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<14>

 明後日の代表戦……普段は厳重なセキュリティの元に管理されていたが、

 つねごろから人が常駐しているわけではない。完全なる無人。訓練所の敷地外にあって、さほど離れていない場所にある『第二演習場』は、不気味な静けさに包まれていた。

 静寂の中には、機械による監視の目が行き届いているはずなのだが、今夜は勝手が違った。

 視線は全て排除され、第二演習場は誰が何をしようとも、現場に居ないかぎり、彼らの行動を知ることは出来ない。



 ――一時的に監視カメラなどの設備を黙らせたのは、隣で歩いている男の所業。



 異形の一部を欲したり、機械を操作したりと、ますます男の素性が謎めいていた。

 倉庫の中で見た男の姿はシルエットだけ。闇が姿を隠していたが、今回ばかりはその姿見をえんぺいさせるものはなく――。

 代わりに、暗幕のような布をまとっていた。

 やはり素顔は知られたくないのか。頭まですっぽり覆われて、その表情を窺うことはできず。

 発する声から、まだ若いと判断できるのみである。

 自分一人では、ここまで大規模な計画を実行することは叶わなかっただろう。そういう意味では、ここまでやってのける男に対して危うさからくる畏怖と、心の底から信じることはできないまでも、計画の歯車をスムーズに動かすじゅんかつざい程度の役割としては頼りにしていた。



 第二演習場の敷地内。

 導かれるまま連れてこられたその広い空間は、薄暗く風通しが悪い。

 方々が壁に囲われて、滞留しているカビ臭さと、冷えた湿度が足首を掴んでくる。

 ただ……人に関する常識から離れた場所だということがよく解るほど、体に染みこんでくる強い魔力に船酔いにも似た目眩を憶えてしまいそうだった。

 どうしてこんな場所を知っているのだと問うても、


「オレが持っている知識は――自分で言うのもなんだが、それなりに豊富でね。演習場の大まかな原理と構造がどんなものであるかは知っていた。答えから逆算して推理すれば、自ずと中心点が導き出される。…………君が成そうとしているこの舞台に、オレは興味を引かれていた。本音を言ってしまうと、ちょっとした運命のようなものを感じざるを得ない。ここのシステムを見たいオレ。そしてこの場所を舞台とした君。まったく接点のない二人に似通った道理が存在しているなど、面白い話だとは思わないかい? …………さて、どれほどのモノなのか実際見てみてみなければわからなかったが、こんな場所があったとは驚きだ。ほんとうに凄いな」


 男は感嘆をこぼしつつ、舐めるように見回し、細かい部分まで目を通してゆく。


「技術の進歩というのは目覚ましいものだね。ほんの少し前に得たばかりの技術を――自分たちが制御出来るように応用し、未来のために活用する。正直驚きを隠せないよ」


 それで、どうやって自分を手伝ってくれるのだと、男に投げかける。


「簡単だ…………っと言えば嘘になる。少し時間は必要だが、必ずや君の理想を体現してあげよう。…………ん? どうした? 随分と思い詰めたような顔をしているが――――ひょっとして気持ちが揺らいでいるのか?」


 ――まさか。覚悟は決めているのだ。いまさら揺らぐような事はありえない。


「アハハ。その気持ちは重要だ。人間何かを成し遂げるには力が必要だ。それが『武力』なのか『知力』なのかはさておいて。肝心なのは心の部分だ。どんなに力を持とうとも、心がともなわなければ力を振るうことは出来ない。……………………たとえばの話になるが。訳あって王を討ち取り、自らが王に代わろうとする家臣が居たとしよう。こくじょうを決意し、実行するにはそれこそ途轍とてつもない心の強さをもって行動したはずだ。なんせ王を討ち取った先、手にするは一人の命ではまかないきれない数多の民だ。背負えるか否かの不安もあっただろう。…………やらなければいけないじゅうせきたいがんで、王に対する恩や、律儀にも守り続けていた忠誠心もあっただろう。過去と未来において、大義をかかげ成し遂げるには、様々な目に見えぬ障壁が取り囲んでくるものだ。……思い出はりょうしんとなって、その身に揺さぶりをかけてくる。目標が完遂された瞬間まで気を抜いてはいけないよ? ためいとは目に見えないかんげきから入り込み、君を侵す。気持ちをがれれば手の届きそうな瞬間いまでさえもやすく見失う。しっする先に残るはとがはいせき。…………君は努努ゆめゆめいまの気持ちを忘れぬ事だ。始まったら最後。滅びるのはどちらかだと憶えておくといい。…………平和的な結末など存在しない。どちらも生きられる未来など甘い。君がやろうとしていることは、まさにそれだ。…………誰しも笑えるようなきんこうはあってはならないのだよ。ほら――君の顔はいま、笑えているかい?」


 思わず、自分の顔をさわる。

 笑みなどない。不安を表してもいない。

 ――あるのは、未だ熱の冷めやらない怒りのみ。

 体の中で…………〝何か〟が暴れ回っているような感覚に身を包まれる。

 それでも、自分は気にしない。

 男からくべられてゆく言葉を燃料に、憎悪が勢いを増して高く燃え上がる。


「そうだ。憎むがいい。過去にいきどおるがいい。理不尽な運命を恨めばいい。与えられたソレが現在の全てだと知れ……未来にしろく。その一時いっときだけでも構わない。どこまでもきゅうに純白の……痕をも残さぬ白き惡と(・・・・・・・・・・)なれ(・・)


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