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 かつての東京は、その狭い土地にもかかわらず、

 経済、商業、交通、人口、行政と……。

 様々な面で際だった数値をはじき出すことができる優れた場所だった。

 これは日常があってこその、約束された安定であり、日常が維持されているからこそ、多少のはあれど、人々はこのあんねいが続いてゆくものであると、誰もが胸の内で信じていた。

 これらは『日常』があったから成立していた出来事……。

 そして現実が一瞬にして崩れたのは、東京の中心からだった。

 ――空間に生じた亀裂が全ての始まり。



 ひび割れは程なくして、黒い裂け目となり。

 裂け目は徐々に拡大し、巨大な穴となった。

 空間に穴が開いただけだったならば、

 誰にも被害が及ばなかったのならば、

 独りでに閉じてしまっていたならば、

 超自然的な現象として騒がれたのみで済んだだろう……。

 ただ――事件のへきとうは穴から始まる。

 空間に開いた穴……穴が開いていると言うことはすなわち、

 ――――入り口と出口があるということ。

 別のどこか(・・・)へ繋がっているということにおいて他ならない。



 決定的な結論づけとなるくちが切られたのは、穴から現れた生物だ。

 姿形はおおよそ、地球に存在しているものとは、ほど遠く奇怪。

 骨格、形状、ありとあらゆる部分が生物学的にも判別不可能とされるほどの変異体。

 怪物は他生物を確認するや襲いかかり……本能のままに喰らう。気質は非常に荒くどうもう

 ようやくこの時になって人々は知る。

 空間の歪みは『扉』の役割を果たし、

 人知を超えた怪物――『異形いぎょうの者たち』をこちらの世界に呼び寄せてしまったのだと。

 時間を追うごとに、異形の者たちは穴の向こう側から、湯水の如く姿を現し、

 その日をさかいに、東京は常識のたが(・・)が外れ、歴史的にも最悪の一歩を踏み出した。



 のちに『パンドラクライシス』と名付けられる異形の発生。

 ……それが、今日まで続いている、事件の全容であり、

 全ての始まりである扉となった『穴』を塞ぎ、異形の流入をとめることこそが、

 人類の存続に繋がる手法であるとていげんされている。

 事件は東京を混沌のうずおとしいれるだけではなく、経済や政府の情勢にも大きな打撃を与えた。

 そして、大人たちが起こした失敗を――何も知らぬ子供たちが肩代わりすることで、

 今の世界は辛うじて崩壊への一途に、抗うことができているのだ。



 …………では、なぜ子供たちなのか?

 それはとある異形の御業(・・・・・・・・)によって、

 人間の子供たちに〝変調〟をもたらしたからだ。

 ……〝変調〟は人間の常識でははかれず。

 確信できるとすれば。他の武器を差し置いて、

 異形に抗えるけっしゅつした力を秘めていた、という点につきる。

 この予断を許さぬ事態に、政府は対応せざるを得ず、

 独断的な法改正により、変調〟した子供たちをを含め、

 学業と共に『兵士』としての戦闘訓練を積む事を義務づけられた。

 小学では既に、学びの中に異形の知識を組み込み、

 中学に進めば、自然と運動の中に銃器の扱いや、戦う術を教えられる。

 訓練の全ては異形と戦うため。いつ戦場に立っても、そんしょくない戦果を発揮できるように……。

 ただ、教育システムはあまりにも突貫的で、制定されてからの年月は浅く、

 どんなに言いつくろったとしても、その場凌しのぎの政策にしか受け取られていない。



 現在は高校まで、兵士としての訓練制度が設けられているが、

 これらは、教育の中に盛り込んだ、体裁の良い徴兵制において他ならない。

 あらゆる事を大人が取り仕切り「義務だから」と看板を突き立てる。

 子供たちは、為す術も無く定められた道を歩まなくてはならない。

 訓練の先には、いずれ――異形と戦わねばならない時が来るかもしれない。

 誰もが不満と不安を持って毎日を生き、不条理に対して嫌でも納得しなければいけないのだ。

 だが、これらの圧力を持って押し通してでも、

 事態の収拾をはからなければならなく、

 なりふり構っていられないのが、この国の現状……。



 ……真結良の視界は急に、灰色へと変わる。

 ウィンドウガラスの向こう側で横に流れる灰色は、三メートルはあろうかという無骨な壁。

 進むことしばらくして、壁の切れ目が現れた。

 車は停車し、真結良は料金を支払った所で。


「お客さん…………ひょっとして、軍人さん?」


 運転手は偶然にもひらいたコートの内側から覗いた制服を見るなり、問いかけた。

 目的地を告げたときから、確信があったのだろう。運転手の視線は好奇心と忌避と、罪悪感の混ざり合ったような様相をしていた。

 その中でも好奇心が先んじて溜まりかねた――といったところか。


「いえ。ただの……一介の高校生(・・・・・・)ですよ」


 意に介することなく真結良は薄い笑み作り、降車していった。


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