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ParALyze~パーアライズ~  作者: 刻冬零次
第3話 【後編】
188/264

<20>

 十河、真結良、蘇芳、古都子の四人は大規模に迫り来る気配を確かに感じた。

 最初の一団が襲来したのと同じ前兆、奇怪な声が響き渡ってくる。


「また、あれだけの量が来るというのか? 後ろはもう耐えられないぞ!」


「……………………」


 現場の一部始終を見ていた蘇芳も、それくらい百も承知だ。

 一度目の波で、もう壁はボロボロ。異形を相手にした生徒の何人か死んでいる。負傷者も多い。敵が来ていることを知らせに駆け戻り、備える前に異形は到着するだろう。


「しかたねえな。オレが押さえつけといてやるよ」


「何をバカなことを。あれだけの異形、お前一人でどうにかできるわけないだろう!」


「うるせえな。邪魔だっていってんだろうが、すっこんでろ!」


「いいや、退かない! ……芦栂さん、今すぐ間宮と一緒に、仲間の所へ戻って、敵の襲撃を知らせて下さいッ」


「ソレよりも、私が残ります。その方が……」


「ガタガタうるせえッ!」


 蘇芳は刻印のある右腕を輝かせ小さな炎弾を、古都子の足下に放った。

 小さな爆発。地面が黒く焦げ付いた。


「二度目はねえ。――失せろ」


「………………わかりました」


 古都子は議論の余地がないと感じたのか、何も言わない十河の腕を引いて通路の奥へ行く。


「戻ってくるまで、死んじゃだめよ? 助けに来るからね」


 蘇芳は何の返事もしないまま、背中を向けた。


「谷原テメエもだ。オレの気が変わって斬り殺されねぇウチに、さっさと下がれ」


「どうしても、ダメなのか?」


「オレは今まで一人で戦ってきた。昔も今も……仲間なんか、いるだけムダなんだよ」


「そんな事はない! 例え、お前がどんなに嫌われる態度を取ろうとも――お前は、私の仲間だ! だから戦う。お前を一人になんて、させない!」


「…………なにが仲間だ笑わせんな。ついさっきまで人殺し呼ばわりしやがったくせによ」


「あ、あああれは……間違いだ。ちょっとした勘違いなんだぞ。草部蘇芳!」


 断固として退かない真結良。

 蘇芳はどれだけ突っぱねて、剣を振りかざそうとも効果がないと悟る。


「………………………………オレの邪魔をしねえと、誓えるか?」


「ああ!! もちろんだ草部蘇芳ッ!」


 ようやく相手が折れる確かな手応えを得た真結良は、度し難い問題児ノービスとの、友好的な第一歩を踏み出せたと心が躍った。


「じゃあよ。早速だが頼まれ事がある」


 もうすぐそこに異形が来ているというのに、真結良の耳は『草部蘇芳からの頼まれ事』という、ちょっと前ではまずあり得ない言葉を聞いて耳を疑う。


「…………すごい。コレが友達効果か。いろいろすっ飛ばして、とんでもない前進ではないか。異界じゃなくて普通の学校生活であればどんなに良かったことか」


 ニヤ付きが止まらず、口に手を当てて冷静を装う。


「で、何をすれば良いのだ!?」


「持ってる武器がぶっ壊れそうなんだよ。だから後ろの陣営から、誰のでも良い。一本剣を持ってこい」


「わかった。今すぐ持ってきてやる。すぐに持ってくるからな! 逃げるんじゃないぞ!」


「どこ逃げるってんだバカ」


 さっきよりも足取りはかなり軽く。

 よう(よう)。真結良は通路に入っていった。



 通路へ駆け足で入ると、彼女は派手に吹き飛ばされていた。

 聞こえたのは爆音。背中に叩き付けられた爆風。

 目のめりに倒れた体を素速く起こし、振り返ってみると、通路が――消えていた。

 寸断していたのは、光を失って塞がる岩石の山。



『ハッ、とことんバカ甘な女だな。学習能力の無さと、おつむの緩さには心底同情するぜ』


 崩落した山の向こう側から聞こえてくる、蘇芳の小さな声。


「なんてことを! どこまで勝手なヤツなんだ! こんな事をしたら助けにいけないではないか! どうやって戻ってくるというんだ!」


『知るか。さっさと戻って、お荷物どもでも助けてろ。向こうに戻った先の分岐点はあと二つあるんだぞ』


「草部……おまえ、死ぬ気か?」


『言っただろうが。オレはサイファーになる為、訓練所にいるんだってよ。こんな所で死んでたまるかよ。バカ野郎』


 まるで何を考えているのか理解できない。

 通路が一本潰れた。残りは二本の分岐点。

 そこさえ守れていれば後方の人間は助けられる。しかし、草部蘇芳はどうするのだ?


『おい! 絶対に戻ってくるから、ソレまでは死ぬなよ!』


「他人の心配をするよりも、テメエの――」


『――他人じゃない! お前は仲間だ!』


「……………………」


『私はお前を認めさせるんだからな! いいか、絶対だぞ!』



 ようやく、離れてゆく気配を感じた蘇芳は一人、口角を上げて笑った。


「とことん暑苦しいヤツだぜ。……めんどくせえ女だ」


 振り返り、大きく空気を吸い込むと同時に、魔力を体内に取り込んだ。

 ――見えてきた。異形の群れ。緑の光が点々と地面に天井に並ぶ。

 最初に現れていた群れよりも多く。敵は一人きりの蘇芳を見つけると、こちらが優勢であると主張する奇声を高らかに上げた。

 立ち尽くす蘇芳は、歯を見せて笑い、剣をリズミカルに上下させて、肩を打つ。


「さあて。ここからはオレと貴様らクズどもだけだ。せいぜい――数が力じゃないって所を、証明して見せろよ?」


 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


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