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<17>-3

 一方……第二演習場にある別の場所では、

 着替え終わった問題児達が一塊ひとかたまりになり、円を囲んで座っていた。

 全員がトレーニングスーツの上に『正装』を着ていた。

 校内での着用が義務づけられている制服とは違い、正装は『異界』へ赴くときに着る服で、

 大まかなデザインは制服とさほど変わりないのだが、動きやすさと機能性に重点においている。


「おうおう吾妻。どうよ? いけそうか?」


「…………は、吐きそう、です」


「だははは。まあ緊張するわなー。なんせ相手は、お前をいじめてたあの甲村班だし、しかも代表戦でのカチ合いだもんな。俺も緊張が移ってきそうだ――ぜッ!」


 小気味良い、空を切るパンチの音。式弥の目には彼が緊張しているようには見えなかった。

 自分の手首を見つめながら、真結良から貸して貰ったミサンガをそっと撫でる。

 この場所に来るまでに――多くの人に助けてもらった。今度は……ボクが結果を出す番なのだ。


「…………で、谷原はまだなの?」


 入念なストレッチをしながら絵里は言う。


「さあ? 女子の方が詳しいんじゃねぇの? 着替えのとき、ロッカールームで一緒にいなかったわけ?」


「今日は顔を見てないわよ。……遅刻とはイイ度胸してるわね」


「まあまあ、絵里ちゃん。真結良ちゃんの事だから、もしかしたら私たちが来る前に、もう先に着替えて体動かしてるのかもだよ」


「ふぅん。……それならいいけど。一応チーム戦なんだから顔出しなさいよって話よね」


「…………フン。どこまでも勝手なヤツだな。――おい、吾妻」


「は、はい!」


「そんな緊張するな。……お前は考えるよりも、まずはしっかり体を伸ばしておけ。いざ動こうとしたときに、動きが鈍くなるぞ」


 そういいながら、十河は座っている式弥の背中を押した。


「……………………あ、いいなぁ」


 物欲しそうな目で、二人がじゅうなんする光景を、遙佳は横目で盗み見る。


「――――ところで、エリィと稲弓の姿が見えないんだが、アイツらはどこへ行ったんだ?」


 十河は一番近くにいた、遙佳を見て問う。

 不意打ち同然で目が合って、自分の顔がどんどん赤くなっていくのを感じつつ。


「たた、食べ物がないから、学校戻って購買でお菓子買ってくるって、言ってたよ」


 手で顔を仰いでなんとか返答する遙佳。


「……チっ、あいつら、映画を観る感覚かよ。お気楽なものだな」


「そういってる間宮だって、何もしないんだからいいじゃないのよ」


「まあ、な。…………だが、アイツらと一緒にされちゃ困る」



 そんな、会話をしつつ時間は流れ。

 いよいよ、出場者がフィールドに入場する時間……。

 ――時間になっても、谷原真結良が姿を現すことはなかった。


「…………どうしたんだろう。なにかあったのかな、真結良ちゃん」


 彼女が一足先に来ているのだろうという可能性がゼロであることを確信した遙佳は、何かのトラブルに巻き込まれたのではないのかと気がかりになる。

 ロッカーから持ってきた携帯端末で彼女に電話をかけてみるも、一向に応答する気配のないコール音がくり返されるばかり。


「…………………………………………まさか……あの子、逃げた?」


 絵里は疑いの眼差しで遙佳の端末を見つめた。


「そ、そんな事はねえだろ。この試合を誰よりも重く思ってたのは、他ならない真結良ちゃんだぜ? 逃げるなんてありえねえよ」


 誠も動揺が隠せず、その否定には不安が混じっていた。


「ぼ、ボク……探してきましょうか」


「ダメよ。どこに居るか見当も付かないのに、闇雲に探したって見つかるわけないわ」


 無意識に絵里は親指の爪を噛む。


「何考えてるの……まったく」


 徐々に悪くなってくる班の雰囲気――。



「蔵風。……蔵風遙佳はいるか?」


 追い打ちをかけるように、代表戦の担当官がグループに向かって呼びかけてきた。


「はい。私です」


 立ち上がって、担当官に遙佳は近づいた。


「蔵風班……全員揃っているか?」


「いえ、あの……実は、まだ一人いなくて」


 明らかにいぶかしんだ顔をする担当官。

 話している相手が『問題児ノービス』だということを担当官は認知している。

 彼の表情が曇ったのは、またどんな問題を起こしたのだといういやから来たのであった。


「一人、いないだと?」


「ちょっと、私たちも把握してなくて……たぶん、来るかもしれないのですが」


「たぶんとは、どういうことだ。代表戦を遅刻しているというのか? 寮からここまでさほど離れていないんだぞ?」


「も、申し訳ありません」


「開始時刻に変更はないからな。……時間になってもこない場合は、もう一人選手を用意しなければならない」


「…………あのぉ。向こうが、甲村班が一人減らすことは出来ないんですか?」


「お前は何を言ってるんだ。メンバーの合計人数はそちらの方が多いだろう? だったらそっちで調整しなくてはいけない規程がある。怪我か病気でもない限り、例外は認められない」


「ど、どど。――どうしましょう?」


 遙佳は振り返りながら、疲れた顔を見せる。


「うーん。どうもこうも。良いプレーヤーが、ここに一人いるじゃねえかよ」


 ――――誠が隣を指さす。

 その指先が示す先に、全員の視線が集中する。

 間宮十河は、全員の期待する視線を一身に受けて、

「まさか」と言った表情で、戸惑いのあまり一歩下がった。


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