<16>
その夜――男は自らの顔を明かした。
そこには闇夜も、身を隠す纏いもない。
顔を見たときの第一印象は――予想と大きく食い違っていた。
「どうしたんだい? そんなに不思議そうな目で見られても困るのだけれど……」
――どうしてこんなヤツが異形の死骸なぞ求めていたのだろうか。
加えて、第二演習場での細工…………。
姿顕わにした顔からは想像も付かない知識を持っていたのは明白。アレだけの事ができる者など、どこにでも居るものじゃない。
男の能力は、その顔だけで判断出来るものでは……到底なかった。
「いよいよ明日だね。ここのところ曇り空が続いていたから、たぶん明日も曇るんだろうね」
見上げる空は、月も星空もない。薄らぼやけた雲が夜に天幕を張っていた。
男は天気の話をするものの、話題を起こした当人は天気の事など、どうでもようさそうだった。
「全てが君の理想通りになれば……君の心は晴れるのかい?」
さあ――わからない。晴れるかもしれないし、晴れないかもしれない。そもそもそういう問題ではないのかもしれない。
ちゃんとした意志があるにもかかわらず、その動機は随分と曖昧。明らかになったところで大切と同時に不純なものである。いよいよ明日だというのに、いざ少し先の未来を前にすると、どうしてこんな事を望んだのか、過去に疑問が残った。
怖じ気づいているわけではない。後悔とも違う。
ただ……ほんの少しだけ、
感情的になっている熱と熱の隙間から見せた冷静さが、自分を振り返らせたのだった。
こうなった理由が何であったのかと吐露する自分に、男は言う。
――ハッキリと思い出さなくとも、よいのではないだろうか? ……と。
「人間の溜め込んでおける記憶の量など、たかがしれていると聞く。憶えていたとしてもソレが本当に精密な記憶なのか誰も解らない。ハッキリできない。それどころか自分の都合の良いように改竄されていると言うじゃないか。……君の動機が決して下らない礎の元に成り立っているとはいわない。だから断言するが……――その思いは確かにあった。…………忘れてもいい。憶えていなくともいい。……だが、これだけは忘れないでくれ。――強く突き動かすに足る動機が、その心の中で確かに芽吹き生まれたんだ……君の過去にそれが存在していた事実。現在の自分が、正にそれを証明しているじゃないか。強い意志をもって望んだ。立場が危うくなると知りつつも、未来が閉ざされるかもしれない思いながらも! だからここに君は立っているんだ。だからオレは君に惹かれ手を伸ばしたのだ。今の自分さえも偽りの気持ちであるのならば、過去もその程度の物であったと諦めるがいい。しかしだ。……ソレはニセモノなんかじゃない。紛う事なき〝ホンモノ〟だなんだよ」
耳を通さず、じかに心の隙間を埋めるように入り込んでくる……男の言葉。
胸が締め付けられる気分になった。
「こうみえても、わりと人の恨み辛みには敏感なほうでね。君が抱えているその白き黒点はまやかしではないと――オレが保証しよう」
そうだ――男の言う通りだ。
ここまで来てしまったら、やるしかない。
…………それ以外の道は、考えられない。




