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ParALyze~パーアライズ~  作者: 刻冬零次
第3話 【後編】
177/264

<13>

「芦栂さん、どうしますか?」


 倒れている異形の死体を前に、十河は問いかける。

 古都子は腕を組んでしばらく何も言わない。言葉にする前にしっかりと思考して答えを出したかった。


「引き返したところで得られるのはなにもない。だったら進むしかないわ。異形が引き返した通路ですから、新たな敵との接触の可能性も十分にあり得ます。落ち着いて確実にこのまま進みましょう。今よりも慎重にね」


「……はい」


 二人は移動を再開し、歩き始める。

 異形の出現によって、古都子は無駄口をきかなくなった。彼女の緊張感が十河にも伝わり、ほんの僅かな変化も見逃しはしないと、前方や後方にも気を配るようになった。

 光る鉱石が敷き詰められた洞窟というのは、とても幻想的に見えるだろう。異界並みに魔力濃度が高いことを除けばだが。

 いまでは光源の一つ一つが、人間の命を削る邪悪な怪しさを振りまいているようにしか感じられない。

 しばらく進んで、次の分岐点に入ろうとしたところ、急に古都子が十河の手を掴み、壁際まで引き寄せた。押しつける形で彼を壁面に立たせ、古都子は自らの鼻に指を立てた。

『黙っていろ』という合図。

 そんな指示を出さずとも、十河の口は縫い付いていた。

 彼の口を押さえ込んだのは、入り口近くに来て、ようやくカミキリムシに似た甲高い奇声が、真近くに居ると解ったからであった。

 ひづめが石畳を駆けるのに似た、鉱物に硬質な何かをかち合わせている音。

 確実に人が発するものではない。それほど遠くまで反響しないのか、ようやく耳に聞こえたその音源の量たるや、圧倒されそうになる。

 聞こえるだけでも、自分が予想していたより、大きく上回る物量が近づいてくる。

 心臓がバクバクと跳ね続け、胸骨を打つ。

 必要以上に血液が循環しているはずなのに、手足の末端は極端に冷え込み、それはぎゅっと握られた古都子の細い手も同様に冷え切っていた。

 二人は、ゆっくりと分岐点の空間を覗き込む。

 もし、こちらに来ているのならば今すぐにでも来た道を引き替えさねばならない。

 それでも逃げる行動に移さなかった。……いや、移せなかったと言った方が正しいか。

 どれだけの集団が来ているのかは判らなかったが、二人とも足に根が張った状態で、冷静な判断が難しくなっていた。

 ――空気の流れが変わった。獣と腐臭が混じり合ったような、強い刺激が鼻を弾く。



 臭いの発生源は別の分岐路から、こんどこそ姿となって飛び出した。

 異形の集団。背の高さには差があるのもの、緑色の発光体を頭部に浮かべた同じ個体。

 両腕の先端……三本の鋭く長い爪。同じく足にも地面をくわえ込む鋭い黒爪が伸びている。

 古都子は思わず口を押さえて、その現実を直視する。

 十河もまた、握られた手に力がこもる。



 多い……多すぎた。

 複数と呼ぶには、あまりにも言葉が足りていない。

 ――大集団。地上だけではなく、天井にも異形は爪を立てて這いながら進んでゆく。さながら分岐路の穴が、マグマ吹き出るこうを見ているようだ。

 こちらに向かってくれば、即戦闘となる……はずだった。

 異形の群れは秩序の欠いた列をなしているが、一匹たりともルートを外れることなく、秩序のある道へと進んでいった。

 叫び声は、どんどん奥へと消えてゆく。

 胸をなで下ろす古都子は地面に座り込んだ。


「大勢の敵を相手にしたことはあるけど、余計な戦闘は極力避けておきたかったから、一安心ってところね」


「………………ええ」


 十河も黙って座り込む彼女を見つめながら、ごく自然にずっと手が繋がれたままだったことに気がつき、反射的に結ばれていた手を解く。戻ってくる体温は、感情に合わせて顔を染め、恥ずかしげに十河は腕を組んで目を逸らした。


「でも、異形はどうして真っ直ぐ進んでいったのだろうか」


「もしかしたら、異形が向かった方向に、他の生徒たちがいるのかもしれないわ」


「なるほど。オレ達が処理した最初のせっこうを、片付けられなかったのかもしれない。……オレ達の方には来ないで、情報通りの場所に向かったのか。じゃあ奴らの行った方角を目指せば」


「仲間の所へ辿り着くことができる…………行きましょう。十河くん」


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