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一方、感情的になって代表戦を申し込んだ甲村班。
問題児達のように内部分裂までとは行かないまでも、メンバーの不安は色濃かった。
「なあ、本当に勝てるのか?」
ニット帽を被り直した山田和夫は、最後の板ガムを口に放り込んで、空になった包装を握りつぶす。彼が心配しているのは言わずもがな、問題児の班との代表戦の件である。
今や〝問題児〟と名前が通っているが、奴らの実力はそれなりにあることを和夫は理解している。成績の悪さが目立つものの、戦いにおいてそれなりに動ける連中であるのは、誰もが持っている印象だ。やる気の無い姿勢でのらりくらりと訓練を怠けているが、彼らがもし本気をだすような事になったらどうなるのか想像も付かない。
「喧嘩沙汰になったと良く聞きはするものの、粛清されたというのは聞いた事がないな。……正直、実戦でどうこう出来るかどうかは解らないが、厄介な人間であることには変わりない」
隣で分析しつつ、無表情な永井雅明は心ここにあらずといった様子で淡々と語る。
「でもでも、あの稲弓は、そうとう弱そうじゃね?」
楽観思考の安達原祥子は、化粧をしながら緊張感なく言ってのける。
「それに誰だっけ? あの銀髪」
「エリィ・オルタ?」
「そうそうソレ。あいつも実戦訓練の様子見たことあるけど、全然だったし、余裕じゃん」
小林佐織の認識不足が加わって、更に良い方向へと安易な思考が加速する。
「………………そんなわけないだろ」
彼らのリーダー、甲村寛人は全員の易々とした意見を切って捨てる。
「オレらは五人。問題児のクズどもは八…………いや、七人のはずだ。そうすると自動的に人数の少ない方で調整されて、代表戦は参加する形になる」
「ってーと、向こうは二人欠員になるってか」
ガムを膨らませていた和夫は、開いた両手の指を順番に折り曲げてゆく。
「二人減らすとなったら、エリィ・オルタと稲弓那夏を引っ込めるだろう。実戦訓練において、これほど頼りにならない連中はいない――つまり戦力外だ」
「――じゃあ、残りの連中で来るわけだな」
寛人と同じように、考えを巡らす雅明。彼もまた寛人と同じように物事に対して思考から入る人間で、寛人も彼の発案には一目置いていた。
ある程度、考え評価した上で寛人は口を開いた。
「残りのメンツは――……」
大ざっぱであるが決して怯むことのない、荒屋誠。
反抗的な態度が目立つものの実力を持つ、間宮十河。
問題児に在籍しながらも成績優秀の異端、市ノ瀬絵里。
御し難い彼らを統率しているリーダー格、蔵風遙佳。
そして、士官学校から転校してきた新参、谷原真結良。
「十中八九……。奴らはおそらく、この面子で来るだろう」
一筋縄にはいかない。勝利が確実とは言えなかった。素行が悪いと言うだけで、個々の能力は間違いなくある。非常に厄介な存在に違いなかった。
ただ、寛人は無策で試合を申し込んだのではない。
確かに感情に流されて、あのような形になってしまったが、それでも確固たる考えがあった。
「まあ、何とかなるんじゃない? あたしたち普通に刻印使えるし。市ノ瀬来るかな? あのスカした顔に食らわしてやりてー」
「そうそう、全員でかかればマジ余裕っしょ。あんな雑魚ども……アタシは蔵風やらしてよ。良い子ちゃんぶって、前からムカついてたんだぁ」
「ヘヘヘ、女子ってこえー」
「……………………」
「甲村……いけるのか?」
三人の気軽な発言を冷たく見つつ、心の中を見透かしたように、雅明は言った。
馬鹿は何も考えていない……この代表戦は、そんな単純にいくものではない。
――甲村寛人は、短絡的な思考を嫌う。
「なんとかなる」とか。
「その場の雰囲気でどうにかする」とか。
行き当たりばったりの作戦を好まない。
やるならば、盤石な体制を整え、一から十までを確実な作戦で組み立てることで、確実な勝利をもぎ取る。単純な策では間違いなく敗北するだろう。
――だったら、事を複雑にさせて、狂わせてしまえばいい。
思考に思考を重ね、敵をからめ取るにはどうすればよいか。
弱点をあらかじめ探り出し、容赦なく欠点を突き貫く。
……勝てればいいのだ。勝つためならば何だってしてやる。
彼は知らないだろうが、その考え方は偶然にも間宮十河と非常に酷似したものを持っていた。
そんな彼だからこそ、この班のリーダーとして選ばれたのだ。
「まかせろ……絶対に勝つための手段は用意してある」
「へえ。どんなのよ?」
祥子は興味をひかれたようで、化粧をする手を止めて寛人を見た。
「細工だよ……」
全員が寛人の方へ集中する。言わんとしてることが理解できない。
――馬鹿は馬鹿なりに、頭から下りてくる指令に手足を動かせば良いのだ。
順序だって説明しようとも、どうせ解釈することなどできないのだ。
そもそも、俺はコイツらを信用していない。
余計な話をして、外部に漏れ出もしたら俺の立場が危うくなる。
コイツらは駒……仲間ではない。良いように動かすことのできる駒なのだ。
「…………ちょっとした細工を――試合そのものに、俺たちが勝てるように細工を施す。これによって奴らは自然と負けを宣言するって魂胆だ」
「んなこと、本当に可能なのかよ?」
半分も信じていない和夫は疑いの眼差し。
「試合に細工って……ソレって不正行為でヤバいんじゃないの?」
常に賛同してきた佐織も、寛人の出す危険性を察して、懸念の色を見せた。
「ようは、勝てれば良いんだ――だろ? お前らはどんな細工をしたのか知らなくていい。そうすれば――『知らなかった』で済む。なんせどんな事をしたのか本当に知らないんだ。バレても俺一人だけで犠牲は済む」
誰もが、自分の保身を心配していただけに、甲村の説得によって一同が安堵する。
ただ一人、雅明はその言葉に対して、
眉一つ動かさずじっと寛人を見つめていた。
――永井以外はバカばかりで操作しやすい連中だが、こうも相手の腹の内が透けて見えると、胸くそが悪くなるな。
「――――どんな人間であっても、必ず勝てる。絶対にだ」
どす黒い感情を主軸として、組み立てた作戦が静かに回り始める。
彼には暫定的ではあるものの光景が見えていた。勝利を確実に引き寄せているビジョン。
「絶対にあの女を潰してやる。待ってろよ、タニハラぁ……」




