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<13>

 地下の倉庫に残された真結良はどうして良いのかも解らず、

 開け放たれたロッカーの武器を物珍しそうに眺めるエリィに向かって、彼女は叫んだ。


「どうして、どうしてお前らはそんな平然としていられるんだ!」


「…………パニックになって、良い方向へ進むというのか?」


「――――っ」


 エリィの言うことは全くの正論だ。

 混乱におちいったところで、更なる悪化を生み出すことしかできない。


「マユラン……別にお前の反応は悪いことじゃない。いわば自然な精神反応だ。むしろあれだけの目にあって、気丈なくらいじゃよ」


「じゃあ、お前たちは何なんだ。なんでそんな――」


 これじゃあ、話が堂々めぐりだな、とエリィはこの場には、まるで似つかわしくない八重歯を覗かせて複雑そうな笑みをみせた。


「まあ、アレらは別物ベツモノ……そうさな。慣れてしまいすぎている部分があるからなぁ」


「………………え?」


 混乱に次ぐ混乱がそうじょうして、理解に苦しむ。


「――うーん……ちょっとした昔話だがの…………アレらは数年前まで地獄の中心地にいたのじゃ。閉じ込められ、出ることも出来ず。戦うか死ぬことしか許されなかった場所でな……それぞれバラバラの区に居たらしいから、詳しい過去までは知らんが、少なくともわれとトウガは同じ〝第三区(・・・)〟にいた。……あの男はいまや腑抜けに成り下がっているのだが、ああ見えてもわれらが所属していた自警団コロニーの中では一、二を争う実力の持ち主だったのじゃよ。といっても軍隊みたいな大勢じゃ無いぞ。減っては増えてしてたから……二十数人くらいか。最後には片手で数える程度になってしまったがの」

 否が応でも、エリィの発言は答えを言っているようなもの。



 ――現在は異界と化した『第三区』の出身。



 察しが悪い人間でも、一つしか出ない結論にたどり着いてしまう。

 真結良は目を見開き、表情が見る見るうちに変わってゆく。


「……………………そんな…………まさか、……じ、じゃあ彼は…………」


「ああ、世間が勝手にもてはやしている『ディセンバーズチルドレン』とかいう奴じゃな…………本人たちにとってはどうでも良い話なのだろうが」


 ――馬鹿な、大した実力もない、まともに授業すら受けていない問題児ノービスが、どうして。

 頭の中は混乱のきわみにあった。直感で導き出した答えは、エリィ・オルタが嘘をついているということ。だが多少冷静になってきた思考で、順を追って考えれば考えるほど、なぜ今にを吹く理由があるのか。



 真結良が完全否定できない要因として――あの行動力が念頭に上がった。

 異形を目の前にして、逃げや助けを求める選択をじんも選ばず、殲滅の一択を引いた。

 あの思考は並の訓練生では到底ありえない。

 そう――以前から異形と隣り合(・・・・・・・・・・)わせで生き(・・・・・)てきたのなら(・・・・・・)、話は別だ。

 選択の遅れは致命的な結果に繋がる。

 常に選択に迫られる環境にさらされ続け、

 自分たちだけで対処していたのなら、判断能力に合点がゆく。



「……彼……彼らは、『生還者』だったのか」


「まあ、そうじゃな。……そこらの人間よりかは遙かに多くの異形と出会い、時に逃げ、時に戦い……毎日、生きるためにしのぎけずって、生き残った連中じゃよ」


「あのバケモノを、倒せるの――か?」


「さあ? ……アレらはあくまで異界で生き残っただけの連中にしかすぎん。ディセンバーズチルドレンがあたかも最強の戦士であると勘違いし、勝手に妄想し……更には他者を奮い立たせる起爆剤として利用しているのは、どれもこれも内情を全く知らない外側の奴らだ。……いま起ころうとしている戦いだって、生還者だからといって予定調和も、保証なんかもあるはずはない。十二月の子供ディセンバーズチルドレンたちも同じ。そこらの連中とも同じ人間だしなぁ。…………生きて帰ってこれたくらいなんだから、それなりに戦力としてあたいするんじゃないのかのぉ?」


「……………………」


「――っと、言ってみたが、やはり単純な打算で考えれば、訓練だけでどうだのこうだの成績優秀とかほざいている連中より、よっぽど頼りになるかもな……少なくとも死傷者は最低限で済む」


「死傷者って……」


「アイツらも含め、他に出るであろう犠牲者の数だ。……アレらは異界から離れてブランクがある。完全に忘れてるなんて事はありえんだろうが……ま、なんとかなんじゃないかのぉ? 固有刻印は使えるし、戦闘経験は十分にある…………あとは命を天秤に掛けられるだけの根性があるかどうかだけじゃなぁの?」



 後頭部を強打されたようなまい……後ずさりし、ロッカーに背中をついた。

 なんてことだ――ディセンバーズチルドレン。

 私が望んでいた理想が、こんなに近くにいたなんて

 …………あまりにも違いすぎる。


「……………………」


 彼女が言うように、私が勝手に抱いていた希望だ。

 別に誰も悪い訳じゃない。

 ――――――ただ、


「………………ハ、ハハハ。そうか…………彼らが」


 エリィは頭をき、

 今にも崩れそうになる真結良に声をかけた。


「んで、お前はどうする? 谷原真結良准尉殿? このまま尻尾巻いて逃げるか? ここで待つか? それとも少しアレ等の戦いを見学してみるか? あるいは――――」


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