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ParALyze~パーアライズ~  作者: 刻冬零次
第3話 【前編】
153/264

<21>

 


 合同訓練が開始されるのは、

 生徒たちの授業が終わった後の――午後三時の予定だ。



 そんな予定など知らぬまま、亜生たちは朝早くから活動を続行していた。

 彼らは、甲村寛人が発見された現場周辺よりも、ひとまず原点に帰るため――活動場所を旧三鷹訓練所に移し、学校の管理者でもある岩見の了解も得て、校内捜査を始めた。


「――――大尉には『生徒たちの不安をあおらないように配慮をお願いします』って言われたけど、どうやっても無理だよねぇ。この面構えなんかじゃあさ」


 乾いた声を出し、振り返れば、自分よりも後ろで七人もの黒ずくめの男達がひとかたまりになって歩いている。しかも男達の誰もが、いかめしい面構えばかり。

 生徒たちからすれば、どう考えても、良い印象を持たれないのは必然。他の教官達は素性を知っているが故、誰も引き留めはせず。我が物顔で歩いているように見えるから、何も知らない生徒たちは、不安が混ざり合った目で、すれ違いざま、彼らをまじまじと見ていた。



 亜生達は、ただ闇雲に歩いているわけではない。甲村寛人に関わっていた人間は全員調べ上げていた。彼の交友関係をあたり、関わり合いのありそうな人間から話を聞き出せた。

 班長であった甲村寛人がまとめていた班。現在は解散してしまった、元メンバー全員の事情聴取を行った。全部で四人。



 ――ながまさあき

 ――やまかず

 ――安達原祥子あだちはら ようこ

 ――ばやしおり



 話を聞く限り、彼らは甲村寛人を友人として認識していたようだが、心から信頼できる人間とは言えなかったらしい。非常に狡猾。頭が回る。学校の成績自体も悪くない。

 ただ、亜生は元甲村班の言動から来る違和感を見逃さなかった。

 ――どこか、彼らからは自分と同じような、同類の臭いを嗅ぎ分けたのだった。

 ただ……彼らと、自分の違うところは、こちらが全て優秀であるということ。ゴロツキと暴君ほどの差がある。方向性が同じと言うだけ。くらぶべくもない。

 相手は子供だろうが、仕事のためなら容赦をしないスタイルであった亜生は、彼らが隠している事を確実に引き出すため脅しをかけた。

「隠し事はしない方が良い。もし嘘をついていた事が発覚したり、話さないでいたら――君たちを共謀犯として、ブラックボックスが管理する刑務所に入って貰わなくてはならないんだよ。よく考えてみてくれたまえ。君たちにはまだ先の長い人生がある。人生がすでに途切れてしまった友人の肩を持つことは、愚かにして……非常にリスキーだとは思わないかい? 僕は君たちを助けたい。だからせめて――隠している事を教えてくれ。聞いた内容はここだけの話に留める。決して、訓練所の人には口外しないことを約束しよう」と。

 こちらが仲間だという意識を与え、なおかつ絶望をちらつかせ、話すだけで終わるのだと強調する。

 すると……せきを切ったように出てくる彼らのしょぎょう

 一人の少年をしつように責め続けたいん湿しついじめ。甲村寛人が持っていた裏の顔。

 同学年で行われた試合。そこで対向相手として参加していた『問題児ノービス』と呼ばれるグループ。

 訓練所には話していなかった内容。更に、ここから先は訓練所へ伝えていなかった内容。



 つい最近――甲村寛人が、班以外の人間と関わりを持っていたという事実。



 ――最初から、こうしておけば良かったと、亜生は後悔した。

 訓練所から得た情報から推測し、判断した上で外部の人間だと思っていた。

 生徒たちの話は、岩見が伝えた内容には、無かった情報。

 ……まったく、つくづく甘い男だと。亜生は岩見を更に毛嫌いした。

 おかげで、長い時間を無駄にしてしまった。



 えんこんの可能性が浮上した。……苛められていた少年。名前は吾妻式弥あがつま しきや

 次いで、甲村寛人が逃亡するギリギリまで接触していた『問題児ノービス』たちをじんもんする。

 今までに無かった手応え。でも早合点をしないよう確実に、外堀を埋めてゆく。

 甲村寛人が接触していた人間……その尻尾さえ掴めれば、またたに謎はぜんかいするだろう。

 捜査が足音を立てて進み始めたのを実感しつつ、亜生は黒服を連れて次なる人物――吾妻式弥を探した。職員に頼んで校内放送か携帯端末で呼び出すことも可能であるが、身構えられたり逃亡されても困る。出会った時――こちらの姿を見て反応する第一印象は大きな判断材料となる。できるだけ鮮度の良い状態で確保したかった。



 学校側から、吾妻少年が登録している今日一日の時間割を事前に入手していた。あとはタイミングを見計らって授業を受けて居る教室に直接向かえば良い。

 そろそろ移動するかと、亜生が黒服に指示を出そうとした時。


「亜生さん……」


 校内の捜査に当たらせていた、別の黒服が駆け寄ってきた。


「どうしました?」


「周辺をカウンターで調べていたら、おかしな反応がありまして……」


「おかしな反応?」


 亜生は男が持っていたOPCオーバーフェーズカウンターを取り上げて、自分の目で確かめた。

 カウンターが反応した履歴を調べてみると、確かに男の言う通り、



 ――――異常値カウンター・レッドを示す数値が記されていた。



「………………………………コレを、どこで?」


 爬虫類の目つきが、どうもうなものへと変わり、気圧された黒服の男は唾を飲み込んだ。

 身を堅くした黒服に、亜生は続ける。


「きっと、訓練所特有のものでしょう。この土地は魔力が薄いですが……異界化させる技術や、刻印訓練を行う専門施設があるくらいです……レッドの反応が出ても可笑しくはないでしょう」


 視線を合わせることなく、男へとカウンターを突き返し、亜生は片手で眼鏡を一度上げた。


「しかし、反応が出ていると言うのならば、見逃してはいけないでしょう。……………………今すぐ何人か、人員を回して下さい。調べがわかり次第、直ちに報告すること。どんな些細な事でも構いません。…………あと、この件については岩見大尉にはおろか、訓練所の職員にも内密に」


「はい」


 ――これ以上、自分たちの仕事の邪魔をされては困る。訓練所の連中は無能ばかりだからな。

 ただ気になるのはカウンターの情報。異界でもイエロー《危険値》が良いところだ。黒服には余計な疑念を持たれて貰っては困るから、許容範囲だと言ったが……訓練所で異常値が出ているという事は、まずありえない。そう簡単に魔力を中空にばらまいているわけがないのだから。それを踏まえると、酷く気分が悪い。


「……………………単なる、取り越し苦労でアレば、良いのだが」


 なにやら不穏になりつつある雰囲気を目ざとく感じ取り、亜生は居心地の悪さと同時に、口元から笑みがこぼれる。

 ――彼は徐々に、この状況を楽しみ始めていた。

 今のところ、優先順位に変わりはない。生徒たちの尋問。その後――異常値が出たという現場にいってみるとしよう。

 足早に去って行く黒服とは反対へ向かおうとする。


「!!」


 すると、亜生の真正面。ろくに前も見ず、駆け足で来る生徒がいた。

 亜生の反応は速く、横に避けるも肩が激しくぶつかる。生徒は派手に転倒した。


「……亜生さん。だ、大丈夫ですか」


 後ろから来た黒服が、亜生を恐る恐る気遣う。

 自分は大丈夫であると手で振り払い、意思表示した。

 ――前を見て歩け。クソガキめ。

 口に出して言ってやりたかったものの、そこはぐっと堪え、心とは反対に、倒れた生徒に向けて手を伸ばす。


「君……怪我は?」


 亜生はいつものように、頭の中から即座に選ぶ。他人の警戒心を解きほぐす表情を、顔に貼り付けて装った。尻餅をついた生徒を立たせてあげると、


「す、すいません! ごめんなさい。ごめんなさい! は、班の人たちとの待ち合わせに、いいい、急いでいて。全然前見てなくって……ほんとうにすいませんッ!」


 壊れた玩具のように上半身をがくんがくん稼働させて頭を下げる。

 前髪は長く、目が隠れるほど。更に眼鏡を掛けているものだから、どこを見ているのかすらわからない。


「ずいぶんと急いでいたようですけど、危ないですから、気を付けて下さいね」


「はい! も、もも申し訳ありませんでした」


 気を付けろと言ったばかりなのに、危なっかしく去って行く少年。

 亜生はまだ知らなかった――この少年が正に、探していた吾妻式弥であり、

 少し後になって。ようやく少年を再度見つけ出し、予定通り尋問をしたものの、

 居なくなった甲村寛人の話を聞き――相手が苛めていた男子生徒にも関わらず、

 演技ではなく……本気で甲村を心配して、半泣きになる少年を見せつけられ……。

 どう考えてもコイツじゃないと、判断するのであった。


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