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<4>

 認識番号のネームプレートが取り付けられているロッカーを開けると、

 黒い布がハンガーから垂れ下がっていた。

 ゴム質の化学繊維で作られていて、さらさらとした手触り。

 谷原真結良は次の授業に望むため、淡々と服を脱ぎ始めた。

 黒い布は『トレーニングスーツ』と呼ばれていて、

 足首から手の甲まで被うように作られている。


「……真結良。これ着慣れてるんだね」


 いつの間にか、同じトレーニングスーツに身を包んだ小岩京子が立っていた。

 基本的にトレーニングスーツ一枚だと、あからさまなボディーラインが出てしまうので、シャツとハーフパンツの着用が許されている。

 京子もまた、それらを上下に着ていた。


「士官学校で使っていたヤツと同じタイプだから、慣れているんだ」


「これって着づらくて苦労するんだよね。ぜんぜん上手いこといかないんだよ」


 全身にフィットするタイプなので、トレーニングスーツと肌の間には余白がほとんど無い。


「スーツ同士は中で張り付きやすいから、最初に空気を入れてあげると着やすいぞ? 服を干すときに空中で伸ばすような要領で」


「へえ! そうだったんだ。次に着るとき試してみよっと」


「……まあ、京子の場合は、ひとえにスーツだけが原因では無いんじゃ……」


 出るところが出た京子の体を見流しながら、真結良は恨めしそうに言った。


「ん? どうこと?」


「い、いや。こっちの話だ。気にしないでくれ」


「………………?」


 自分のおうとつにコンプレックスを抱いているわけではいないが、

 やはり、比べるものが目の前にあれば、自然と照らし合わせてしまうものなのだ。

 ロッカーの通路から、喜美子もひょっこり顔を覗かせた。


「着替え終わった?」


「…………む、ぅ!?」


 視線を移せば、シャツを着用しているというのにもかかわらず、

 それらをゆうぜんとはね除けるスタイルの良さが、首から下に広がっていた。

 ――しかも、京子以上の代物である。


「どういうことだ…………な、内界の人間は、みんなあんな感じなのか……」


 制服を来ていたときにはじんも感じなかった豊満さに、

 並んだ二人を交互に見ながら、思わず頭を抱えてしまった。



 校舎は大まかに三つのエリアで別れている。

 ――授業や講義、ブリーフィングに使用する教室がある『学科エリア』

 ――生徒たちが持っている、固有刻印を訓練するための『特殊エリア』

 ――そして彼女らのいる所は実戦戦闘などの知識を学ぶ『技能エリア』

 三人は、ロッカールームを出て、

 次なる授業の場となるしゅうれんじょうおもむいた。

 幅広い廊下。左右にはスライド式の扉と、内部を覗くことが出来るガラスが張ってある。

 ガラスの向こう側には様々なトレーニングマシンや機材が備え付けられていて、何人かの生徒がグループになって訓練にはげんでいた。

 ……修錬場は『技能エリア』の中でもっとも広い二階建てのおくないしきホール。

 体育館に似ているが……その構造は似て非なるもの。

 バスケットゴールも無ければ、競技用のラインも引かれていない。一階の床材は木製のかわりにコンクリートを使い、一般的な体育館の数倍はあろうかと言うほどの広さ。

 ――スポーツとは別の目的で作られているのは明白だった。


「いい施設だな」


 士官学校時代の戦闘訓練は全ておくがい

 雨が降ろうとも行われるので体調管理に神経を使っていた。

 故に真結良にとっては環境の違う空間での訓練に新鮮さを感じていた。

 修錬場には、かなりの人数の生徒が待機していた。

 各々はストレッチをしたり、地べたに座って雑談をしている。


「……お、来たか」


 安藤はボディースーツにハーフパンツといった出で立ち。

 それなりに鍛えているらしく、長身と肩幅の広い上半身は、さすがは男子といったところか。


「ふむ……京子も良いが――コレもコレで谷原もなかなかスタイルが……」


 あごに手を当て、真結良の体をなめ回すように見、一人語る安藤。


「こん――の!」


 耳に届くや否や、間髪入れず京子のボディーブローが、

 薄笑いを浮かべていた安藤の腹へと食い込む。


「ほんっと最低だよね。コイツ。口に出すだけまだマシだけど、……でも終わってるわぁ」


「………………彼、大丈夫か?」


「大丈夫じゃなければ良いのよ!」


 床に両膝を突き、地面を凝視する安藤を無視し、

 京子は真結良の手を引き、隠すようにして自分の背後に立たせた。


「まったく。男子ってのはどいつもこいつもだよ……同じ班ってのが腹立つわー」


「三人とも同じ班なのか?」


「こういった実技の授業はだいたいが班ごとでやるんだけど……私たちと真結良ちゃんは、一時的にいっしょの班なんだって」


「グループ授業、か……」


 思い出したように京子は受け皿にした手を、拳でぽんと打つ。


「あー、そういや言い忘れてたよ。あたしが真結良の担当に選ばれたのは、あたし達の班に『仮所属』するからなんだよね。班は自分で選択できるはずだからあまり気にしなくても良いんだけどさ……でも、良ければあたしたちの班に入ってくれたら嬉しいなーって、えへへ」


「なるほど。それで京子が迎えにきたというわけか」


 多少回復したのか、青ざめた安藤が歪んだ顔つきで口を開いた。


「ゴッホ、ゴほ……いや、一時的に班に加わってもらうって事は、伝えておかんとダメだろ……コイツ、こう見えても俺らの班長なんだぜ? ……色々と抜けまくってるし、暴力的なくせに何で班長なんかね。選んだやつ、まじセンスねえ」


「なに安藤クン、もう一発喰らいたいの?」


 握った拳をちらつかせる京子に、安藤の表情が歪んだ。


「――いや、かんべんっす」


 生徒も徐々に数を増やし、ちょっとした人集りになり始めたとき、



「……………………ん?」


 なにやら耳に入ってくるけんそう。近くの生徒たちもせわしなく見回していた。

 どうやら、聞こえたのは真結良だけではなかったようだ。

 人が密集したときに沸き上がってくる騒音とはまた別の――怒号が混じった声。

 発する方向へと首を向けると、ざわつく人の囲いが出来ていた。


「…………チッ――またやってんのかよ」


 まだ痛む腹をさする安藤は苛立たしげにくちもる。

 気になった真結良が近づいてゆくと、言い争いの声はめいりょうに響いた。


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