0話:おれの家族
この物語は、安藤家の波乱に満ちた一年間の物語である
0話:おれの家族
はじめに言うとおれの家族はどうも世間一般的な家族とは違うようだ、まあ、少子化の時代で一男十女の両親二人の十三人家族だから、既にそこからしてどこかズレているような気がするが。
え、お前は誰かって、ああ、すまない。
おれはこの物語の語り手と言うのかな、この物語の主人公だ。
おれの名前は、安藤千畝この安藤家の長男だ。
因みに十七歳の高校二年生、年齢=彼女無しのまあ、至って普通の高校生だ。
まあ、モノのついでだ、ここでプロローグ的な感じでおれの家族を説明させてくれないか。
「兄ぃ! 晩御飯だよ!」
「お、お前っわ! 部屋に入る時はノックをしろと言ってるだろうがァ!」
「いいじゃん別に、兄妹だし、あ、それとも、エロ動画でも見てた?」
「うるさい、あっち行け! シッシッ!」
「早く降りて来てね」
ええ、いきなりですまないが、今のが二女の安藤ヒラリだ。
二つ下の中学三年生、薄い赤色が混じったような黒髪をショートにしている、活発な妹。
実際運動神経は抜群で柔道二段、中学の部で全国大会で優勝しているし、オリンピックの強化指定選手に選ばれている。
しかし、ヒラリの奴は最近やたらと、色気ついてきて、化粧品や服などに興味を持ち始めた、まあ、普段ジャージ姿で尻掻きながらポテチを食べて過ごしているヒラリには似合わないだろう。
さてと、飯にでも食いに行くか、下に降りるのが面倒だ。
なんでおれだけ二階の隅の部屋なんだ、しかもだ、この部屋の扉は建付けが悪いのか上手く開かない。
いつも、思うのだがヒラリの奴はどうして簡単に開けられるんだ。
こういう時は体重を乗せて、一気に押し込む。
ドアは勢いよく開きくとおれの目の前に、三女の春奈の姿が飛び込む、そして飛び込んだ。
ウムン、周りが暗い、でも、いい匂いだ、それになんだろうが柔らかい、モミモミ。
このマシュマロのような弾力感、揉んでいるだけで幸せになる。
おれが顔を上げると、春奈が泣きそうな顔でおれを見ている。
まあ、なんとラブコメ的展開でしょうか、おれは妹の胸の中に飛び込み、あまつさえその胸を揉みしだいているではありませんか。
「あ、えっと、悪い、春奈。べ、別にわざとじゃあ!」
春奈は大粒の涙を流しながらおれから走り去っていく。
三女、安藤春奈。
ヒラリと同じく二つ下の十五同じ髪の毛だがこちらは腰まで伸ばしている、そして同じ中学。あ、双子じゃあないよ、四つ子だよ。
まあ、姉のヒラリと違って大人しく控えめで家に籠りがちな妹、そして、妹たちの中で一番の巨乳である。
あ、いや、変な意味じゃないぞ、妹の成長を温かく見守るのも兄としての務めでだ。
「キモ、なにハル姉を襲っているの、マジでキモ」
汚物でも見るかのように五女の安藤希来里軽蔑の目がおれに突き刺さる。
こっちはおれより、四つ下の十三、中学一年。
茶髪に染め、今どきのギャルと言う感じだ、因みにであるが妹の中でこいつとは小さい時から馬が合わない、顔を合わせればすぐ喧嘩だ。
だが、おれは既に高校二年生、ここは大人の対応をするまでだ。
「なにょふのことだ!」
あ、噛んだ。
うわぁ、恥ずかしいなこれ。
で、希来里は、はい、わかっていますよ、いつも以上にましてキモイ、ウザい、近づくなオーラ満開だな。
「死ねばいいのに」
うう、妹に死ねとか言われた、お兄ちゃん超ショック。
そそくさと去る妹の背中を見て、泣きたくなる。
「お兄ぃ、どうしたの?」
「うう、ふわりか、お兄ちゃんちょっと心を痛めてな」
六女の安藤ふわり、十二歳の小六。
金色の髪の毛にエメラルドグリーンの瞳、かわいらしいアンティークドールのような感じだ。
ちょっと天然が入っている。
え、どうして金髪なのかって、ああ、そうかおれの様相を説明してなかったな、おれも金髪にエメラルドグリーンの瞳だ。
まあ、父親がクウォーターだからだろう、欧州系の血がある所為かおれも日本人離れしてよく外人と間違えられる。
でも、モテない、あ、それは今はいいか。
「お兄ぃ、ご飯行こう!」
「ウン、行こうか」
ああ、妹の中で一番かわいいな、ふわりは。
この子は穢れなき可愛いままで居て欲しいな。
ふわりの小さな手を握って階段を降りようとして、ふと、妹たちの部屋の扉が開いていることに気付く、覗くと一人だけ、物凄い形相でノートに何かを書き込んでいる妹が居た。
四女の霧江だ。
「ウフフフ、エヘヘヘヘヘ」
と、変な声を出しながら書き込み、下を舐めずりまわす。
また、BL小説を書いているのか、あいつは。
「お兄ぃ、キリ姉ちゃん何で笑っているの?」
「うん、大人になればわかるよ」
「そうなの?」
「うん、でも、一部の大人だけど」
「??」
首をかしげるふわり、ヤバ、可愛いな。
「おい、霧江、妄想はそれぐらいにして、降りて来いよ!」
「あとで、エヘヘヘヘ、賢者タイム終えてから」
「……妹の前でそれ言うなよ」
「エヘヘヘヘ、ヘヘヘヘ」
おれはふわり共に、降りる。
長いテーブルにはガスコンロの二台、その真ん中に肉が踊っている、醤油と肉の匂いが部屋中に充満している。
今日はすき焼きだ。
既に席についている、下の四つ子達が右手に箸を、左手に茶碗をもって騒いでいる。
「「「「お肉、お肉、お肉、嬉しいな!」」」」
声がぴったりだ。
説明すると七女の安藤れい、自称姉妹一のレディーと言うちょっと自信過剰な妹だ。
で、その隣が八女の安藤あすか、アニメ声で子供ポイ口調で喋るので、よく姉達に弄られている。
その向かいに居るのが安藤すみれ、男勝りの性格でヒラリと一緒に柔道を習っている、負けず嫌いは姉譲りだな。
で、最後に一番下の子である安藤のえる、我が家で一番掴みづらいと言うか、何というか、とにかく不思議系だ。
家ではほとんど喋らないし、学校から帰れば部屋に籠ってパソコンを弄っているような子で、何というかどう接していいのかよくわからない。
でもって、おれの席はのえるの隣なんだよな、スウッと座ってもこっち向かないし、下の四つ子に合わせて、肉と言っているだけだし、何だがな。
と、携帯が鳴る、相手は安藤家長女である安藤コルダからだ。
安藤家長女、安藤コルダは天才である、僅か六歳で量子コンピューターの製造と基礎概念を確立して、高分子学で新型構造体の論部を大学雑誌に投稿して表彰されたほどだ。
その頭脳を興味を示したアメリカの大学から特待生での入学を打診され、昨年の春に卒業、現在留学先の大学で十五歳と言う若さで研究者として働いている。
そんな妹からの電話だ、出ないわけにはいかない。
「もしもし、しもしも」とおれ。
『はーい! 愛しの妹コルダだよ、ニューヨークからお兄ちゃんへの愛の電話だよ! お兄ちゃん元気している? 妹の声で興奮してる! 勃起勃起ビンビン! ビシューって、白濁液元気よく飛ばし――!』
ピッと、おれは電話を切る。
天才とバカは紙一重と言うが、本当にこいつは天才なのかと思う程、卑猥な言葉をよく連発する。
再度着信。
『なんで切るのさ!』
「卑猥言葉を連発する、妹はおれの兄妹に居ない」
『つれないな、せっかく寂しくってしているだろうなって思って、一人でするオカズをと思って、いろいろな写真送ったのに!』
「なに?」
『メール、見た?』
おれは一旦保留にしてメールを見ると添付画像があった、開いてい見ると、とても言葉で書くことが出来ない、モザイク処理が必要な、十八禁確実に引っ掛かる様なヤバイ写真が送り付けられていた。
「お前ェエエ! なんてもの送り付けるんだァアアアア! お兄ちゃんお前の頭の中が本気で心配だ」
『うん? どうして?』
「どう考えても年頃の女の子が、しかも兄に送る画像じゃあないからだ!」
『ラブリーな画像を送ろうと思ってさ、こう言うのお兄ちゃん好きでしょ、この前さ、お兄ちゃんの部屋、家探しした時にあったエロ本のポーズだけど、ほら、本棚の裏にあったやつ、気に入らなかった?』
「気に入るとかそういう問題じゃねえ、妹のあられもない姿の画像だぞ、それにあのエロ本はスク水だっただろうが、どうして全裸でM字開脚で○○○を指で開いたピース写真送ってんだ!」
『離れていても、わたしの純潔は守っているって言う、アピール、キャッ! 恥ずかしいもう、何言わせるのお兄ちゃんたら!』
「そんなアピール要らんわ! ボケェェエエエエエエ!」
怒鳴りつけながら、おれは携帯を切る。
そもそも、兄部屋で家探ししてるんじゃなねよ、エロ本の隠し場所変えなきゃ。
ふと、痛い視線がおれに集まっていることに気付く。
「死ねばいいの、妹の前で堂々と性癖カミングするって、最ッ低ェ」
もはや早く死んでと言わんばかりの、希来里の視線がおれに突き刺さる。
やべえ、穴があったら入りたい。
とにかく、何かの拍子で流失してはいけないから、この画像は削―― 秘密ファイルに保存しておこう。
「お兄ぃ、○○○って何?」
「ふわり、それは知らなくていい事よ、ねえ、ちーちゃん」
肉のパックをもって台所から現れたのは、我が母、安藤由夢だ。
何というのだろうか、母親であるが、その、とにかく若く見える、歳は四十だが、どう見ても二十歳ぐらいしか見えない、実際におれと並んで歩くとよく、妹に間違われる。
「母ちゃんから、言ってやれよ、コルダ、本気で心配だぜ、アイツ」
「わたしから言っておくから、ねえ、霧江は?」
「あと少ししたら来ると思うけど」
「もう、あの子は」
「そう言えば親父は?」
「ここに居るぞ」
大柄な体格に筋肉質、厳つい顔は既に歴戦の戦士と勘違いしそうな威圧感を持つ、我が父、ジョージ・安藤・スマイル。
またの名を『人類最強の男』
現在四十七歳、職業、オーナーシェフであるが、親父はプロボクサーでもある。
ヘビー級の世界チャンピオン、WBA、WBC、IBF、WBO四大タイトル統一している、五十勝一引き分け五十KOのパーフェクトレコードの持ち主。
まあ、そんなこともあり、怒らすととても怖い、いや、マジで。
「店で残った肉だ、ありがたく食え」
「なんだが、その言い方何とかならないのかよ、親父」
「ああ、これがおれだ、それより千畝、飯食ったら仕込みだ、言いな」
「はいはい、明日の準備ねわかってますって」
おれは親父のレストラン「ハングリー」でシェフのバイトをしている。
それなりの繁盛している店なので忙しい。
まあ、料理は楽しいし、作って食べてもらって、帰る時に「美味しかったです」と言われるのは気持ちがいいモノだ。
おれは親父から料理の腕を盗むので必死だ、親父は独学で身に着けたと言うが、そうとは思えない程、手際がいい、その親父に調理スピードに付いていくのは容易ではない、早く親父に認められたいと言う思いと同時に親父を越したいと言う気持ちもある。
「おう、霧江、降りて来たか」
「うん、遅くなってごめん、お父さん」
「いい、じゃあ、みんな揃ったところで、頂きます!」
「頂きます!」と家族全員が言う。
我が家では家族揃って食べると言う決まりがある、どうしてそのような決まりがあるかはわからない、でも、親父はよくおれに言うんだ。
「家族はどんなことがあっても、離れてはいけない、一度離れた家族は元に戻ることは容易ではない、だからな、千畝、何があっても家族を大切にしろ」と。
親父は静かに晩御飯を食べるおれ達を見ている、これはいつものことだ、何だろうか、この時、親父の見る目は懐かしんでいるようで、どこか憧れていると言うか、よくわからない視線をおれ達に向ける。
親父は幼少期に相当苦労しているらしい。
家族にも恵まれなかったとも、前に訊いたことがあった。
そんなことを思い返しながらいつも、おれ達を見ているのか。
「どうした、千畝」
「いや、別に」
「そうか……」
そう親父が言った時だ、玄関のチャイムを鳴す音が、ワイワイガヤガヤしている食卓に響き渡る。
「誰だ?」
「千畝、見て来い」
「はあ、おれ?」
「行ってこい」
親父の鋭い目力でおれが反論しようとした口を開かせなかった。
全く誰だよ、こんな夕飯時に。
おれは玄関を開ける、と、視界に入ったのは美し女性だ。
夕日が陰り辺り一面が夕焼けに染まり始めているのに、その美しい女性は金色の髪を靡かせながら、エメラルドグリーンの瞳がおれを捉えていた。
「あ、あのどちら様で?」
「わ、わたし、三島そらと言います!」
「はぁ、三島さん? で、家になにか?」
「ジョージ・安藤・スマイルさんですね!]
[いや、おれはーー」
「わたし…… あなたの娘です! お父さん! どうかわたしをこの家に置いてください! お願いします!」
「………へえ? ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
この物語は、こうして始まった。
おれ安藤千畝と三島そらを含む安藤家の波乱に満ちた一年間の物語である。




