<14>
「ハッハハハ。考えたな。まさか協力して体勢を立てるとは…………なかなかどうして良い統率者がいるようだ。混乱した所を狙えば、あっというまに皆殺しにできると踏んでいたのだが――やるな。全滅は大いに結構だが、すんなり出てきて貰っては困るんだ」
男は目を閉じ、地面に描かれている魔法陣に手を置き続ける。
…………男は見ていた。目を閉じながら、異界の中を見ていた。
人間の目は二つしか無いが、昆虫には複眼と呼ばれる膨大な数の目が集合した器官をもつ。複眼は外敵からの攻撃に対応できるため、視覚野の広さを確保しておくためにあると言われている。
――いま、男が見ている二つの目には〝三十以上の視界〟が確保されている。それも全てバラバラの視点で、だ。
目ではなく脳で見る。人間離れした業を使い、異界の内情を把握していた。
異形『スウォーム』は、とにかく性能が低い。
潤沢ではない魔力。中途半端な異界。そこから作り上げ、召喚した異形はオリジナルの比較にはならないほど劣化した生き物となった。安定した同じ個体の連続召喚などまともにできず、身体能力の低さが際立ってしまうのは仕方のない事であった。
個別の性能が悪いならば『人海戦術』で行くしかあるまい。
男は異形である『スウォーム』を操ることができた。ただし操作できるのは二体程度。異形にも本能的な意識があるので、完全に意識を乗っ取ることはできない。
必要なのは情報。外部でも内部でもいい。この異常事態において、ブラックボックスの人間がどう動くか。男の目的は一点にのみ集約されていた。
スウォームは洞窟の中心点で、絶え間なく生み出される。
生み出せる数には限界があるものの、男が魔力を供給し、術式を維持し続ければ多数のスウォームが生成可能だ。
男が懸念していたのは、洞窟の中心にある〝儀式場〟に向かわれることだった。
もし生徒たちが一丸となって、準備が整う前に特攻を仕掛け、儀式場を破壊していたら、スウォームが数を揃える前に生徒たちは安全が確保できていただろう。
……そこまで行動できる生徒はまずいない。見知らぬ不気味な洞窟に放り込まれて、内部がどうなっているかも判らない状態で、異界を支えている〝核〟までたどり着けるとは思っていなかった。全ては順調。計算通り。
後はこの状態を維持し続ければ良い。もし内部の人間達が全滅しようとも、外部の人間は何も知らない。最初の時点で大手を取られなければ、こちらの勝利が確定するのだ。
脳内視界は、彼らが天地に展開した結界の視覚情報が送られてくる。
スウォームたちは結界を力任せに叩いたり、体当たりで突き破ろうとする。
闇雲な行動しかできず、壁の向こう側では男子生徒の引きつって硬直した表情が見えた。
「…………どれ、ちょっと驚かしてやるか」