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1話:夫婦喧嘩

1話:夫婦喧嘩



 ええと、まず状況確認から始めよう、我が家を訪ねて来たこの少女。

 三島そらさん、金髪にエメラルドグリーンの瞳。

 ああ、親父の子と言われるとなんだろうか、確かになと思うな。

 で、当の本人は腕を組んで座っている、その隣に笑顔の母ちゃん。

 ああ、おれ達兄妹は知っている、この状態は夫婦喧嘩が始まる前触れだと。

 チラッとヒラリを見る、ヒラリは「わたしにどうしって言うの!」と目で語る。


(いや、こんな時は男のおれがと言うよりは、女であるお前から切り込んだ方がいいだろう、コルダが居ない以上、最年長のお姉ちゃんはお前だ、お前が行け!)

(いやいや、ここは長男としての責務を果たすべきでしょう、兄ぃ!)

(悪いが、この重い空気はおれは苦手だ)

(それならわたしも苦手だよ)


 以上、一秒間のアイコンタクトでの会話でした。

 

「ねえ、パパ」

「なんだ、由夢」


 重い空気を切り開いたのは母ちゃんだ、ヤバイ、笑顔なのに声がとても重い。


「どういうことだが、説明して欲しいな~~」

「はあ、ええっと、三島そらちゃんだっけ」


 向かい合って座っていた三島が、おどおどしながら返事をする。


「おれが父親だと言う証拠は?」

「この写真覚えていますか?」


 渡された写真を家族一同が見る。

 写真は何かの集合写真だ。

 どこかのパーティーだろうか、ドレスコートに身を包んだ人たちが写っていた。

 その写真の中央には若い頃の親父と彼女の母親であろう綺麗な黒髪の女性が写っていた。

 親父は首を傾げる、どうやら覚えていないようだ。


「これは?」

「十八年前の、ボクシング協会のパーティーの写真だそうです、母はそこでお父さんと出会って、一夜を共にしたと」

「へえ、そうなんだ、あっ、日付見てよ、わたしが妊娠三か月の時だよ、へえ、そうなんだ、ふうん」


 母ちゃんの顔を直視できない、笑顔だがその背後に殺意のオーラがメラメラと燃えている。

 それでも、親父は覚えていないらしい、未だに首を傾げている。


「すまないが心当たりがない、人違いではないのか?」


 父が真顔で言うと、三島の顔がムッとする。


「でも、母はその日に確かにお父さんと愛し合ったと言っています! 母がわたしに嘘を言うなってあり得ません! わたしはあなたの娘であなたはわたしの父です!」

「そう言われても、おれは記憶力には絶対の自信がある、こういっては何だが、あの当時は由夢がつわりだの何なので忙しかったし、初めての子供が出来る時に、おれが浮気する何ってことはーー」

「でも、火のない所に煙は立たないって言うよね」


 母ちゃん、どうして、どうしてなんだよ、親父はあんたのことを良いっしょしているでしょうか、どうして火に油を注ぐようなこと言うんだよ。

 今度は親父の方からイラつきのオーラが出ている。


「そうだな、確かに火のない所に煙が立たないが、そもそも、火すらないのなら火事も起きないよな」


 なんで喧嘩口調なんだよ、親父。

 始まる、始まるよ、夫婦喧嘩が。


「そうだよね、浮気騒動何ってこれが初めてじゃないし、パパは自分が思っているほどモテると言う自覚ないし、やる時はやる人だからね」


 おいおい、小さい子の前で何言ってるの母ちゃん、って言うか浮気騒動がこれが初めてじゃないってどういうことだよ、それは。


「あぁア! お前、おれが信用できないのか」

「信用したいから言っているのよ! あの子を見て、本当に心当たりはないの? 本当に⁉」

「だからないと言っているだろうか!」

「本当からしら、本当は忘れているだけじゃないかしら」

「何だと!」

「何よ!」

「やめろって、親父も母ちゃんも落ち着けって、妹達が見ているんだぞ!」


 このままでは血で血を洗うような凄惨な夫婦喧嘩になりそうだ。

 長男としてそれだけは避けなければならない。


「とにかくだ、三島さん、とにかく、こんな話されたも、困るし、日を改めて、ねえ」

「ああ、千畝の言う通りだ、とにかく。一度帰ってその母親を連れて来い、会えばわかるハズだ」

「……居ません」

「なんだって?」

「母は、亡くなりました、一ヵ月前に…… ガンで」


 部屋の中が急に静かになる、どうしたモノか。


「とにかくだ、いいから今日は帰ってくれないか、なあ、お前らも、ここはおれに任せて、部屋に戻れ」


 おれは妹達を部屋に戻る様に促す。


「帰りたくない」


 三島がボソッと何かを言う、おれは視線を彼女に向けると、大粒の涙を流しながら俯いていた。


「あんな家、帰りたくない、あんな…… 帰りたくないよ……」


 両手で顔を覆い、泣き始める。

 戻るとしていた妹達も、言い争いを再開しようとしていた、親父たちも黙り込んでしまった。

 ふと、おれの横をすり抜け、ふわりが三島の頭に手を置き、なでなでし始める。


「辛い時は我慢だはダメだよ、我慢すると良いことないよ」


 その言葉を聞いたと途端に大声で泣き始める。

 たぶん、この人は実家で相当つらい思いをしているのだろう、そして一縷の望みを頼りに親父に会いに来た、でも、ここでも厄介者扱いされて、苦しかったんだだな、この子は、この子はおれ達家族から拒否されたおそらく一人だ。


「なあ、親父、今日はもう遅い、ここに泊まってもらったらどうだ、客間は空いているし、このまま帰すのも気が引けるし」

「……由夢がいいのなら」


 そう言って、親父は母ちゃんを見るが、ニコッとした笑顔を見せて後、平手で親父の頬を叩く、乾いた音が部屋の中に響き渡る。


「今日はこれ手打ちだから、続きは明日だからね、パパ」

「……ああ」

「さあ、そらちゃんだっけ、客間に案内するね、ほらちーちゃん風呂沸かす!」

「ういっス」


 お袋は笑顔で三島さんを客間で連れて行く、しかし、続きは明日とか言ってなかったか、まさか、明日からこんな思い空気が続くのか、そう思うと憂鬱になるおれだった。

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