<8>
「タニハラ? それは君のお友達か何かなのかな?」
――あの夜。男はそう問いかけてきた。
『異形の棘』を手から手へ受け渡し、時には器用に背中でキャッチする。
おそらく、問いかけてきたのは気まぐれか、単純な好奇心のようなものだったのだろう。
男の関心は手に持っているものに集約されているような気がしたからだ。
――谷原真結良。
それが自分の憎むべき相手だと男に伝えると、
「――っということは、ひょっとして。その魔道具つかって、その人に何か行おうと?」
ああそうだ。それ以外に何がある。
棚にでも飾って眺めるために、ここまですると思うのか?
取引自体が言葉通りヤバい行為なのだ。使用目的を言ったところで大した問題ではないと判断した上で自分は答えていた。
皮肉を含んだこちらの返答に、男は笑い出す。
とても楽しそうだった。楽しそうに見えるのに、
やはり演技のようなわざとらしさが、随所で現れている。
「いいね……。力を求めているというものだから、どんな欲望を持っているかと思えば、――復仇? 誅伐? 私刑? この際なんでもいい。いかなる理由があるにしろ、君はその人に痛い目を見て欲しいわけだ。………………いいね。すごくいい」
いったい何が気に入ったのか……一人で昂り、男は再び声を上げて笑う。
そんな感情の起伏を眺めていると、逆にこちらの胸の中が、ひどく冷めてゆく気がした。
「オレは楽しいことが好きだ。……特に、君のような衝動を持っている人間がどのような結末を迎えるのかを見届けるのが好きでね。…………そこで提言なのだが、この先の行動における君を援護したいと思っている、どうだろうか?」
――タダでか? また対価が必要になるのではないか?
悪趣味な男だと思いながらも、援護という提案には少しばかり惹かれるモノがあったのもまた事実だった。一人で実行すれば失敗するかもしれないというのは覚悟していた。少しでもあの女を倒せる可能性が高くなるのならば、願ってもない申し出だ。
「ふむ。君はオレのことを商売人か何かと勘違いしているようだが。まったく違う。………………そうだな。一番それらしい言葉で表現するならばオレは君の『とても近い隣人』なのだ。隣人ならば、お隣さんを助けるのが隣人の勤めであり、君が思いを成し、救われる姿を是非とも見てみたいと、そう思うのだ」
隣人……その例えに、どんな意味があるのかは定かではない。男の言葉に惑わされたわけじゃないが、自分を助けてくれると申し出ているのならば、コレに頼らない手はないだろう。
ただ、全てを許してオープンにするわけには行くまい。
……『危険』という名の存在が、男の背中から爪を研いで機会を窺っているように見えた。
この男は得体が知れなさすぎる。警戒は絶対解いてはならないと、心に予防線を張る。
返答は決まっていたが、――あえて時間をかけて承諾する。
満足した様子で、顔の見えない男は腰に手を当てて上機嫌。
こうして……謎の男を味方に付けて、更なる目的へ進行したのであった。




