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ParALyze~パーアライズ~  作者: 刻冬零次
第3話 【前編】
148/264

<16>

「収穫なし……か」


 十七区の捜査を初めて、二日目の夜を迎えたあそは、本当に〝敵〟が居るのかどうか、疑問を持っていた。

 別に手抜きをしていたわけでは無い。死者が出て『黒服(七課)』が内界に派遣されるほどの事件だ。

 しかも、黒服の大量投入によって、十一課(亜生)が統率をしなくてはならない状況。

 少年が死亡した原因――この場合、爆殺と言った方が正しいのかどうなのかは定かではないが、粉微塵になった理由は第三者による魔術であると岩見は語り、その点においては亜生と意見が合っていた。ならば犯人が必ず町の中にいるはずであると、行き着くのは至極当然の流れである。

 それでも十七区は広い。市ほど広くはなくとも、いくつかの町が合わさった程の規模だ。



「ふと、思ったのですが……土地の面積をおおよそではじき出す時、東京ドームを使いますよね?」


 亜生はすぐ隣にいた黒服に声をかける。相手が返事するよりもはやく、シルバーフレームの眼鏡を外し、ポケットから取り出したハンカチで、レンズを拭き始めた。


「はい。今は現物がもうあるかどうかは知りませんけど……」


「どうして、土地を数える時の単位として、東京ドームが出てくるのかねぇ……僕はずっと疑問に思っていたんだよ。概算にしてはアバウトすぎる。球場の大きさをみんな把握しているわけでもあるまいに、って思うんだよ」


「……甲子園球場で数えるところもありますよ」


「へぇ、初耳……」


「私はきん地方の出身ですので」


 ふうん、と自らが話し始めたのにもかかわらず、興味なく亜生は空返事をする。


「この十七区だって、東京ドームに換算したら、よほどの広さなんだろうね」


「…………根本的に、町そのものをドームで数えるには、いささか単位が小さすぎるのだろうとは、思いますけれども」


 黒服も、均等に分けられたといわれている十七区の面積を知らない。少なくともちょっとした『市』くらいの規模であろうか。

 十七区を隅から隅まで、しらみつぶしに探すには、とても多くの時間と、軍隊レベルの人数が必要だ。たかが二、三十人の構成員ができる仕事にも限界がある。

 黒服の幾人かには……オーバー(Over・)フェーズ(Phase・)カウンター(Counter)を持たせて町の探索を行わせていた。

 大気中にある僅かな魔力の濃度を判別し、機器に反映し数値化させる。

 ――簡潔に述べれば『異形の場所を特定できる探知機』だ。

 微量の魔力さえあれば、異界はもちろんのこと、内界でもその性能を発揮することが可能であり、もし岩見の懸念している存在が――異形だとするのなら、すぐさまカウンターが情報を知らせてくれるだろう。

 この二日……殺人現場を中心として、OPCや周辺の住民に聞き込み調査も含め、様々な方法で犯人の足取りを掴もうとしたが、いずれも明確な成果は得られなかった。

 ――魔術を使用した痕跡があるのならば、何らかしらかの〝こんせき〟が残っているものだ。魔力のざん。儀式などの行われた跡。一般的な殺人現場のように証拠や目撃者を探しだし、地道な捜査を行い、ターゲットを見つけ出す。

 今回、それら全てが見つからず……きっかけさえも掴めずにいた。

 亜生もここまで長期になるとは予想だにしていなかった。敵の尻尾を見つけ出せば、すぐさま本部と訓練所に報告を入れて、後はサイファーなりなんなりと適切に『処理』してくれる人材が送り込まれて、こちらの仕事は終わるはずであった。


「――――せない、ね」


 二日前まで丹念に磨いていた革靴は、もはやどうでもよくなったらしく、傷だらけの状態。それだけ彼も歩き続け、行動していたという事において他ならない。

 ――亜生たち『黒服』は決して無能などではない。

 彼らは内界の様々な場所に派遣をされて、調査や捜査を行ってきたプロである。

 テロ組織が活動しているという情報を聞きつけては未然に防ぎ、刻印を持っているならず者が居る地区においては捜査によってねぐらを見つけ出し、大きい小さい関わらず――内界のトラブルを収拾させてきた。


「実に解せない……まるで答えが出ているだけの、隠された数式を見せられている気分だよ」


おっしゃる、通りです」


「散々調べて、何もありませんでしたなんて――冗談じゃないよ」


 爬虫類のような瞳が、ギロリと光った。苛立ちを濃厚にさせている姿を初めて見せつけられた男は、内臓が縮み上がった。自分よりも背の低い亜生を、真っ向から見ることができず、思わず周囲の住宅街に目を移す。

 空はあいにくの曇り空……ここ最近、天気は良くない。何日も曇りが続いていた。


「――明日は、雨になるそうです」


 曇りだろうがなんだろうが、いま、この場の息苦しい空気をどうにかできるならと、黒服の男は話をはぐらかす。


「天気までも、こちらの味方にはなってくれないか…………クッククク。つくづくこの区は、面白いもの(・・・・・)が多いねぇ。興味深いねぇ」


 亜生もポケットに両手を突っ込んで、どこか投げやりじみた、自虐的な言葉を吐き出し、同じく空を見上げた。


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