<12>
――異形と戦うには武器が必要だ。
彼らは、まっすぐ一階、職員室に隣接している地下階段へと向かった。
そこは倉庫として使われていて、普段は重厚な南京錠によって施錠されている。
生徒は立ち入ることを禁止されているが、
市ノ瀬絵里はここに武器が保管されていることを知っていた。
「すこし時間をちょうだい……」
遥佳は、腰に備え付けているポーチから、
可愛らしい刺繍が施してあるペンケースのようなものを取り出した。
ファスナーを開けると、中には何本もの棒状の金属器具。
棒の先端はそれぞれギザギザであったり、針であったり、耳掻きのような形状をしている。
「ピッキングツール? どうしてそんなものを?」
「ちょっと昔、すごく必要で自分で作ったやつなんだけど、最近使ってないから、感覚が鈍っているかもしれない。少しかかっちゃうかも」
扉の前にしゃがみ込み、手慣れた様子で鍵穴に器具を差し込んでいく。
「いや、そういうことを聞きたいわけじゃなくて」
「んなこと、今はどうでもいい話じゃねえかよ……」
誠のもっともな意見。
全員が三つ編みの髪を揺らす遥佳の手元に集中する。
「たぶん……ここと、ここを…………――きた」
小気味好い動作で堅牢な錠が、意図もたやすく開く。
倉庫はよどんだ空気が対流していて、冷たくなった空気が足首をなぞる。
普段から人が出入りしているような形跡は無かった。
天井には監視カメラが設置され、ストレートな廊下の左右には、いくつもの扉がずらりと並ぶ。
「武器は学校から離れた倉庫にまとめておいてあるはずだけど、取りに行っているヒマはないわ。……だから実質『学科エリア』で実践に耐えうる物はこの予備庫にあるものしかないはず…………まあ、実際に中に入って見たことないから、あるかどうかもわからないけれど。たぶん置いてあると思うわ……もし置いて無かったら――その時は逃げるしかないわね」
なぜそんなことを知っているのか絵里に問いただしたいところであるが、もうどうでもよくなっていた。
「…………あった。武器用の十五番ドア。番号は――」
細指が電子ロックのボタンをプッシュしてゆく。
ガコンとかんぬきが下がる音。
「なんで、番号など知っているのだ? 入ったことはないのじゃろ?」
エリィは首を傾げ、疑問に満ちた表情で絵里に問うた。
「結構知らない人間いるだろうけど、この校舎は元々企業向けの施設をそのまま流用して校舎として変更したらしいのよ。あちこち追加取り付けや増改築をしただけで、施設の設備にはかなりのムラがあるのよね。さっきみたいな防火壁のようなオーバースペックの物から、内部セキュリティがお粗末な物まで…………外部からの進入の為に監視カメラを取り付けているのだろうけど、内部からのハッキングは簡単にできる。……逆を返せば、データバンクに保存されている番号も見られるってこと勉強しておいた方がいいわね。この校舎色々と穴だらけすぎなのよ……人類の希望が集められた施設が、聞いて呆れるって話だわ」
――――ハッキングに、ピッキング。
おおよそ一般の女子高生ができるようなスキルの領域ではない。
もはや素行が悪い問題児どころのレベルには収まり切れていなかった。
扉の内部はちょっとしたウォークインクローゼットほどの広さ。
金属製のロッカーが並び、大小様々な刀剣類が立てかけられていた。
どれも訓練用の物ではなく、正真正銘、第一線で使われている魔術兵器に該当するものだ。
「ヒュー、選びたい放題ぃぃ」
誠は口で言うものの、武器を取りに行くそぶりは見せない。
「………………」
十河は腰に備えた一本の刀を捨て、
新たに立てかけられている二本の剣を取り出し、数回素振りをして感触を確かめる。
そんな行動を見ていた真結良は、
「魔術兵器なんか使えるのか?」
そもそも、魔術兵器とは自分の魔力を流し込んで、
兵器に組み込まれた魔術を体現させることができる道具だ。
扱うには魔力をコントロール出来ることが最低条件……。
ただ持っていただけでは、そこらの武器と変わらない。
十河は神経質なほど何度も素振りをしていた。
真結良にはそれが、戦う前の準備運動のようにも見えた。
「これらの武器は教員用にあるやつだから――中古なら、かなりクセが付いているだろうな。……でもタダの刃物より十分使えるだろう。流し込む魔力なんて自分の中にある物だけで十分。……今日の授業で十分溜め込ませてもらったことだし」
今日の授業――刻印訓練。
あの装置には確かに魔力が流れているが、
それを自分の体内に溜め込んでおける方法など、
基礎も出来ていない一年生の内に教えてもらえるはずが無い。
――こいつは、こいつは一体……何を言っているのだ。
「問題は許容の範囲内。……アンタは武器を扱えるのか? まあ、刻印使えるらしいから聞くだけ無駄か……」
一歩引いて、ロッカーを指さし、
「一応、アンタも持ってけよ」
「でも、こんなのは――校則違反の騒ぎでは」
「……………………ちょっと! あんた、まだそんなこと言ってんの!?」
別のロッカーで物色していた絵里は力任せに扉を閉め、冷たく言い放つ。
「知り合いの友達が殺されたんじゃないの? なのにまだ良い子ちゃんでいる気? そこまで徹底して貫き通せたのならば、馬鹿を通り越して、アンタ……哀れね。ほんとムカツク」
「――な」
「アタシたちはもう決めたの。戦いたくなければ助けを呼びにいくなり、応援を求めに行くなりすればいい。なんなら事が済むまでこの場で震えていればいい。その方がまだ使える。アタシたちの足を引っ張るようなら、邪魔だから引っ込んでなさいよ…………那夏、アンタが使えそうな獲物、ある?」
「う、うん…………たぶん大丈夫。これなら……たぶん……うー、んっしょ!」
小柄な那夏は、自分の身長に近いほどの長身をもつ大口径のスナイパーライフルを引きずりだして言う。
「……………………」
うつむき黙ってしまった真結良。自分の中に渦巻く混乱した思考と葛藤で歯噛みする。
さすがの遥佳もどこか悲しそうな表情でアサルトライフルに新しい弾倉を装填し、淡々と自分の準備を進めてゆく。
――――頭上遠くで、破壊音が木霊した。
「異形が動き出したか………………恐らく、外の連中もいい加減、異常に気が付いているはずだ。警報を解除し、防壁を開けたらすぐに移動だ…………それじゃあ。行くぞ」
荒屋誠、市ノ瀬絵里、稲弓那夏、間宮十河は緊張した面もちで部屋を出てゆく。
残されたのは、エリィ・オルタと谷原真結良。
「なんなんだ…………なんなんだ。あの連中は『問題児』と言われているのに、訓練だって満足に出来やしないのに、どうしてあんな――」
――――――強く有れるのか。
最後の言葉は心の中だけで吐き出した。
言葉にすればきっと、自分が積み上げてきた何もかもが否定される気がしたからだ。
「うーん。年頃女子ってのは。ほんとめんどくさいのー」
カラカラわらうエリィに目線を合わせず、
「私は……どうすればいい」
「死ねー、といったら、その通りにするのか?」
「……………………」
「嘘ウソ。冗談じゃよマユラン…………そうさな、生きればいいのではないか?」
「なにを、いってるんだ?」
その言葉を許容し判別し、吟味した上で理解する事ができなかった。
「だから生きればいい。いま自分にとってどうすればいいのか。生きるためにどうすればいいのか……別にマユランの友達が殺されたからといって、お前が報復しなければいけない道理などない。どっちにしろ、あの異形はアイツ等が仕留めてくれるだろうし」
「……どうして、そんなことが言い切れる」
「だったら、自分の目で確かめにいくか? …………ほら、一応武器は持っていっとけ。手ぶらで観戦するにはちょっとハードかもしれんからな……我はどれも重くて使えんから持ってかんがの。こんな鉄塊、ぶん回すヤツの気が知れんのじゃよ」




