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――――まさに歓迎会の会場へと、彼らが向かっている同時刻。
小岩京子は身支度を整え、班の仲間、安藤と喜美子に合流していた。
これが初の任務となる。向かう先は、夜の学校だ。
目的の場所には、既に二年生の六人班が集合していた。
駆け足で三人は走り寄ると、
「……これで全員か。時間通りだね」
リーダー格の男子生徒が緊張感をもって言った。
「先輩方――よろしくおねがいいたします」
普段よりも敬礼に力がこもる。
安藤と喜美子も同じようだった。
二年生はみんな一人前の兵士と認められた刀を腰に携えていた。
儀礼用と変わらないただの刀であるが、実戦でも使用できる武器である。
ただ、魔術兵器ではないので、特別な効果は期待できない。
「……………………」
自分たちのような優良生徒だから持っているのではなく、ちゃんとした証としての刀。
同じ物でも、京子にとっては天と地ほどの差を感じた。
サイファーに昇格すれば、武器は自ら使い勝手の良いものが与えられるという……。
いつか、自分も――同じようになるのだと、強く思った。
「さて、さっそくだけど、今回の任務は校舎内部の警備だ……人数はボクたちだけ。少数とは思うが、第一校舎を担当する事になっている」
第一校舎は、中庭と訓練所出入り口の間にある。
一般的に『学科エリア』と呼ばれている箇所だ。
複数ある学科エリアの校舎はそれぞれ連絡橋と連絡通路で結ばれているため、内部からは単体の建物のように見える。
正確には個別の建物が複合されていて、校舎は建物単位で区切られていた。
「…………ところで、警備っていうけども、いったい何から守るの?」
先輩の女生徒がリーダーに問うた。
――これには京子も同感だった。
急に与えられた任務。ただ内部を警備すると言っても、
何を警備するのかを知らされていない。
しかも、これだけの広範囲を警備するには、人員が足りなさすぎる。
任務の内容よりも、任務自体の根本が曖昧であることを疑問視していた。
危険な戦場に駆り出される兵士を育成すると同時に、訓練所は強固な外壁に囲まれた要塞であるのだ。旧首都でもっとも安全と言われる一つである訓練所を警備しなくてはならないとは、どういう了見であるのか。
他のメンバーも同じ意見らしく、回答を聞くため、視線をリーダーに集めた。
「……………………実はボクも詳しい話を聞かされていないんだ。知っての通り――前線から帰還した兵士がこの訓練所にいる。彼らを警備するのが今回の目的であるのだが、……これはちょっとした噂で……休息するついでにこの訓練所を視察に来たという話だが、因果関係は定かではない……まあ、警備といっても、この訓練所に不法侵入してくる人間なんて、まずあり得ないだろうし、内部に敵が居るというわけでもない。大方、帰還した兵たちのアピールも含めた形式的な……いわゆる『おつかれさまでした』を態度で示すものだろうな」
若干早口でまくし立てるリーダーであったが、
とどのつまり何もわかっていない、ということ。
京子は要約したうえでそう判断した。
「別に気張ることじゃないさ。各自、任されたエリアを単独で行動。定期連絡は欠かさないこと。何かあれば無線機で連絡すること」
耳についている小型無線機は、各自の機器とリンクされていて、
誰か話せば全員につながるようになっている。
「それじゃあ、行動開始。…………ここは勝手知った訓練所内部だが、任務は任務。気を抜くなよ?」
気を引き締めるために言ったリーダーであるが、
本人の口元は緊張感のない笑いを作っていた。




