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<5>-2

 話し合いの時間が終わり、各自がスタンドに立てかけてある剣を取る。

 大中小と、大まかに剣の長さは分かれていて、体型に合わせて選ぶことが出来た。

 剣は金属製で、柄と唾と刀身が全て一本の金属で削り出されている。接合部の一切ない形状は、まるで彫像が持っている剣のようだった。

 重さはそれなりであるが、実際に振るうときは、もっと軽くなるだろう。

 ――剣には目には見えない『魔術』の加工がほどこされている。



 魔術……近代では物語の上でしか成り立たなかった幻想。

 ――――であるが、異形の出現によって、世界に存在するがいねんまでくつがえされた。

 開けっ放しの『扉』から現れるのは『異形の者たち』のみならず、

 魔術を体現させる為の構成要素である『魔力』まで流出し続けていた。

 魔力とは異形が住まう世界に滞留する大気のようなもので、この魔力が無いと異形は満足に活動ができなくなる。

 異形が活動するほかに、様々な超常現象をも行使させることができ、

 魔力は人類に混乱と進展と――微かな希望と大きな転機を与え、

 異形に抵抗できる強大な武器であると気がづくのに、さほど時間はかからなかった。



『異形の者たち』は、物理的に傷つけることが可能であるが、効力は薄く。

 一部の個体によっては銃弾を通さず、砲弾すらもしのぐ。

 人類は効率的なせんめつ方法に手をこまねいていた。

 一般的に考えられる常識が通用しないのだから、当然といえば当然。

 どんなに現代技術が圧倒的火力を誇ろうとも、所詮はこの世界(・・・・)での独壇場どくせんじょうでしかない。

 他の世界(・・・・)の住民たちには、大した効果は得られなかったのだ。



 ――そこで、もたらされた一つの知恵。

 誰もが考えもしなかった手法を手に入れることで、大きな一歩を踏み出す事ができた。

 異形にダメージを与えようとするならば、向こう側(・・・・)の世界にある要素(・・・・・・・・)をもって、敵に挑めば良い。つまり魔力を魔術と変換し、対象へと干渉させることである。

 魔術は、刻印と同様に大きすぎるといっても過言では無いほど、武力にちょうやく的進歩を授けた。

 魔術であれば、銃弾が効かない異形の者を傷つけ、破壊することができる。

 火薬の代わりに魔力を。

 弾丸の代わりに神秘を。

 しかし、人間が扱える魔術には限界があり、

 力を行使するには、法術の展開、魔力の構成、発動までに更なる時間と魔力を消費するという、多大な過程を踏まねばならない致命的短所があった。

 多数を相手にする消耗戦では、体内に蓄積させる魔力の枯渇が早く、

 発動するまでの長い時間を、敵は待ってくれない。



 そこで、さらなる発展と進化を求め――応用したのが、

 ――――対異形兵器『魔 (Anti)術 兵(Unknown)( Wepon)』と呼ばれる、新たな武装である。

 魔術が織り成す非現実的幻想と、

 人類が作り上げた刀剣や銃火器に組み込んだ、

 ――神秘と科学の融合体。

 あらかじめ、術式を兵器に組み込んでおくことで、魔術を行う際に必要だった時間や、術を構成するに必要な――それら全てを武器に組み込み時間短縮ショートカットさせ、なおかつ魔術の恩恵を武器に宿すことができ、

 本来消費されなくてはならない魔力の多くを必要としなくなる。体内で流した魔力の大半を魔術の起動のみに転換させ、効率の良い使用が可能となるのだ。

 人間には慣れ親しんだ従来の兵器が、そのまま対異形の武器に流用できたことは、

 人類にとって大きなファクターとなったのだ。



 ある程度訓練を積んでいれば、一部の人間も魔術兵器(A.U.W)を使用することが可能であるが、

 大量生産が出来ない兵器の希少性から、一般兵には支給することが出来ず、全員が同じ水準をもって戦場にのぞむ事ができないでいる。

 よって現時点で異形に対し、最適にして最高火力をもって臨める子供たちに魔術兵器を持たせ、兵士として駆り出すのは自然の成り行きだったといえよう。



 修錬場は――魔術兵器を使用させるために、特殊なフィールドが形成されていた。

 本来なら異形の棲む土地でしか使えない魔術。

 ……それらを起動させるための魔力が、この施設の中で作られている。

 つまり、異界に近い環境を再現することによって、魔術を使用できるのだ。

 全員が着用を強制させられているトレーニングスーツも、安全な訓練が出来るよう魔術的な細工が施されている。



「…………よし、次始めるぞ!」


 教官の合図で、問題児ノービス班の七人が並び。対面にも七人。

 他の生徒たちは観客席で順番を待つ。


「緊張する?」


 副将――蔵風遙佳は、

 隣で一度深呼吸した大将――谷原真結良の顔色を見遣る。


「いや。問題ない。いつでもいける」


「フフ。頼もしいなあ。私も頑張らなきゃ」




 ――まず、第一戦。間宮十河が中央へ歩む。


「トウガーッ! 勝ったらご褒美にちゅーしてやるぞー」


 エリィの掛け声に、周囲から失笑が漏れる。


「はぁ…………それはとんだ罰ゲームだな」


「んだとう!? …………おい! 相手の貴様!」


「――え? お、おれ?」


 まさか声をかけられるなどと夢にも思っていなかったのだろう、生徒は必然と声が上ずる。


「そうだ貴様だ! 遠慮は要らん! トウガをぶっ殺せッ!」


「……………………えぇー……」


 動揺を隠せないまま、困り果てる生徒を見ながら、誠はあきれかえった様子で。


「おいおい。ミニ子。お前はどっちの味方なんだよ」


「んなもんどっちでもないわ! あえて言うなら…………死ッねトウガ!」


 エリィは親指で首を真一文字にるジェスチャーを送る。


「まあ、アタシとしては、さっさと終わってほしいのだけれども……」


 絵里は長い髪の毛を縛り上げ、ポニーテールにしながら言った。


「それでは。構え。…………始め!」



 合図を受けるが、

 両者はにらみ合ったまま動かない。

 お互い、相手の出方をうかがっているのだ。


「どうしたよ。問題児ノービス……びびってんのか?」


「……別に」


「珍しく真面目に授業なんて出て、どんな風の吹き回しだよ」


 ウンザリだと言わんばかりに肩をすくめ……。


「なあ、アンタ。話してればポイント稼げると思ってるのか? 口じゃ無くソレを動かせよ」


「テメエ。……その減らず口――、たたき直してやるぜぇええええ!」


 先に仕掛けたのは相手の男子生徒。

 駆け込み、間合いを積めつつ、上段から剣を振り下ろした。


「…………」


 十河は冷静に剣の太刀筋を見極め、

 後ろに三歩(・・)引くことで、剣先すれすれを回避する。


「――なぁ!?」


 勢いを相殺しきれず、剣は重さと勢いのままにコンクリートの地面を鈍く打つ。


「……フゥっ!」


 吸い込んでいた空気を一気に吐き出しつつ、

 腰を深く落とし、十河は前方へ進み出た。

 相手は即座に反応するが、体は後ろへ後退すること叶わず。

 よこぎに払われたいっせん。十河の剣は綺麗に横腹へとめり込んだ。


「ぐぁ、ぅう……ッ!」


 放たれた一撃は無防備になりすぎていたろっこつを砕くに、十分な威力であっただろう。



「…………上手いな」

 真結良は思わずかんたんの声をらす。

 ――それは両者に対してだ。

 単純にカウンターを浴びせられているように見えたが、

 相手の男子生徒も初撃をワンテンポ(・・・・・)遅らせていた(・・・・・・)のだ。

 最初から回避されるとわかっていた上で、

 下半身の速度と上半身の動きにズレ(・・)を生じさせていた。

 つまり、間宮十河が一歩後ろに回避した先を狙っていたのだ。

 言うのは簡単であるが、いざ動きを実践するのとではわけが違う。

 相手の生徒も、かなりのれであると言えた。

 だというのに――間宮十河は相手の更に一枚上を行った。

 ギリギリまで引き込み、剣の軌道を読み取る……。

 真結良が感嘆したのは、それが理由であった。


「ぅ……くッ」


 痛みにうめきながらも、相手は体勢を立て直し、間合いをあける。

 普通ならば、戦闘不能になっていてもおかしくはない。

 別に相手の体が強靱な訳でも、十河の一撃が弱い訳でもない。



 ――これには、大きな仕掛けがある。

 剣とトレーニングスーツはれっきとした魔術兵器(A・U・W)の技術が組まれており、

 スーツを着ている対象は、外部からの物理的攻撃を無効化させる魔術が発動している。

 端的に言えば、てっぺんからつま先まで、剣で傷を負わせることはできないのだ。

 しかし――あくまで(・・・・)物理的攻撃のみ(・・・・・・・)は通らないというだけで、

 …………痛みは無効化されない。

 衝撃や痛みについては軽減される保護が加わっているものの、

 実際に〝痛覚〟として脳に信号が送られるようになっている。

 誰しも痛みは感じたくないもの……。

 だからこそ、痛みをともなうこの訓練を、みんな必死になって取り組む。

 限りなく実戦に近い緊張感を持ってもらうために組み込まれたシステムなのだ。



 トレーニングスーツには全身にセンサーが取り付けられており、

 さっそく、十河による一撃のポイントが、

 教官の近くに立っているポイントマーカーの電灯(ランプ)に繁栄されていた。


「ち、くっしょう。問題児ノービスの分際で!」


 よほど自身の攻撃には自信があったのだろう、生徒は怒りに肩をふるわせていた。

 噛みしめた口からは、感情を音にしたような唸りが、歯の隙間から漏れている。



 ここから――相手の動きは一気に乱雑になった。

 手数を多くして、とにかく一発当てようといった戦い方。


「…………はぁ」


 対して十河は集中を欠いた溜息を出す。

 攻撃は当たることなく、両腕を下に垂らしたまま、足を使って回避に専念する。

 剣は同等の物を使用している。相手の背丈は同じ程度。

 攻撃範囲リーチは安易に測ることが可能であった。

 十河の肩に剣の横腹(・・)が接触する。


「…………」


 さらにされた突きの一撃が肩をかすめた。


「ハ、ハハハハ。どうだ! 手も足も出ないだろ!」


 気分が乗ってきたのか、息を切らせながらも叫び、剣の振りはさらに多くなる。

 ――四回に渡ってのポイント加算。

 相手の攻撃は、全てかする程度で、決定打には至らなかったのだが、

 しかしポイントはポイント。ギリギリの接触が加算されてゆく。

 十河の持ち点は残り――六点。

 相手の生徒は――九点。

 点差はまだ浅いが、徐々に深くなろうと誰もが思ったとき、

 十河は回避行動から瞬間――不意に剣で敵の攻撃を弾き、前へと前進した。


「う――ぉ!」


 予想外の反撃に慌てて防御の姿勢を取った相手。

 偶然にも防ごうとしたそ自らの剣が、十河の胸に触れた。ポイント追加。



 十河も負けることなく。攻撃を繰り出す。

 水平に刃を引き、突きによる三連撃。

 脇腹、肩、足。切っ先を的確に当て、三ポイントを取り返す。


「て、メェ!」


 慌てて反撃に入る相手。さんざん振り回していたために速度が格段に遅くなっていた。

 再び上段……初撃よりも攻撃のしつが悪い。


「…………フゥ!」


 息を吐き出しながら、こんしんを乗せた、下段からの切り上げ。

 真正面から剣を受け止め、力技ちからわざで弾き返す。

 疲労で握力が弱っていたか、相手の剣は手元から離れ、宙を舞う。



 そこから先――――驚きの形相が、恐怖に変わったのは、

 なおも十河が前進し――遠慮無く。に剣を振り上げていたからであった。


「ぃ――。ちょ、待……!!」


 言い切るよりも速く。空を切る剣が彼の左肩へ沈んでいた。

 通常ならば鎖骨が砕かれてもおかしくはない。

 あまりにもようしゃが無く、一切のちゅうちょを感じられなかった。

 周りの生徒からどよめきが生まれた。


「がっあああああ!」


 たまらず尻餅を付き、打たれた肩を押さえる。

 体は壊されずとも、痛みが襲う。

 いくら痛覚の軽減がなされているとはいえ、

 体重を乗せた強力な一振り。

 その苦痛はかなりのものであっただろう。

 それを知っていてもなお、

 ――冷たい瞳と、人を傷つけることをいとわないような態度で、

 十河はふたたび剣を振り上げ、

 既に反撃する術もない、無抵抗状態の相手へ、

 次の攻撃を加えようとした。

 剣が離れようが武器を失おうが、

 戦意を喪失しようが――関係ない。

 まだ――五ポイント残っているからだ。



「……………………あと五回(・・・・)


 目の前にいる本人にしか聞こえないように言った。


「――ヒ」


 彼の言葉は、相手の心を折るに十分な効果を持っていた。


「――そこまで!」

「…………や、やめ! お、おれの負けだぁあああ!」


 判断が一瞬遅れて教官が止めに入ったのと、

 男子生徒が負けを宣言したのは、ほぼ同時。

 結果は――五ポイント残して十河の勝利。

 圧倒的とは言えないが、

 多くのギャラリーがたじろぐほどの結果だった。


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