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<19>

 試合の安全を制御しているのは、フィールド中央に備え付けられている制御塔だ。ここから信号を送ることによって、フィールド内部にいる人間のトレーニングスーツが稼働する。

 谷原真結良は市街地を一心不乱に駆け、ようやく『第二演習場』辿り着いた。

 遠くから聞こえてくる『ビィィィィ!』という機械音。

 …………試合開始の合図だった。



「…………遅かったか」


 立ち止まり、耳にした音に焦りを感じつつ、手に持っている縦長の袋を強く握りしめ再び走り出した。

 演習場はあくまで演習をする場であって、その『場』に対してのセキュリティーに重点を置いてはいない。訓練所が重要視しているのは場を支える『土台』……つまり魔術を発動している基礎部分だ。…………彼女はいま、その場所を目指している。

 頂上に有刺鉄線が張られた――小高い壁で仕切られている演習場の内部に入る。

 真結良は内部の壁伝づたいに、ぐるりと反時計回りに北上しながら、細部に注意を向けて目的の場所を探す。

 彼女がいる場所は、足首ほどまで伸びた雑草が生い茂った、幅六メートルほど平地。

 外壁と廃虚広がる会場を隔てている、余分に設けられた空間。この平地は第二演習場をぐるりと囲っている。

 会場との間には、簡易なフェンスが境界線として立てられていた。



 ――どこからか銃撃の音が聞こえた。その度に、真結良の心臓は鼓動が速まる。



「…………!!」


 フィールドの北東側にさしかかる。

 ちょうどそこは甲村班がスタートするに位置づけられている場所の近くだ。

 ずっと雑草と平地が続いているはずの場所は、一部分だけコンクリートで台形に固められた違和感のある物体があった。

 側面を見てみると、大股二歩分ほどにくだる段差。狭い空間の前には重厚な扉がある。

 カードキーを通す電子ロックに鍵穴。扉の近くには如何にもといった監視カメラが一台。

 ……どうやら、鍵をとおす必要はなさそうだ。



 ――何故なら、扉はすでに開け放たれていたのだから。



 下へ続く階段。空の暗雲よりも暗い闇がぽっかりと口を開く光景。

 地下からは冷たい風が、呼吸するように吹き付けてくる。

 また、遠くから銃声のようなものが聞こえた。

 真結良は迷わず階段に足をかけた。



 薄暗がりの地下道は、普段から人の往来を想定していないためか、最低限の明かりによって道を照らしている。不気味さを思わせる薄暗さ。長年の劣化のせいか壁の亀裂から水が滲みだし、所々にしょうにゅうせきのような、白華はっかげんしょうによる変色を起こしていた。

 トンネルは一本道で、分かれ道などはなく。目指す場所はどれほど進んだ先にあるのか、真結良には見当もつかない。

 地上の音はもう聞こえない。切迫した状況になっているに違いなかった。

 水の滴る音さえも響きそうな静寂。耳の裏で自分の脈する音と呼吸だけが聞こえてくる。

 ただ、道なりに真結良は逸る気持ちとは別に注意深く、確認しながら進んだ。



 ――そして、道は終点を迎える。

 地下道の狭い通路とは違い、空間はひらけていて、体育館ほどの広さがあった。

 ゆっくりと、真結良は足を踏み入れた。

 天井には無数のパイプがうねり。

 機械の塊が等間隔で揃えられ、

 中央の地面には巨大な紋様……。

 俗に言う〝魔法陣〟と呼ばれるものが不気味な光を放っていた。



 ……この場所が、正に訓練を支えるちゅうすう

 双方無傷にするための魔術が機能する場所である。

 システムは承知しているものの、裏側を見るのは初めてだ。

 もっと、魔 (Anti)術 兵(Unknown)( Wepon)のように機械より(・・・・)の構造をしているかと思いきや、あくまで機械は魔術をコントロールするための端末にしか過ぎず、目をこらして見ると地面の魔法陣だけではなく、壁にも紋様が描かれ、常識から外れた部分の方が目立つ。

 真結良は歩く足を止め、前方を注視する。



 そこには――背を向けて立つ人間の姿があった。



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