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エリィの身に起こったハプニングを目にしていたら、
誠は腹を抱えて笑っていただろう。
そんな事が起こっているなど知る由もない彼は、他の人物を気がかりに思っていた。
「吾妻のヤツ……戦ってくれっかなぁ」
「さあ、な。性格的にも無理がある気がするぞ。…………一人戦力が増えようが、二人増えようが、オレには関係ない。使えないなら邪魔なだけだ。オレはオレの好きにやらせてもらう」
「ホント十河って強調性ねえな。もっとチームプレイってのを大切にしろよ」
「常に和を乱すような振る舞いをしている人間が、なに言ってんだ。オレはいつも一人で何でもやってきたんだ。これからもなれ合いを求めていく気は無い」
「かー。冷たいねぇ。十河くんは。そうやってクールぶっちゃって。じゃあなんでこの班に来たんだよ」
「……………………」
「まあ、根掘り葉掘り聞く気はねえさ。……あ! そうか。わかった。十河怖いんだろ」
「――――なんだと?」
いつも無表情の十河も、誠が放った挑発を受けて、眉間に皺が寄る。
「一人って言ってるけどよ。一人が良いんじゃ無くて、連携が出来ないってことだろ? 別に笑いやしねえよ……ちなみに俺は出来ないと思っててもなんとか連帯感を意識して、頑張ろうとはしてるぜ?」
「……………………」
――その口が言う割に、大切にしている『連携』とやらを最初に崩すのはコイツだ。
「ナルホドなぁ。ようやく間宮十河を理解したぜ。なんだかんだ言って、根っこの部分は吾妻と同じようなもんだと――」
「そこまで言うなら、やってやるよ」
「お」
…………食いついた! なに? 十河ってけっこう単純なの?
「……………………お前、オレのこと乗せた気で居るようだが、それは間違いだからな」
「あ、バレてた?」
「単純なのはお前の方だ……連携ができないんじゃない。オレの足を引っ張ってくる人間と手を組んで、余計な荷物をこさえさせられるのが面倒なだけだ。仕事が増えるだけだからな」
「ハッ、言ってくれんじゃねえか。だったら使えるか使えないかは、ここで証明してやらぁ」
瓦礫を踏み、廃虚をくぐり抜け、
ようやく元来た場所に辿り着いた。
山田和夫と永井雅明は変わらぬ場所で陣取っていた。
「はッ! そこに居るのは解ってるぞ!」
和夫の声が、高らかに響いた。
物陰に隠れた状態で、二人肩を並べて座る。
「たぶん……スナイパーがいるな。オレ達が居ない間に、奴らも体勢を整えているはずだ」
「乱戦になるまえに、食らわしてくるってか……んで、十河。プランは?」
「お前……作戦もなにも考えてないくせして、オレにああだのこうだのとほざいてたのか?」
「ちょ、怖い顔すんなよぉ。俺たち仲間だろぉ~」
「……………………ハァ。まったく調子の良い」
二人はライフルの残弾を確認する。銃だけで戦うには頼りない。二対二。あるいは狙撃主付きの二対三。加えて向こうは居場所を特定する刻印がある。こちらは射撃能力も秀でているわけじゃない。圧倒的に不利。
「コレは訓練だが、こっちは命がけか。相手は一切ダメージ無し……」
十河は膝を付いたまま、思考に浸る。
市ノ瀬がトレーニングスーツの機能を復旧させてくれれば最善だが、
それまでの時間を、ヤツらが許してくれるとは思えない。
この状況下で、どう戦局をひっくり返せるか。
火力は不十分、銃撃戦に持ち込めば、こちらが危険に晒される。
長距離を射抜ける人間……稲弓がいれば少しは活路が開けると思うのだが、今回は不在。
射撃が得意な蔵風は索敵中。市ノ瀬は動けない。吾妻は――戦力としては数えない方がいいな。
オレら二人……どちらも近接戦闘向けか。
だが、突っ込むだけの荒屋を単体で向かわせるにはリスクが高すぎる。好き勝手に動くこいつの動きに合わせて、誤射無く援護できる器用さはオレにない。
一か八かなんて発想はあってはならない。
堅実に、荒屋を無傷で敵陣へと切り込ませる方法。
――――――導き出せる答えは。
「………………どうだ? いけそうか? あ、そうだ。スモーク持ってるぜ。コレあれば狙撃無理だろ。投げちゃおうぜ」
スタート前、ポケットにねじ込んでいた発煙手榴弾。
思い出したように取り出し、ピンに手をかけたところで、
――慌てて十河が静止させた。
「まて。……それ、使えるかもしれん。…………敵にダメージは与えられないものの、痛みは伝わる。オレが一発当てたとき、確かに奴は痛がっていた。敵の一人が使う刻印は、一定の距離に近づくと、オレ達の方向を察知することができる。やはり下手に動き回るよりも、特攻を仕掛けたうえで戦うしかない、か……そうなってくると。……………………――――ここで待ってろ荒屋。絶対にソレを使うなよ? そのスモークが鍵になる」
「え、ちょマジかよ、どこ行くんだ十河!?」
意図を理解できていない誠の声を振り切って、物陰から飛び出した十河。
待ってましたと言わんばかりに、二人から射撃が開始される。
遮蔽物に身を滑り込ませながらも、
すぐに別の場所から走り出し、
十河は止まることなく動き続ける。
――――ヘタクソが。
…………来い。はやく、…………来い!
……………………瞬間。
……ひときわ大きな銃声と、
空を切り裂く大口径の弾丸が、真横をすり抜け、
背後にあったコンクリートの壁を抉り取った。
「……………………ッ!」
十河は身を翻し逃げに転じ、誠の元に戻る。
「馬鹿野郎! トチ狂ったのか!? 当たったらヤベエんだぞ!」
心配と安心と怒りでぐちゃぐちゃになった表情で誠は隣に座り込み、緊張を解いて肩で息をする十河を睨み付けた。
「ハッ、ハッ、ハッ……………………………………聞こえたか蔵風」
『うん。ポイントはわかったよ。今から行くね、間宮君』
「ああ、頼んだ」
『…………………………は、はい!』
通信を終えると、大きな深呼吸。
「お前、まさか狙撃させるために出たのか!?」
「居るだけで邪魔だからな。蔵風が働いてくれれば二対二。…………勝機が見えてくる」
……ここから先、使わぬ物は全て重りだ。足枷となる不必要な、一切合切のライフルと全弾薬を、その場に破棄する十河。誠もそれに従う。
「さて。後は向こうが動かないのを祈り……蔵風が行動を起こすのを待つだけだ」
「――――へへへ。十河。お前いま、スゲエ悪そうな顔してるぜ?」
「それはお前もだろ荒屋。オレ達がやることは単純。その時が来たら――死にもの狂いで、正面から突っ込む」
「俺の一番好きな作戦だ。……んで勝算は?」
装備を確認しながら、問題ないと十河は言う。
それは決して『勝てる』とは違う返答。相手がノーダメージである以上、勝つことは不可能。
こちらが『生き抜ける』方法において、十分な数字が叩き出せるという意味での返事だった。
体の中にある魔力を確かめるかのように、十河は自らの手の甲に触れた。
「真正面から攻めるが、同時に奇襲を仕掛ける。やつらの銃撃を無効化させながら、な。…………オレが切り開き、お前をゼロ距離の独擅場に連れていってやる」
この第二演習場は、異界と同じ魔力の濃さがある。以前の戦いみたいに、完全にゼロになってしまうことはないだろう。よほど無理しない限り、魔力は十分使い続けることができる。
体外から、できうる限りの魔力を取り込む。
十河の口が自然とつり上がり、不適な笑いに変わった。
「さぁ…………奴らを死ぬほど痛い目に遭わせてやるぞ」




