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――吾妻式弥にとって、運に見放された日々の連続であった。
よくよく考えてみると、この訓練所に来てからというものの、
自分の人生は大きく暗転してしまったと確信している。
彼もまた、他の生徒と同じように『固有刻印』を持ったが故に、不条理な生活に身を置くことになった人間である。
刻印があることはわかっているのだが、
自分の刻印がどういう機能を持っているのか、
入学したばかりの彼には、まだわかっていない部分が山のようにある。
学校生活に理想を求めているわけじゃない。
ほとんど強制的に、収容されたこの施設で、何を望むというのだ。
先行きは不安で、堪らなかった。
首を下に向けて、少し猫背に歩く姿。
顔を上げなくてはいけない場合――たとえば交差点の信号や、教室の場所を探すときなど――それ以外はいつも自分のつま先を目で追いながら歩く。
なるべく、他人とは目を合わせたくない。
自分は空気でありたいと願っていた。
ふと人を避けた視線。窓の向こう側に、自分の顔が映り込んだ。
分厚い黒縁眼鏡はいかにも弱そうな生徒といった印象を与えるが。その見た目通り……腕っ節は皆無である。
身長は平均よりも少し低い。髪は長めで、自分の目が隠れるほど。
前髪は邪魔になるときがあって、切ろうとは思うのだが、毎回思うだけに留まる。
額に面皰があるというのも一つの要因なのだが――人見知りが強く。人と関わり合う事に逃げ腰。自らの気の弱さが相乗し、自分の視線を他人に悟られたくない気持ちが、結果として髪を下ろすスタイルに至らせた。
――窓の外は自分の心情をそのまま場景にしているかのような曇り空。
自分にもいつか、心晴れるような時が来るのだろうか。
先の見えない暗澹とする未来を想像する度に、彼は深い溜息をつかざるをえなかった。
人と接することに、苦手意識を感じている式弥は、自ずと孤独だった。
「ぃよう――吾妻くぅん」
すっと、当たり前のように彼の進行を遮る男子が一人。
半笑いのニット帽……その目は笑っていなかった。
「ぅ、あ……や、山田くん」
式弥の消え入りそうな声。
背後には彼らの班……甲村班の面々が勢揃いしていた。
式弥はさっそく〝詰んだ〟と直感した。
腹の中にある臓物が急激な速度で萎縮する。
「ひさしぶりじゃん。どうして俺たちに会いにこなかったんだよぉ」
ニット帽の生徒――山田和夫は、さも親しいかのように式弥に腕を回す。
「えっと……あのぁ。……ん」
言葉にならない言葉が、小さく開いた口から漏れる。
業を煮やした雅明の瞳がぎらりと光った。
「埒明かねえ。ちょっと一緒にこいよ。少し話をしようぜ」
手に持っていた小さな消しゴムをポケットに入れ、彼は隣に並んだ。




