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<5>-4

「ほんじゃ、次は俺の番だな」


 意気揚々と飛び出たは、中堅(四番目)――荒屋誠。

 軽い足取りで定位置へと進む。


「こっから、スーパー逆転劇俺が最強伝説の始まりだぜ」


 開始の合図が出たところで、


「いっくぜぇ……」


 剣を構える動作もせず、


「だらぁぁあああああああああああああああ!」


 誠は真っ向から相手の女生徒へとスプリント(全力疾走)を始めた。

 その異様な行動と迫力に、女生徒から悲鳴が上がる。

 二秒とかからず間合いに飛び込み、気合い一閃。

 剣術の構えもハチャメチャな力任せの一撃が、相手の防御姿勢を取った剣を叩く。

 第三者が見ても、重さと威力を感じさせる派手な衝突音が響く。

 流石に一番手の十河を始めとし、四戦目ともなれば相手の動きに鈍さが見え隠れしていた。

 相手はへいした表情を隠せず、しかし冷静に誠の乱雑なけんげきを技術でカバーする。

 当たればダメージは必死であるが、当たらなければタダの大雑把な一振り。

 攻撃と攻撃の隙間に大きな時間差があることを読み取った女生徒は、

 寸前でかわし、反撃へと転じた。


「ぬお!?」


 大振りが災いし、反撃に対処できず、腹へ突きが衝突した。

 先制ポイントは女生徒――しかし、

 誠は腹で攻撃を受けていなかった。

 なんと、自らの手で突きを受け止めていたのだ。

 接触は接触。ポイント加算である。


「いってぇ……でも痛くねぇええ(・・・・・・・・)!」

「――ち、ちょ。どっち!?」


 矛盾した言葉と共に、誠は一撃を受けながらもひるむことなく突かれた状態のまま、突進した。

 泡を食う相手。刃を掴んでいた手は離され、剣はするりと腹をれて脇腹をすべる。

 ゼロ距離から誠はつばいを仕掛けるかのように、刀身に手を添えて進む。

 もちろん、先ほどの一撃で相手の切っ先は、誠の脇腹を通過したまま。

 剣を戻そうにも誠の前進が邪魔をして防御の構えにすら戻せない。

 相手の胴体に剣を押し込んだ攻撃。またたに一ポイントを奪い返す。

 カウンターからのカウンター。場内はあまりにも常識をいっした戦いにぜんとする。


「こ、このお」


 後方へのステップから体勢を立て直しつつ攻撃を繰り出す。剣道で言うところの引き面。

 上段からの正確な一撃は、誠の鎖骨へと迫り。


「つぅ~ッ!」


 あろう事か、彼は剣を片手に持ち替え、自身の腕で攻撃を防いだ。

 防御としては十分効果はあるだろうが、やはりポイントはポイントだ。


「まだ。おわんねーっ()よょおおおッ!」


 更に前進。剣を逆手に持ち替え、相手の腹に剣をえた腕をたたき込んだ。

 もんの表情で女生徒の顔がゆがむ。



「……なんと、滅茶苦茶な」


 どこに余裕があるのか、喋りながら攻撃を繰り出す――しかも噛んでいる。

 あまりにも剣術とは掛け離れた戦い方に真結良は開いた口が塞がらない。

 剣術が十分な効果を発揮する間合いを取らせてもらえず、常にゼロ距離を維持しようとする誠。

 相手の顔色に疲労以上に精神的な負荷が掛かっているのが見て取れた。

 何より、一撃を与えようとも、突っ込んでくるその姿勢。

 普通だったら攻撃を受けた側は痛みをかんさせ、呼吸と流れと取り戻すため、いったん間合いを空けるのが常識。戦闘訓練のメリハリにルールは無いため、更なる追い込みは反則にはならない。

 攻撃する側も、無闇やたらな追撃は思わぬ反撃をもらってしまう可能性がある。

 ポイントを取る度に両者は仕切り直すのが訓練の流れとなっていた。

 ……だというのに、間髪入れず攻撃姿勢を取る荒屋誠のスタイルは、相手側からしたら相当イレギュラーな戦いになっているはずだ。呼吸を戻すことが出来ず、ほとんど無酸素状態でつばいを展開しているのだから……。

 そもそもが剣術以前の問題、荒屋誠のさまは、剣術などでは無く完全に喧嘩である。



「うぉらああああ!」


 たとえ腕へ足へと、剣撃を見舞おうとも攻めを崩さず戦おうとするそれは、

 闘志の塊とも言うべきか――あるいは何も考えていないさくのそれか。

 どちらにしても面倒な相手この上ない。

 攻撃を受ければ、漏れなく反撃を入れるパターンがえいえんと続く。そして――。


「しゃあああああ。俺が勝ちだコラぁぁぁー!!」


 ばんにも程がある……さながら頂点を勝ち取ったボスザルが如き、原始的な絶叫が場内に響く。

 ――泥仕合過ぎる泥仕合。

 結果は十対十。両者敗退のドローだ。

 ポイントを奪い合う試合において、引き分けは珍しい。



「はっは! どうだ見たか俺の勇士!」


「…………全員倒すんじゃなかったのか?」


 十河はあきれ果てて言う。


「いやぁ。ポイント制じゃなかったら俺の勝ちだな。ポイントが悪い!」


「コイツばかだー」


 ケラケラ笑うエリィに、


「んだとぅ! ボコボコミニ子に言われたくはねえなぁ!」


「ああん? われに喧嘩うってんのか、ああん!?」


 勝手に喧嘩を始める二人を余所に、那夏はクスクス笑う。

 遙佳はおろおろとしながら、なんとかちゅうさいを計ろうとしていた。

 彼らの遣り取りを外野でぼうかんする絵里は、


「まあ、コレで二勝か……ねえ谷原さん」


「なんだ」


「勝てると思う?」


「…………少なくとも私は自分の全力で望むだけだ」


「へえ。――じゃあ全力で頑張ってもらおうかしら」


「どういうことだ?」


 こっちの話、と絵里は言い捨てて剣を持ち、自分の番だと進み出た。

 二勝、四敗。こちらの残りは三人。相手は五人。

 単純な計算で行けば、勝てるか勝てないかといったところ。

 味方である市ノ瀬絵里。蔵風遙佳の二人の実力が未知数であるから、勝敗は何とも言えない。

 他の人間が、あの程度のレベルだったのだ。遙佳には悪いが、二人も底がしれているかもしれない。

 しかし、奇しくも戦う前に、市ノ瀬絵里の予想していた勝敗が出来上がっていた。

 ひょっとして彼女には、勝てる算段が、本当にはじき出されているのだろうか?



 無表情の絵里は、剣を構えることなく、

 次の対戦相手である男子生徒と対峙した。

 冷たい空気。それは絵里から放たれているものか、あるいは男子生徒によるものなのか。

 少なくとも、先の誠が作っていた試合の空気とは別格であるのは誰もが感じていた。


「――では、始め!」



「…………降参(・・)



 スタートと同時に、絵里は相手に聞こえるよう宣言した。

 誰もが耳を疑ったのは言うまでも無い。


「な、なんだって?」


 確かに耳へと届いていたはずの教官でさえ、思わず聞き返す。


「降参です。けんします」


「おい。市ノ瀬、お前はふざけているのか?」


「いいえ。体の調子が悪いんです…………あと、蔵風さんも同じく調子が悪いので棄権させてもらいます」


「――へ? 私も!?」


 自分を指さし、思わぬ名指しに驚き慌てる遙佳。

 真結良でさえも、彼女の意図するところが何であるのか、まったく検討もつかなかった。


「なんだか非常に調子が悪いです。…………まあ教官は男ですから。たぶんわからないと思います。立ってるのも辛いので…………まあ、それでも無理にやれと言われれば、なんとかやってみますが? 理解してもらえれば助かります」


「…………体調が悪かったら、頭数に入る前から、申告しておくようにしろ」


 言わんとすることを察したのか、教官は深く追求することをしなかった。

 どよめく会場。絵里は涼しい表情で戻ってくる。

 誠も特に言及する事もできず、


「ちょ、ちょっと絵里ちゃん。な、なんで私も――」


 顔を赤くして、ろたえる遙佳に。


「悪いわね。ちょっと巻き込んだ」


 肩をぽんと叩いた絵里。別に理解を求めていないと言わんばかりの無表情であった。


「じ、……じゃあ、残り出てこい」


 真結良はただただ解せず、剣を腰に携え進もうとする。

 すれ違い様に絵里は、ささやいた。


「…………お手並み拝見させてもらうわね。谷原真結良准尉さん(・・・・・・・・・)

「……………………」


 なるほど。ようやく合点がいった。

 彼女――市ノ瀬絵里はわざと(・・・)敗北宣言したのだ。残り五人の全員と相手させるために。

 あるいは私を負けさせるためだろうか。

 どちらにせよ、私は陥れられたのか、あるいは試されていると判断した。


「……………………どこも一緒というわけか」


 一人つぶやき、真結良は舞台に立つ。


「……谷原」


「はい」


 偶然にも審判役は、自分を問題児班へと放り込んだ教官だ。

 彼はばつが悪そうな表情を見せながら言う。


「別に勝敗は気にしなくても良いぞ。あのメンツは――まあ、アレだから、お前がどんな結果になろうとも成績には影響しない――しかし怪我をせんように訓練に望んでくれ」


「…………了解しました。………………全力でやります(・・・・・・・)


 どこも変わらない。新人には手荒い洗礼がある。

 一般の学校と変わらない環境ということで、少々楽観視していた自分を恥じよう。

 自分を高めつつ、おん便びんな環境に身をひたせると思っていたが、

 やはり一筋縄ではいかないものらしい。

 …………そして、教官からの気遣い。

 まるで私の敗北が目に見えていて、れんびんじょうを寄せているみたいじゃないか。

 まったく――全てにおいて不愉快だ。どいつもこいつも。

 残りは五人。こちらは私一人。状況は絶望的。


「…………まったく。笑える話だ。…………だが」



 ――――コレを好機としよう。

 私はお飾りの肩書きを持っているのではない。

 私が持つ実力をもって証明し、叩き伏せてやる。

 始めの合図がかかった瞬間。

 谷原真結良は剣を構えつつ、

 おもむろに一歩を踏み出した。


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