いてその頭を撫でてやった。



「よく頑張ったな」


「で、でもまだ終わってないよ?」


「それでもお前にしてはよく頑張った方だ」



 怒られるとでも思ったのか恐恐とロイドを見上げるアイビー。そんな不安げな表情を見てくすりと笑う。



 さっきまであんなに威勢が良かったのに随分としょげている様子。

 そんなアイビーが何を考えているのかもお見通しなロイドは安心させるように少し屈みアイビーと目を合わせた。




「言っておくが、俺はこの為に今日来たんだ。気にするな」


「でもロー折角のお休みなんでしょ?疲れてるんじゃないの?」


「お前と会えたんだ。疲れなんて吹っ飛んでるさ」



 だから気にするな、と笑うロイドにアイビーは本当に?とその目を見つめる。

 輝かしいその深い青は嘘を付いているようには思えなかった。



「ごめんね。思ったより出来なかった……」


「別に気にするな。こういうのは慣れだしな」



 こつりと額を合わせて、目を閉じる。鼻先を擦り合せたそれは――仲直りの合図。


 ロイドが他の部屋の掃除に行っている間も愚痴を連ねてたアイビーだったが、さっきまでロイドが余り休まない事に対して怒っていたのを思い出したのだ。

 そんなロイドが上司から貰った折角の休みに掃除に付き合わせている事に気付き、申し訳無さといい歳して手伝わせている不甲斐なさにアイビーの心は地の底に落ち込んだ。


 それからは何とか自分を奮い立たせ頑張って片付けを進めてみたが、それでもどこから手を付ければ良いのか、ある程度仕分けなどが終わってから気付いた。

 取り敢えず、ロイドの言い付け通りに魔法では無く手作業で棚や机を水拭きしていたらロイドが戻って来たという所だ。




 さっきの暴言と足を踏み付けた事も含めて謝るアイビーに苦笑を浮かべる。



 昔から直情的なアイビーは良くその時の勢いで何かしらやらかすのが常だった。

 勿論それらは決して悪い事を言ってたり、やってる訳ではないし、寧ろ正論で正当な感情を表しているだけだがそれでも後々頭が冷えるとアイビーは必ず反省する。

 もう少し相手を思えやれば、と後悔するのだ。


 そしてロイドの事情も愚痴を言いながらも気が付いて反省しているのだろう。


 素直に謝れるその性格はとても好ましい。

 しかもいつも元気にはきはき物申すアイビーが落ち込んでいる様子は犬や小動物がしょげている様子にも似ていて可愛く思えた。

 幻覚で垂れた尻尾と耳が見える程に。

 身長差がある為必然的に上目遣いのアイビーの蜂蜜色の瞳を間近で見つめロイドはくつくつと喉で笑う。



 それに首を傾げるアイビーの背中にさり気なく手を回し抱き寄せる。



「ロー?」


「ビー」



 どうしたの?とこちらを見つめるアイビーにロイドはその心のままに柔らかそうな頬に唇を寄せる。


 ちゅ、と可愛いリップ音を立てて離れたロイドの唇に咄嗟に目を瞑ったアイビーは驚きに身体を揺らした。




「どうしたの?ロー?」


「ん〜いや、相変わらずだなぁと思って」



 昔から変わらないアイビーに懐かしさと安堵を抱いてその腕の力を強めた。


 可愛いな。と口にはしない言葉を心の中で呟きロイドはふわりと笑み崩れる。

 何やら楽しそうなロイドに怪訝そうな表情を浮かべていたアイビーもついつい笑顔を浮かべた。



「もぅ、何がよ」


「んー、アイビーがアイビーだなぁ。と思って」


「ふぅん?」



 分かったような、分からないような、そんな感情を込めた返事にロイドの笑みは益々深まる。

 鼻歌さえ歌いそうな程にご機嫌な彼にアイビーはつい昔の癖で甘えるようにその肩口に頭を擦り寄せた。



 ロイドはその艷やかな髪の毛を手の中で遊び少しだけ瞳を伏せた……。




 十五年という時はとても長い。お互い幼い頃には無かった(しがらみ)を抱えて、様々な経験を重ねて今、ここに居る。

 昔と同じ、とはいかないのだ。

 アイビーもロイドも普通の人の生活とはかけ離れたものを経験して来た。

 考え方や性格だって昔とは違う。ロイド自身そう思っているし、アイビーだってそうだろう。

 そんな中で記憶の中のものと同じ姿にロイドはとても安心した。


 そしてアイビーが確かにここに、ロイドの側に居ることを実感したくてついつい触れてしまう。




「ロー?」


「んー?」



 掃除しないの?と首を傾げるアイビー。

 返事をしながらも離す気配が無い彼にアイビーはどうしよう?と少しだけ途方に暮れたのだった……。








 *




 そんな一幕もありながも掃除は無事に終わり、時刻はおやつの時間を指す頃。


 広い建物ではあるが魔法があればすぐ終わるものも二時間かけた事を考えればそれだけアイビーの掃除能力が底辺なのを感じさせる。


 セシルが日向ぼっこをする中庭も風魔法で雑草を刈り取り、土魔法で均せばやっと庭としての機能も果たせる。



「うーん、大体こんなものかな?」


「そうだな。あとは、ビーは街には出たのか?」


「残念ながらまだ〜」



 元々あったであろう花壇や畑の一角を朧気に残しながら整地した庭の一角にロイドが水魔法で洗った洗濯物を干していく。


 空は晴天。

 この様子ならば半日あれば洗濯物も無事に乾くだろう。



 庭の中央に座する木は大きく、樹齢もそれに合わせて長いだろう。

 剥き出しの根の部分に腰掛けて背伸びをするアイビーは達成感もあり、表情は明るかった。



 残念ながら物干し竿は朽ちており使えなかったので、木の枝と建物の間に張ったロープに洗濯物が風を受けてはためく。




「なら、丁度いい。足りない雑貨とか買いに行くか?」


「え!いいの?」


「だからその為に来たって言っただろうが」



 この後に及んで遠慮している様子の彼女にロイドは溜め息を禁じえない。

 そもそもずっと師匠に連れられて旅をしていたアイビーは必要最低限の物しか持っていない。

 拠点を持つならば旅の時は不要と断じていた物も欲しい物も出てくるはずだ。

 故郷の村以外に住む場所を持たなかった彼女にロイドはずっと与えたかった物だってある。



「俺はすぐ出れるから支度して来い」


「分かった!ありがと」



 座っていた所から飛び上がり家に駆け込んでいくアイビーを見送りロイドは木の上を見上げた。



「貴方も付いてきますか?」



 そんな呼び掛けにするりと木から降りてきたのはセシル。

 しかしその姿は先程までの猫ではなく、狼だった。



『ぼくはこのまま家にいるよ。それと言葉遣いとかきにしなくていい。たぶん、ぼくがご主人と契約したのは貴方のお陰だから』


「そうか……やはり俺の影響があったんだな」


『うん。あの人はぼくの司る属性を半分しか持ってないから』



 不意に触れるのは両親の形見の耳飾り。

 その飾りに使われている石は左右色が異なっていた。



 黄金色の琥珀と群青のラピスラズリ。



 それぞれが家に伝わるお守りはロイドとアイビーが互いに交換し、託したかけがえの無い物だ。



『どうやらぼくはキミ寄りみたいだし』


「半身、とはそこまで影響し合うものだとは思わなかった」


『ぼくもだよ』



 故郷の古い詩があった。

 大切な人と約束を分かち合う詩が。

 それは言わば夫婦の契であり、誓約。


 幼い頃の二人はそうとは知らずにその詩の通りに別れる時、約束と夢を交した。

 それは太古の昔に魂を分かち合う祝詞でもあった。


 本来精霊と契約を交わす時、己が宿す力の特性の相性が良くなければならない。

 アイビーは光と風。ロイドは氷と水。などと言った聖法、魔法において属性というのはその源である力に合ったものしか基本満足に扱えない。

 扱えても低級程度が良いところで、それ以上となるとやはり適性と相性が物を言う。

 しかしアイビーは兎も角、ロイドは基本全属性を扱える特別な人間でもあった。


 勿論氷と水が最も適性ではあるが、それ以外もある程度は扱えるので化物か、と常々騎士団でも良く仲間達から言われる。


 そんな二種属性の適性しか無かったアイビーが四種属性を持つセシルと契約出来たのは正直、あり得ない話だった。寧ろ物理的に無理なのだ。

 しかし現にセシルはアイビーと契約を交している。



 それは幼い頃交した約束のお陰だとセシルは言った。





『キミたちは運命の神に愛されているのかもね』


「それはそれで悪くはないな」


『……ご馳走様』



 そうとは知らずに魂を分かち合った二人。

 そのお陰でアイビーは自分の属性以外の適性を宿しセシルと契約が出来た。

 それは奇跡と呼べる程のもので、その出会いと繋がりは寧ろ運命じゃないかと言うセシルにロイドは胸を張って答えた。

 ……そんな彼にセシルは呆れさえも浮かべる。



 元々ロイドはアイビーの村ではない別の場所で生まれた。両親の仕事の関係で物心付く前から国々を周り旅をしていたのだ。

 そしてロイドはとある村でアイビーを見付けた。



 その時の歓喜と感動と言ったら……生まれ落ちた以来泣かなかったのに!と両親に騒がれる程にロイドはただ喜びに涙した。

 アイビーはまだ幼くその頃の記憶も無いだろうが、ロイドは幼くても彼女が自分――もう一人の自分、半身なのだと確信した。


 アイビーも一目でロイドを気に入ったのか離されるとすぐ泣き喚くし暴れる有様。


 幸い、両親も(つい)の住処としてアイビーの村に住む事にしていたのでそれ以来ロイドはアイビーとずっと一緒にいた。

 何も言わずとも二人は常に一緒で、ゆくゆくは恋人に、夫婦になるだろうとお互いの両親が話しているのも知っていた。

 ロイド自身そうなると思っていたし、改めて尋ねた事はないがアイビーだってそう思っていただろう。

 だけど……現実は二人に非情な別れをもたらした。



 ロイドの両親もアイビーの両親も亡くなり、戦争が起こったのだ。

 アイビーは両親の知り合いだった師匠に連れられ戦争を逃れる為にこの国を発ち、ロイドは戦争の中に飛び込むしか無かった。



 あれから十五年。

 とても、とても長い歳月が経った。




「やっと会えたんだ。これを運命だというのならばその神に感謝しても罰は当たらんだろう?」


『……確かにね』




 運命の神とやらが本当に居るのかは知らないが、その“運命”のお陰で二人とも無事な姿で再会出来たのならば感謝するべきだろう。



『だけどその右目はどうするの?』



 そんなセシルの何気無い一言にロイドはバレたか、と肩を竦めた。



「代償というものはすべからく課されるものだ。……瞳一つで楔から解き放たれるならば安いものだ」



 そう呟き右の目に手を当てる。

 その目は左目と同じ瞳をしているが……実際の景色を映すことは無い。

 無機質なガラス球は人の身体に生まれるものではなく、あとから足した異物。



「その様子じゃビーも分かっているのか?」


『いや。ぼくでさえよく視ないと分からないものだからご主人は知らないと思うよ』


「そうか……」



 ロイドの右目は義眼だ。

 その経緯を口にするつもりは無いし、セシルも尋ねはしなかった。

 だがアイビーには知られたくない。とロイドはセシルに頼む。



「ならこのまま黙ってくれると助かるな」


『知られた時、怒られるよ?』


「それでも、だ。余りアイツを“教会”に関わらせたくない」


『そっか』




 この話は終わりだ。と言わんばかりに口を噤んだロイド。その様子を見てセシルは少しだけ寂しそうに口を開いた。



『ご主人の事、守ってあげてね』



 それは何からを指すのか。

 ただ守るべき主人の事を託す言葉にロイドは躊躇いもなく頷いた。



「俺の全てを賭けて」



 任せろ。と告げるロイドにセシルは少し目を細める。


 その志を見透かさんばかりの瞳にロイドは目を逸らすことなく凛と立つ。




「――ロー!」



 バタバタと慌しく裏口から飛び出して来たアイビーを見てロイドはセシルから離れた。



「ローごめん遅くなった!」


「別にそんな待ってないから落ち着け」


「ぷぎゅ」



 ぶにっと顔を潰されアイビーの口から間抜けな声が立つ。


 そんな彼女の服装は先程の地味なワンピースとは異なり襟元の刺繍が可愛らしい真っ白なシャツと淡い色合いのハイウエストのスカートと踵の付いた靴。

 常に動き安さ一択のアイビーがそれだけで精一杯お洒落をしているのが分かった。


 顔をよく見れば簡単な化粧も施されており、改めて成長したなぁとロイドはしみじみ思う。

 昔は男の子の格好に森を走り回っていた野生児だったのが……こうも変わるとは。


 髪の毛も頑張って結っていたのか、編み込みしてあったが走って来たせいで少し解れていた。




「ビーちょっと後ろ向いて動くな」


「へ?」



 くるんと肩を回されロイドに背中を向ける。

 編み込みを解いてチョコレートブラウンの髪を手櫛で整え、ロイドは刺さっていたピンを抜く。



「あ、あのロイドさん?」


「動、く、な」


「はい!」



 何をするんだ?と尋ねるアイビーに再度命じる。

 ロイドの手の中で髪の毛が遊ばれる感触がするが、動くなと言われている以上アイビーはそのまま固まるしかない。



「っし、こんなもんだろ」


「んん?」



 出来上がりに満足そうなロイドの声で大量の疑問符を浮かべながらそっと頭に手をやる。


 感触的にはどうやらロイドが髪の毛を纏めてくれたようだが……自分の手では絶対出来ない細かい網目と手の先に触れた覚えのない飾り。



「んんん?」


「一応、これもプレゼント。好きに使え」


「は?」



 ちゃり、と音が立つのはロイドの指先が揺らしたからだが……。



 ごそごそと手に引っ掴んでいた小さな鞄から手鏡を取り出し改めて自分を映す。



「これ」


「流石に食い物だけはねぇなと思ってな。再会を祝して、な」



 細かく編み込まれた髪の毛を纏める髪飾り。

 金と青の色彩が日の光を受けて輝くそれにアイビーは呆然とロイドを振り返る。



「い、いいの?」


「寧ろお前に渡す以外どうしろと?」



 小花に囲まれた大輪の花細工。

 奇しくもそれはアイビーのスカートに刺繍されたのと似た花でとても似合っていた。



「ありがとう」



 ふわり、はにかむアイビーにロイドも無事受け取ってもらえて安心したのか安堵の息を吐く。



「ほら、すぐ日は落ちるんださっさと行くぞ」


「はーい」





 ロイドがすたすたと進んで行く後を付いていく。








 それを見送ったセシルは一人でぽつんと庭に座った。




『やれやれ』



 お熱いこと。



 無意識なのか二人の距離は近いし、その触れ合いも幼馴染の範疇を超えている気がしてならないが、あれが二人の普通なのだろう。



 二人が交した約束を知らないけれど、その魂は確かに互いを分かち合い、溶け合っている。



 もうどうにもならない程混ざり合った二つの魂を見て精霊は一人ため息を吐く。



『あれが、半身か……』



 太古の昔には大勢いたらしいが、今の世にどれだけ半身を得ている人間がいるだろうか。



 その輝かしい魂は精霊にとって篝火の様に誘われる代物だ。

 そして精霊以外にも……。




『ま、あの二人なら大丈夫か』



 何を根拠にと思わないでも無いが、それでも長くを生き、そしてこれからもその生が続く精霊は街に出ていく二人を見送り呟いた。










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