ー 夢裏の林檎時計 ー
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「いらっしゃい、レディ」
ドアの奥にいたのは一見真面目そうと思わせる格好の男性だった。
『レディ』って……日常で使う人いるんだ。
銀髪にモノクルに白手袋……どっかの貴族にいそう。伯爵的な……。
「君は初めてかな?」
「はい、そうです」
初めて感漂わせてたか。質問する手間が省けて助かったけど。
「ふむ、依頼される前に注意事項だ。 此処の事はどれ位知ってる?」
「……一日一回だけ依頼が出来るということは」
「うん、それが基本である事は分かっているようだ。 あとは、それが『正夢になる』ことかな」
「ふぅん…………えっ、まっ!?」
……冗談だよね?夢の中の話だよね!?
「おや? 驚くことかい? 君にとっては得しかないと思うのだが……」
顎に手を当てて首を傾げる姿も上品だ。この人、少しズレてる所あるんじゃないか?
「ほ、本当に現実に表れるの?」
「ええ。 もし君が『死神屋』に人の死を望めば、現世でその人を殺すことができる。跡も残さない故、貴方が疑われることはない」
人差し指を立てて微笑む男性。
それに反して、私はゾッとする。その笑みが微笑みな訳が無い。
例えが人殺しって……。
「最初に私『時間屋』を選んだのは良い判断だ」
「は、はぁ……」
……と言われても、よく分からなかったから適当に選んだというのが正直な話である。
時間屋は、自分の首に下げられた懐中時計を私の目の前に出す。
「貴方の過去か未来、どちらを変える? それとも今の時間かな? ……ああ、時間を止めることも可だ」
「私は他人の時間をも操ることが出来るよ。 さあ、短い夜が明けぬうちに依頼をどうぞ」
「うーん……じゃあ、私がこの夜の時間を長くしてくれと言ったら?」
保険はかけておきたい。冗談で言ってみただけ。
「いつも起きる時間になってもまだ夜ということになる。 ……だが、依頼は回数制限がある。 もっと面白いことをしよう?」
時間屋は口角を上げた。楽しくて仕方が無いというように。
「んー」
顎に手を当てる。
時間、ね……。