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5話:校庭で喧嘩

5話:校庭で喧嘩



 理事長室を出ると、階段の踊り場で高杉立って持っていた。

 おれはそのまま彼女の脇を抜けて階段を降りようとするが、高杉に腕を掴まれる。


「なんだよ」

「なんだはないでしょうか!」


 膨れ顔で言う高杉におれは溜息を付きながら言う。


「で、おれに何か用か?」


 頭を掻きむしりながら言うおれに、イラっとしたのか膨れ顔からイラ付きの顔に変わる。

 本当によくわからない奴だ。


「何かあったの?」


 イラつきながら的を射抜くような言葉におれは少し驚く、相変わらずの感の鋭さだ。

 おれは妹をあやすように彼女の頭をなでながら言う。


「少し親父のことでな、いま、家の中がゴタゴタでな」

「そうなんだ、ジョーさんなんかあったんだ」

「まあな」

「ねえ、どんなことがあったの?」

「お前に言う必要性はない」

「なあ! いいじゃん教えてよ! わたしだって力になりたいんだから!」

「そう思うなら、ちゃんと道場に行け、親父から聞いたぞ、最近道場に顔を出してないんだって?」

「……別に、もう行く気ないし」

「どうしてまた?」


 そう言うと高杉は急に黙り込む、しばらく黙り込んだ後、何かを呟いて掴んでいた腕を話した。


「もういい、教室行く」

「ああ、そうしろよ」


 彼女は静かに頷き、重い足取りで階段を下りて行く。

 何かマズイことを言ったのだろうか、おれは去り行く彼女の背中を見ながらそう思った。



 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教室内が部活に行くもの教室に残って喋る者、後はそそくさと帰る者に分かれる、無論、おれは帰る方だ。

 下駄箱で上履きと靴を履き替えていると、何かが騒がしいことに気付く、玄関の方に視界を向けると、既に人だかり出来ていた。

 何事かと人込みを割って入り一番目に出ると、あら不思議、高杉と今どきに分かり易い恰好のヤンキーが居るではありませんか。

 絡まれている、まあ、一言で片付くなこれ。


「おい、センポ!」

「何だよ、直人」

「どうするんだよ、めっちゃヤバくねぇ」

「そうか、ざっと見て十二人ぐらいか、あれぐらいなら高杉一人で何とかなるだろう」

「いや、お前、助けないのか?」

「下手に助けると、殴られる、高杉に」

「お前さあ、少しはタカちゃん心配しろよ、幼馴染だろう」

「アイツに助け入らない、本当に危なくなったら助けるけど」

「薄情な奴だな」

「薄情で悪かったな、これがおれの性格だ」


 そうだ、アイツはあれぐらいの数なら何とかなる、流石に危なくなったら助けるとして問題は、あの人が来る前に片付けないといけないといことだ。

 ふと、そんなことを考えていると、動きがあったようだ。

 何だが高杉、一言二言何かを言っている、すると、見るみるうちに取り巻き共の顔色が赤くなっていく。

 ああ、これは喧嘩になるな、そう思った瞬間だった。

 左に居た男が高杉の顔面に目掛けて殴りかかろうとすると、高杉はスウッと一歩後ろに下がり拳を躱すと同時に、腹目掛けて膝蹴りを入れ、背中に肘打ちをこらわせる。

 呻き声と同時に男は腹を抱えながら、その場で崩れる。

 それが合図だったかのように、男どもが一斉に襲い掛かるが、それらの攻撃を躱し鋭い拳を次々と連中に叩きこむ。


「心配いらない、ようだな」


 そうおれが呟くと同時だった。

 奥からバイクのエンジン音が鳴り響く、数十台のバイクの集団が校庭内に入り込んで来た。

 おいおい、世紀末の何とやらか、ここにはケ〇シロウやラ〇ウは居ないぞ。

 しかも、出て来るのがこれまたいかにもヤンキーと言わんばかりの野郎だな。

 流石にあの数はマズイと思い、おれは鞄を置いて高杉の方へ歩く、放っておけば『あの人』が参戦しかねない。


「オラァ! 小娘、おれの仲間ダチが世話になったようだな、今なら土下座と慰謝料で済ませてやるよ」


 バイクを降りて来て如何にもボスと言わんばかりの男が高杉にガンを飛ばしながら、言っている。

 大学生が、それともどこかの組のもんか、とにかく、子供の喧嘩に大人が入って来るなよ。


「口が臭いわよ、酒の飲み過ぎで胃が悪いんじゃない、いい歳したオッサンなんだから、少しは健康に気を使ったら」


 高杉もまた、臆することなく言い返すし。


「テメェ! 北斗さんはまだ中三だ! テメェより若いんだぞ!」

「そうだ、ここら辺で暴れまわる走り屋を、シメて回った伝説のお方なんだぞ! 伝説の走り屋だ!」


 取り巻き①と②が言う、えッ、中坊、マジで。

 驚きと衝撃で高杉は目を丸くする。

 その後、校庭中に響き渡るかのような声で笑いだす、抱腹絶倒と言わんばかりに腹を抱えながら笑っていた。


「あんた、それで中坊? わたしより、一つ下? マジ? マジであり得ないんですけど! 

ギャハハハハハハハハ!」

「テメェ! ブっ殺す!」


 背中から釘バッド取り出して振り下ろそうとするが、高杉は左足を軸に体を捻る、釘バッドは、高杉の体を掠め、地面に減り込む。

 おいおい、いつからバトルモノになったんだ。


「避けるな!」

「避けなきゃ死ぬでしょう、そこまで考えが回らないの? お頭が弱い男ね」

「テメェらやれ!」


 バイク集団全員がバッドを背中から抜き、構える。

 忍者かよお前らは。


「あらあら、女一人に熱烈な歓迎だこと、いいわよ、全員相手してあげるわ」


 そう言って、手でクイクイと挑発する。


「ブっ殺せ!」

「はいはい、ストップ」


 おれはリーダー格の、ああ、可哀そうなリアル中坊の頭を掴む。


「な、何だテメェは!」

「ああ、ここら辺の走り屋をシメたらなら、噂ぐらいは訊いてないかな?」

「何を!」

「ちょっと、センポ! わたしの相手よ、邪魔しないでよ」


 一人のスキンヘッドのヤンキーが持っていたバッドを落とす。


「お、おい、センポって言わなかったが」


 高杉の言葉に周りの人間のざわつく、ああ、こいつらは知っている口かとおれは勝手に納得する。


「おい、なんなんだ、この『外人』が何なんだよ!」


 プチン、ああ、おれも沸点低いや。

 おれは掴んでいる手に力を入れる。


「痛った! イタタタタタ!」


 おれは鷲掴みにした状態で、この男を持ち上げる。

 足は地面から離れ、男の視線がおれと同じ視線まで持ち上げると、額を突き合わせ睨み付けるように言う。


「おれは『外人』じゃね、生まれも育ちも日本、おれは日本人、安藤千畝だ」


 おれの名前を聞いたと途端に、バッドが落ちる金属音が無数に校庭に響く。


「ま、間違いね、金髪の緑の瞳、『遠坂中の安藤』だ!」

「『遠坂中の安藤』っていえば、伝説の『荒川河川での暴走族百人斬り』のあの安藤か!」

「『一人で新宿の組事務所』潰した、あの安藤!」

「『首都高百キロ逆走伝説』あの安藤!」

「『女を百人、孕ませた』というあの安藤!」

「おい! ちょっと待て! 最初の以外は全く身に覚えないぞ!」

「ヒィイイッ! ス、スんませんでした!」


 一斉に頭を下げる。

 全く、また噂に尾ひれが付いているぞ。

 おれに鷲掴みされているこの男もどうやらおれの名前を聞いたことがあったのだろう、暴れていたのが嘘みたいに、縮こまっている。


「あ、あの伝説の……」

「おう、でだ、ここいらでお開きにしないか、このままじゃあ」


 睨みを利かせながらドスを聞かせた声を出し、不敵な笑みを浮かべながら言う。


「でないと、ここで血の雨を降らすことになるよ」


 その顔が異様に怖かったか、未だに鷲掴みされている男は恐ろしさの余りに失禁している。


「ス、スんませんでした! 千畝さんの女とはつゆ知らず手を出してしまって」

「ちょっと、わたしはそいつの女じゃないわよ」


 何故だか知らないが顔を赤くしながら言う高杉が言う、恥ずかしいのか。


「まあ、とにかく、早くここから去れ、でないと、おれより危ない奴が来るから、なあ、タカ」

「うん? あ! あぁ、確かにそうかも」


 高杉は何かを思い出したかのように、言う。


「千畝さん以上にヤバい人って……」

「とにかく早く去れ、でないと――」

「こうなるのだ!」


 おれの横を巨躯が走り抜ける、その巨躯は不良共を数人巻き込み、綺麗なボディーアタックを決める。


「ギャハハハハ! 千畝! 面白いことやっているじゃないか! おれも混ぜろヤ!」


 理事長である徹さんが、楽しそうに不良共の胸ぐらをつかみ、殴り付けている。


「いや、徹さん、それマズイでしょう、あんたは理事長でしょう」

「なに言ってやがる、こいつらカチコミ来たんだろう、だったら、ここのドンであるおれが参戦するのは当たり前だろう」


 そう言いつつ楽しそうな顔をして、一人二人と殴り付けている。


「いや、こいつらは別にカチコミに来たわけじゃあ」


 いや、確かにカチコミだけど、何というかその、なんか違う。


「いいか千畝、おれのモノおれのモノ、お前の者はおれのモノだ!」

「ジ〇イアン理論かよ、てか、話の趣旨が分からん、今何の関係があるんだ?」

「いいんだよ、ここ最近、鬱憤が溜まっているんだ! こいつらで鬱憤を晴らス! ここ最近、女房とは喧嘩するし、娘はおれを腫物にみたいに見るしよ! ストレスが溜まっているんだよ」


 そう言って彼らが乗って来たバイクを持ち上げる。

 いや、待て、流石にそれを投げつけるのは、流石にマズイだろう、怪我とかじゃすまないぞ、そう思っておれが止めに入ろうとして、静かにおれの脇を通り過ぎる長身の女性。


「死ねやゴラァ!」

「ヒッィイイイ!」

「死ぬのは、おんどれや、バカ亭主!」


 勢いよく蹴り上げられつま先は、ものの見事に股間に減り込む。


『金』という文字が、鳴り響く。


 おれも周辺に居た男子生徒全員が無意識に股間を抑える、おれも抑えた。

 その男の身が知る想像絶する痛みは、声すら上がらず、理事長は泡を吹いてその場で気絶した。


「全く、少しは世間体を気にしないのかしら、このバカ亭主は」

「スヨンさん、い、今のはやり過ぎでは?」


 股間を抑えながらおれは言う。

 理事長の奥さんである、今給黎スヨン。

 在日韓国人三世。

 昔は日本で名の知れた女子プロレスラーで、今は親父が所属するボクシングジムである、今給黎拳闘会の副会長をしている、因みに、会長は気絶している理事長である。


「千畝くんも、黙って見てないで、止めてよね、この後、ご近所さんに頭下げに行くのはわたしなんだから」

「はあ、下手に入ったら、巻き添え食らいそうで」

「まったく、ユウリも、お父さん、止めないさいよ」

「止める前に参戦したのは、この人よ」

「はあ、でえ、あんた達はまだする気?」


 スヨンが座った目で不良共を睨み付ける。

 ここで、彼らも気づいたのだろう、ここで最強なのは彼女だと、彼女に逆らえばどうなるのかと。


「し、失礼しました!」


 彼らは一目散に走り去る。

 一体何なんだったん、今のは、校庭は台風一過の後の様に、綺麗に何事もなかったかのように、静まり返った。


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