表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/264

<5>-3

「おー。十河よくやったぜ!」

「アイツはやればできる子だからな!」

「間宮君! 二回戦もいっちゃえー!」

「が……がんば、てー……」


 誠はしょうさんの声を送り、

 エリィは先ほどのとうはどこへ行ったのか。

 一勝を納めた喜びに、つい声を上げる遥佳。

 那夏のか細い声は周りにかき消された。



「………………不満そうね」


 真結良の顔を見て、絵里は不適な笑いを浮かべる。


「不満というわけでは無いが…………少し疑問に思ったんだ」


「へえ? どんな?」


「なんで、彼はわざとポイントを取られたんだ?」


「…………さあ。実力が足りないのか、ただ単に運が悪かったのか。疑問に思うような程の事じゃ無いと思うけど?」


「彼からは〝〟が感じられない……どこか、わざとらしさ……けいりゃくにも似た流れというか。当たりさわりの無い動きで、ギリギリ勝ったように見せかけたように見えた」


 ――――そう。彼が受けたダメージはゼロと言ってもよかった。痛みをともなわないすれすれ(・・・・)での接触によってポイントを奪われていただけ。まるで圧倒的な大差を避けるため、意図的にポイントを与えていたような…………。

 あくまでも自分の考えであり、思いこみなのかもしれない。

 軽はずみな発言として受け取られたくはなかったので、

 真結良は口に出すことはなかった。


「ふうん――貴女には、そう見えるのね(・・・・・・・)


 誰にも聞こえないように、絵里は小さく呟いた。



 二回戦目……十河の動きは一気に失速する。

 はじめに見せた目を見張るようなカウンターを出した人間とは別人。

 一ポイントも取ることが出来ずに、十河は敗退した。


「俺はお前が全勝してくれることに期待してたんだぜぇ?」


 戻ってきた十河をねぎらうように、誠は肩を叩いた。


「……じゃあ、お前がやればいい」


「そうだな。じゃあ見てろよ。俺のれいけんさばき。バッタバッタとなぎ倒してやるぜ!」


「ふん。バカめ。お前等は何もわかっておらんようだな」


 急に何を言い出したのかと、全員がエリィの言葉に注目した。


「お前らに出番はない。なぜならばわれが――」


「はいエリィちゃん。次はじまっちゃうから、いってらっしゃい」


「ちょま! ハルカ! もっとカッコつけさせんかっ!」



 押し出されるようにして、エリィ・オルタは剣を担いで、舞台に立つ。

 彼女が担ぐ剣は、一回り大きく見える。

 いや、むしろ『大剣』のそれだ。

 これは単なる一つの錯覚であり、剣が大きいのではなく、

 正確にはエリィ自体が小さいだけ(・・・・・)なのだ――と誰もが思っていたが、

 彼女は剣のサイズ選びを間違っていて、よりにもよって一番大きな剣をチョイスしていたという。誰も知らない別の要素も加わり、彼女を二回りも小さく見させていた。

 十河に勝って、調子が付いて来た二番手の女生徒は、やる気に満ちた勢いを放っていた。


「ふっふっふ。トウガ如きへなちょこ(・・・・・)に勝ったからといって、甘く見ないことだな。いい気になるのも今のうちだ。どんな努力を重ねようとも決して超えること叶わぬ、絶対的な力の差というものを見せつけてやろうではないか。ここから先はずっと

 われのターンだ。お前はただおそれることしか出来ぬのじゃよ。フッフッフ」


「え? あの……いま、なんか言ってた?」


 どうやら本気で聞こえていなかったらしい。女性徒は首を傾げる。


「……………………むぐぐ。……に、二回も言わせようとするとは、末恐ろしいほどの策士だな。いま言ったのはカッコイイ言葉だったのだ。……こんしんのかっこ付けだったのだ! カッコイイ言葉を言い直ししたら、格好良さが百八十度ブッ飛んで、軽く恥ずか死ねるだろうが!」


「…………無駄口をやめて、早く構えろ」


 あきれ顔の教官が両者をうながす。


「さあ……びーびー泣かせてやるぞ!」



 …………魔術兵器(A・U・W)の中でも『刀剣類』は特に魔術のおんけいを受ける。

 訓練用は調整されているが、本物の武器ともなれば、切れ味や強度、重さも魔術によって補正を受け、通常の抜き身と比べれば、刃こぼれしづらくなり、魔術自体がシンプルに構成されているため、魔術兵器に流し込まなくてはいけない魔力はもっとも少量。最良のパフォーマンスを発揮できるのだ。

 何よりも利便性が挙げられるとすれば、

 銃火器とは違って、近接武器は攻撃するのに弾薬などの消耗品を使わない所。

 つまり――持ち主の魔力と体力が続く限り、半永久的な使用が可能。

 時代の流れ、技術の進化から、必然的に接近戦がすたれていった現代において、

 戦いに、再び刀剣が姿を現すだろうと誰が考えただろうか。

 古代ローマの歴史家クルティウス・ルフスがのこした、

 ――『歴史は繰り返す』という言葉の通りである。

 良きも悪きも歴史はくり返す。

 異形と戦うためには、銃による訓練だけは生き残れない。

 だからこそ、近接武器は銃器よりも、大きな有用性をもたらす。

 しかし、これらの長所と表裏一体の短所として、

 近接戦の武器が故。攻撃を当てるには敵に接近しなくて(・・・・・・・・)はならない(・・・・・)点が大きなリスクとなる。

 異形との戦闘において、距離を置いた銃撃戦よりも、近接戦は格段に危険が増す。

 積み重ねられる経験と鍛錬は、イコール自身の生存率へと直結する。

 実戦訓練の重要性は生徒の誰もが認知している事実であるのだ。



 ――それを踏まえて評価するのなら、

 エリイ・オルタは前線に出たら、間違いなく死ぬ。

 谷原真結良は、落胆したような視線を向けながら分析――現実的かつ冷徹な判断を下した。


「うわぁぁぁぁああん! ぜんっぜん取れんかったよぉぉぅうう!」


 終始、身に余り続けた剣を引きずりながら、

 エリィ・オルタは宣言通り、泣きながら帰ってきた。


「ほら、そんなに泣かないで。はいティッシュ……鼻水でちゃってるよ」


「おおぅ。ハルカはやぅさしいなぁ。マジ天使……ブー、ブッブ。……結婚してくれ」


 散々、たんを切っておきながらこの体たらく。

 道化を通り越してあわれみさえ感じてしまう。


「だっさ………………ほんっと、無様ね」


 絵里はわざと聞こえるように毒突く。

 市ノ瀬絵里の事は、好意的とは思っていなかったが、

 少なからず、その意見にだけはシンパシーを感じる。

 絵里の追い込みめいた暴言に、エリィは悔しさのあまり更に泣いた。

 それこそ自分で言い放った『びーびー泣く』の体現である。


「はいよしよし。……次は――五将、那夏ちゃんだね。がんばって」


 膝を付きエリィをなだめつつ、遙佳は顔を上げた。


「…………うん。じゃあ。いってきます」


「那夏……無理はすんじゃないわよ」


「あ、ありがとう。絵里ちゃん。が、がんばって……みる」



 ゆったりと、ゆったりとした動作で中央に立ち、稲弓那夏は剣を構えた。

 腕力が無いのか、剣先は一点に留まらず、揺れていた。

 ――案の定、結果は火を見るよりも明らかであった。

 センスの欠片も感じられない。元々戦いとは無縁であった少年少女が集められているのだ。戦い慣れしている方がどうかしているのだが……。

 それでも、一本くらいはポイントを取って欲しかったものだった。

 稲弓那夏も、先のエリィ・オルタ同様、

 一度も貢献できることなくストレート負け。惨敗に帰した。

 外見からしても、那夏は体の芯が細い。性格もどこか消極的な印象を受ける。

 総合的に分析しても、近接で戦えるような人間には見えなかった。

 まあ、良かった点を挙げるのならば、痛みに耐えながらも、最後まで諦めなかったことか。

 気持ちも、か細いのかと思ったが、意外にこんじょうぼねはあるらしい。



「ご、ごめん……わたし…………」


 悲しみを通り越して、今にも自然死してしまいそうな落胆ぶりで帰ってくる那夏。


「別に死ぬことでも無いし。…………まあ、アンタはこの手の戦闘に向いていないから、仕方ないわ」


 嫌味の一つでも出てくるかと思いきや、絵里は那夏をフォローした。


「おい。われとまったく同じ末路だったのに、なんじゃわれとなっつんの態度の違いは……」


「同じ扱いしたら、那夏がかわいそうじゃないの」


「ぐ! ぐぬぬぬ。今だけは、……今だけは、なっつんになりたい!」


 彼女らの遣り取りをぼうかんしながら、真結良は心の中で思った。

 市ノ瀬絵里は少し考え違いをしているのだろうが、

 これは死ぬか生きるかを左右する実戦訓練であり、

 もし実際の戦場ならば次は無いのだ、と。

 訓練とは実戦の為に存在する物で、訓練ならば失敗していいなどという道理はない。

 仕損じる事が訓練の常となるなら、実際で完璧にこなすことなど出来はしない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ