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「あれ? アンタ……なんでこんなとこにいんのよ?」
訓練所内に備え付けられているコンビニエンスストアの帰り道。
市ノ瀬絵里は、偶然にも男子寮の前に通りかかったところで、間宮十河の姿を見つけた。
プライベートな時間ともなると、誰も彼もジャージなど、ラフな恰好で過ごす。
だが、十河も絵里も制服だった。
「……エリィが勝手にオレの部屋を使ってんだよ」
「ああ。……例の歓迎会とかいうのやつね」
「お前は参加しないのか?」
「はぁ? 冗談でしょ。なんでそんな温いことしなきゃいけないの。アタシあの谷原って人、好きじゃないし」
「…………………………」
――ほんと、ストレートにものを言ってくれる。
市ノ瀬絵里は思ったことを隠そうとしない。
内に溜め込んだりするのはしないタイプで、平然と人が躊躇うことでさえも口にする。
それがゆえに、彼女には友人と呼べる友人は、ほぼ居ない。
十河は行動せず、人を寄せ付けずで、人と関係を作らないが、
絵里の場合、口を開けば周りから人が去って行く。
暴言の塊――という印象を深く刻みつけられるような人間なのだ。
「……谷原って、ストレートすぎんのよね。なんか一途っていうか。混ざり物が無いというか……荒屋のようなバカ真すっぐっていうわけじゃないのだけれど『正義』とか『理想』とか、顔色一つ変えず、恥ずかしいことを平然と言えるような人間じゃない?」
「まあ、な。……訓練のとき、勝ちに行く気あるかって、オレ達に聞いてきたもんな」
「士官学校だかなんだか別にどうでもいいし、エリートだから嫌い、って訳じゃないわ。アタシ言うことは言うけど、経歴だけで誰かを嫉むほど性格ねじ曲がってないし」
――なるほど、ある程度は自覚症状があるわけだ。そいつは重畳。
「一般的に皆が言ってる『前線』って定義……アタシは経験もないから良く解らないけど、アレはそういった戦闘に参加したら、速効で死ぬタイプね。…………映画とかでもあるじゃない? 死相を自分から捻り出すような、くだらないこと発言するやつ。……主人公でもないくせして、違和感たっぷりにに正義感が強いやつ。ああいうのがすぐ死ぬのよね」
だから嫌い――と。まるで聞こえようによっては彼女を憂苦しているように捉えられる。
「ああいうのが近くに居るだけで虫唾が走る……世間知らずだけならまだしも、それに加えて度し難そうな熱血漢って、ほんとゾッとするわ。勝手に突っ走って面倒ごとばかり増やすとか……アタシや那夏が苦労するじゃないの」
前言撤回……だよな。他人の心配なんかするはずないもんな。
市ノ瀬絵里は、稲弓那夏を気遣う一面を持つが、他人に対してはとことん冷たい。
「……まあ、オレも面倒なことはごめんだ」
「あら。他じゃ全く接点が無い割に、その点に関してはよく意見が合うわね」
――いちいち、針でチクチク刺してくるような言い方をするな。
「それにしても、あの子たちも物好きよね……歓迎会とか、別に仲が良いわけでもないのに」
「……………………」
オレは事前に蔵風が語っていたのを知っていた。
市ノ瀬がやった仕打ちに対して、謝らなければいけないという目的があったことを。
一時的であれ、知らない人間が班に入ってきたことも重なって、エリィや蔵風は妙な仲間意識を感じてしまっているらしい。
だから、接触のきっかけとした『歓迎会』は、うわべだけのものではないのだろう。
アイツらは好感のようなものを持っているようであるがオレは真逆だ。
嫌悪までとはいかないが、市ノ瀬と似たものを持っているのだと否めない。
――まあ、今回は一時のことであろう。
谷原はどう考えているのかはわからないが、優等生がオレら劣等生に対して良い印象を抱いているとは到底思えない。
「……どうせ、一時的なものだ。明日になれば元通りになってるだろ」
「でしょうね。そうでなければ困るし…………あの子、アタシ達を毛嫌いしているような目をしてたわ……口に出さなくとも透けて見えるのよ。……『自分とあの連中は違う。一緒にされちゃ迷惑だ』って目。他の連中と一緒」
「だからあんな嫌がらせしたのか?」
十河にも市ノ瀬が独断で行った〝棄権〟の行動。
彼にも、その意図が悪意のある振る舞いにしか見えなかったのだ。
「――ハァ? なにいってんの。現実ってのはいつだって『次の順番』なんてものはないのよ……アタシの次はアンタ、アンタの次は……って、いつだって戦う順番が決まっているわけじゃない。三分の一は、彼女にそれを教えてあげたのが理由」
「――――ん? じゃあもう二つは?」
「一つは、アタシが本当に調子が悪かったから。……遙佳は完全にとばっちりだけどね。もともと順組みも本当に何とかなると思っての構成だったし……最後の一つは――」
買い物袋を揺らし、十河の横を通り過ぎ、
振り返り様に嗤う。……嫌な嗤いだった。
「――アタシがあの子と話している内に、どんどんいけ好かなくなったからよ」
「……………………」
――この女は色々な意味で敵に回したくない。ほんと、性格が悪い。
谷原に向けての言葉だというのに、自分のほうが焦りを感じた。
「――まったく」
そういいながら視線を逸らすと、
話題の当人、谷原真結良が寮の扉を開けて現れた。




