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<13>

 谷原真結良が班の変化を知ったのは翌日の事だった。

 どういうきっかけがあったのか、市ノ瀬絵里は二日後に迫る代表戦に参加すると言いだし、間宮十河は一時的(・・・)という条件のもと、同じく代表戦のメンバーに吾妻式弥を加えても良いという意向を示した。なぜ急に意見を変えてきたのか、二人とも詳しい話をしなかった。真結良にとっては彼らが受け入れた理由がどんなものであれ、どちらも歓迎すべきであり、問う必要性はなかった。



 喜美子、遙佳、そして真結良は……時間を合わせて学校内の廊下で落ち合っていた。

 真結良の体は、練習試合による痛みがほとんど緩和されているものの、まだ少しだけ残っている違和感と疲労があった。普通なら回復しているはずのダメージが翌日に残るほど、市ノ瀬絵里は強力な相手だったと改めて実感していた。


「真結良ちゃん嬉しそうだね」


 遙佳も同じような心情なのか、にこやかな顔が広がっていた。

 体に残っている疲労感など、どうでもいい気分になる。

 ――思わぬ形で揃った仲間。

 予定通りに行かなかったものの、結果として望んでいたものが手に入ったのだ。純粋に嬉しさがこみ上げてしまうのは仕方のないこと。


「まさか、間宮十河が一転して意見を変えてくるとは思わなかった。しかも吾妻式弥の稽古まで付けているというじゃないか」


 歓心しつつ、真結良は斜め前に立っている畑野喜美子を見て、


「喜美子も色々と手伝ってくれて、本当にありがとう」


「…………う、ううん。私は――なにもしていないよ」


 手には筆記用具。ノートと教科書。遙佳と約束していた、クッキーの材料が書かれたメモが反対の手に握られていた。



 真結良は来たる代表戦に心躍おどらしながら自分の携帯端末を眺めた。

 まだ操作の慣れていない端末のメールには、日程と代表戦の試合形式が表示されている。


「あとは代表戦を待つだけか。……この〝フラッグ戦〟っていうのはどんなルールなんだ?」


「言葉だけじゃ説明できそうにないから、紙で書いて説明するね」


 持ち直して開いた白紙のノートの上に、喜美子は繊細なタッチで大まかな図形を描いていく。

「フラッグ戦は、敵陣と自陣に分かれてフラッグ()が一本ずつあって。ルールは『缶蹴り』とか『棒倒し』とかに似てる、かな?」


「立てられた目標物に倒したり接触するって意味ではよく似てるよねぇ……あ、横槍ごめんね畑野さん。続きどうぞ」


「基本、フラッグ戦の目標物は移動してはいけないルールなんだけど。訓練所のフラッグ戦は目標物じゃなくて目標人物(・・・・)になるの」


「えっと、つまりメンバーの誰かがフラッグになるわけか?」


 喜美子は笑って正解を示す。


「訓練所でやっている大まかな戦闘訓練のルールはポイント減算式なんだけど、これはフラッグ戦にも適用されるの。フラッグリーダーは十ポイントの持ち点があって、先にフラッグを倒した方の勝ち……」


 ただし、と彼女はノートに付け加える。


「十ポイントを持っているのはフラッグリーダーだけなの」


「――ん? そうなると残りのメンバーはどうなるんだ?」


「基本的にフラッグが倒されない限りはずっと行動できるよ。守りと攻め。両方の役割を持っている感じかな」


 喜美子はリーダーフラッグの周りにいる図形に八の字を横に倒した無限大のマークを書き込んでいく。そしてその横にカッコを書いて、中に『10』の数字を入れた。


「ここからが少し特殊で、フラッグ以外のプレイヤーにも十ポイントのライフがあるの」


 意外に奥が深く、そして憶えておかなければいけない内容が多い。

 一言一句逃すまいと、真結良は耳に集中した。


「プレイヤーのポイントがゼロになると、その場で強制的に動けなくなる。……いわゆる行動不能状態だね。そうなると行動できる別の誰かが接触しなければそのプレイヤーは『除外』扱いにされちゃう。何度でも助けることは出来るから、自分の立ち回りは慎重に行わなければいけないの」


「攻撃だけが全てではないということか……」


 聞いた限り、これでは個人技でどうにかなるものじゃない。しっかりと話し合い、チームワークを確立しないかぎり、不利な戦いを強いられるのは必死。

 遙佳もフラッグ戦のルールに悩んでいるらしく。


「私さ、三年生の練習試合を見たことあるけど、…………大体が射撃からの攻撃で終わっちゃうようにみえたかなぁ。接近戦も有効だけど、そのぶん行動不能になった時のリスクがともなってくるし。先にプレイヤーの人数を減らしてフラッグを取りに行くか、それともフラッグのみを狙って単独で動くのか……難しいところだよね。あとけんしちゃう人も居るし」


「…………そうなのか?」


「試合は常に権利の放棄を行うことが許されているんだけど。接近戦で叩かれる痛みより、弾丸が直撃した痛みって相当なものらしいよ。脅かすつもりじゃないけど、打ち所が悪いと気絶しちゃう人も居るくらいだし。取り囲まれたり圧倒的な不利な状態になると、みんな降参してたよ。助けて復活させることはできるけど、ダメージが大きすぎると体を普通に動かす事すらできないらしいから、それで棄権しちゃうんだろうね」


 ますます、いかに立ち回れるかが重要になってくるわけか。思った以上に難しい難問だ。


「蔵風さんの言う通り、銃の取り扱いは重要かも。……弾薬の所持数は各自決まっていて、仲間同士の受け渡しは可能。敵の弾薬も奪うことが可能。無くなれば自陣に取りに行かなければならない。いかに弾丸を節約しつつ、有効に戦うかも重要だよね」



 ――そこで、一つの疑問に辿り着いた。



「……たとえばもし『銃弾なんか痛いだけで我慢すればなんとかなる』なんて、考え無しのプレーヤーが居たとしたら、それこそとんでもない戦力になるんじゃないか?」


「え? 随分と具体的だけど、銃が効かない人なんているの?」


 遙佳も真結良の言わんとするところを理解したらしく「あー」と言いながら少し悪戯っぽくはにかむ。二人とも頭の中で髪を逆立てている少年を思い浮かべていた。


「気合いとか、根性でどうにかなっちゃう男子――ね」


 二人して笑いあう間に喜美子はノートを閉じて、


「現実的に考えて無謀だよね。トレーニングスーツを着ていない状態で生身の銃弾をもろともしない人だったら話は変わってくるけど、何度でも活動再開できるからといっても、しっかりとポイントはあるわけだし。それに攻撃を受け続ければ必ず体に影響が出てくるはずだよ。…………ただ可能性が無いわけじゃないかも。実際に私は見たことがないから、何とも言えないけど」


 どんな秘策があるのかと、二人が喜美子に視線を集める。


「あるとしたら――『固有刻印』だね。もし刻印が使える人で、なおかつ防御系に特化してる人だったら、銃弾を受けながら攻め込める、かも。たぶんポイントの判定もないの、かな?」


「代表戦は刻印の有無も大きな鍵になるといっていたからな。…………ふむ、白兵戦に優れた刻印を持つ人材が居れば、それこそ戦略が無限大に広がるな」


「あの……二人って、屋外の『第二演習場』で試合だよね?」


「うん。そうだよ。…………あれ? 畑野さんにいったっけ?」


「――――噂で聞いた、だけだよ」


 今まで説明していた元気さが失われ、弱々しくなっていく様を見抜いた真結良。


「どうした喜美子……顔が青いが、具合でも悪いのか?」


 はっとする彼女は取り繕うような笑顔を浮かべて、なんでもないと首を振る。


「畑野さんのほうの代表戦はもう決まった?」


「私の所は、一対一になりそう」


「――――安藤は、一緒に参加しないのか?」


「安藤君は、ちょっと――いまは、……調子が悪くて」


 言葉を濁す喜美子。表情はやはり陰りがあって、その原因が先の異形事件に関わりがある物であると察した真結良は、それ以上の追求を避けた。


「とにもかくにも……早めに全員集めて話し合わなくちゃいけないな」


「そうだね。絶対勝たないとだね」


 二人の意気込みに強い熱を感じつつも、


「……………………………………」


 心の中で浮かない気持ちを隠しながら、

 喜美子はずっと真結良を見ていた……。


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