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<21>

 ――武器の創造。ソレが間宮十河の持つ固有刻印の力である。

 頭で思い描いたモノを形に出来る能力。

 自らを『がた』とし、魔力を流し込むことで物理的な形状を錬成する術式。


「はぁ!」


 掛け声と共に突き出す一撃。彼が持っていたのは両端に刃がある双槍。両腕を開いた程しか無い長さであるが、彼は器用に振り回しながら突き、薙ぎ、斬りと間髪入れず、和夫に向かって繰り出してゆく。


「くっ、なんだこの動き……!?」


 対処も防御も出来ない。多彩な攻撃法に先が読めず、目もその動作に追いついていなかった。

 的確……その言葉が当てはまり、優雅に見えるほど細やかな動き。防御態勢の隙間を縫って、槍を肉体に届かせる。

 ようやく動作の切れ目を見出し、反撃に転じようものなら――。



 ――魔力の回線ラインを切断、イメージを廃棄。



 槍はその役目を終えると、強固であった武器は、まるでガラス細工のように簡単に砕ける。


「…………う、また武器が消え――」


 人間のイメージとは、本人が思っているほど酷く曖昧なものであり、思考と記憶から基本構造を描き、そこから更に強度を導き出し、よりハッキリとした物体を作り上げる。

 武器の特徴となる装飾のイメージは繊細であればあるほど、切れ味や物体を保っておける魔力の消費を早め、武器の質を落とす。

 ――だから、最低限で良い。

 単色にして頑丈。武骨だが鋭利。最低限の供給で最大限の武器を……。

 固有刻印によって常に魔術が発動している状態。

 余計な思考が混じり込めば、仕上がる刃はなまくら(・・・・)と化す。



 頭の中でれんてつさせ続けなくてはならない。

 イメージを、常に強くあるイメージを。

 この手が欲する物に多くは望まない。

 あらゆる対象を割断する魔剣でも、

 折れも曲がりもしない妖刀でも、

 貫けぬ物なき聖槍でもない。

 作り出すのは単純明快に。

 人が持つための武器だ。

 使えば衰え。

 斬れば欠け。

 打てば歪む。

 人知や人力を超えた武器は、

 人であるオレには創れない。

 この能力で辿り着いたのは、

 曖昧なイメージを取りはぶき、

 極限までに洗練された構造。



 いま――思考は二つに分断されている。

 戦うために考え行動する意識と、

 鍛造するための溶鉱炉(イメージ)を絶やさぬこと。

 あとは刻印――鋳型が魔力有る限り、

 手元に望みの武器を持たせてくれる。



 武器とは近接戦闘において効果を発揮するものであるが、

 形状が故に、接近線の中でも動作と効力には限界がある。

 槍が突きに特化しているように、剣が斬りに特化しているように。

 武器には特徴があり、同時に弱点があるもの。

 ――それらを全て払拭するのが、自分の固有刻印だ。



 手元に――二本の短剣を作り上げると、

 素速い動作で十河は踏み込み様、驚くほどの速さで和夫の胴体を切りつける。


「ぐ、う……このぉ!」


 長物ながものの次はリーチの短い武器。

 瞬く間に変化する戦闘様式に相手はついて行けない。

 距離を取ろうとすれば、


「ふッ!」


 力を解き、砕ける短剣。

 空いた両腕を四度振ると。

 その回数分だけ――小ぶりなナイフがとうてきされた。

 本来ならば全てが、直撃して深く刃が胴体に沈んでいるはずであるが、

 やはり、胴体に接触するものの突き刺さることなく弾かれ、地面に転がってゆく。

 結果はわかっていた。ただ――『こういうことも出来るんだぞ』と相手の脳裏に刻みつけられれば、それだけで良かった。

 正装はズタズタになり、致命的な深手を負っていてもおかしくはないが、やはり血の一滴も流れてはいなかった。

 突き刺さる痛みに血相を変えた和夫は、逃げるように物陰に隠れた。



 刻印を使って作り上げられた武器は、自身の手から離れると、

 魔力の供給が絶たれ、形を保てなくなった武器は消滅する。

 オリジナル(実物)の武器よりも魔力で作り上げた幻想金属は見た目以上にもろい。

 作り出した純度にもよるが本物とかち合わせれば一合で刃は欠け、四合もすれば刀身に亀裂が入る。それこそが、自ら作り出す武器の弱点でもある。



 ――オレはこの能力を〝カッターナイフ〟に酷似していると思っている。



 刃はすぐに欠けてしまうが、先端を折って新しくすれば切れ味が蘇る。

 刃の数は有限。頑丈な一振りを作り出すことも可能であるが、一本の武器を維持しておくのは複数の武器を作り出すよりも魔力の消費が多かった。

 だから弱い武器をつくる。使い捨てでも構わない。

 もといこの能力は完璧な物質を作り出すためでは無く、

 縦横無尽に、形を変化させ続ける為の能力であるのだから。



 和夫は顔を覗かせて、こちらを確認しようとするが、

 十河はもう一度、ナイフを投げて壁に突き刺さす。

 手元には、隙なく新しいにびいろの刃を作り上げ、握りしめる。

 ――武器を作り出し、形を顕わにした時点で既に存在の自己崩壊が始まっている。

 この能力の最大の弱点は、手元から離れた瞬間に消滅してしまう欠点があった。

 投擲を可能とさせていたのは、その弱点を、彼は異界にいた頃に克服していたからである。

 何百……何千……何万と、試行錯誤と鍛錬の末、

 彼はこの致命的なシステムを――言葉通り『努力』のみで変革させたのである。



「…………どうした。息巻いていたわりには、逃げの一方だな。さっきまでの威勢はどこへいった? 弱小の『問題児ノービス』に追い詰められて、立つ瀬がないじゃないか」


 姿は見えずとも、耳には届き相手の自尊心を揺さぶる。先ほどとは逆の展開だった。


「畜生……畜生がぁあああ!」


 破れかぶれ、怒りのまま和夫は飛び出す。……肉を斬らせて骨を断つつもりだろうが。

 先読みした十河は早くも走り出して、トップスピードで迫っていた。

 持っていた刃を捨て、新しく両手に作り出したは――鎌状のかぎ爪。

 両者はぶつかり合いそうになるほど近く。和夫が対応するよりも速い速度をもって、

 十河は低い姿勢で、かぎ爪をもって相手のアキレス腱を捉えた。


「……お前なんかじゃ、触れられもしないさ」


「ぉおお!?」


 勢いに乗せて力任せに引くと、いとも簡単に彼の体が浮き上がった。

 背中から倒れ、起き上がろうとするも、


「――――ぅ」


 またもや武器……今度は金属の大槌(スレッジハンマー)

 円柱と棒が接続されただけのかたまりは、……できうる限りの思考構成された質量イメージが反映され、重きを再現させている。


「どうせ、ダメージが入らないんだろ? だったら目を開いて見てろよ」


「や、やめ……ッ!」


「――――、くッだ()けろッ!」


 攻撃力は要らない。重ければソレで良い。

 衝撃と瞬間に垣間見る『死ぬような感覚』を、何度でも刻みつけてやる。

 恐怖を植え付け、戦意がなくなるほど潰れてしまえばいいさ。

 大槌は振り下ろされるスピード。重さと重力が加わって、

 悲鳴も上げられぬせつに、和夫の頭を地面に沈めていた。



「なるほど……それであの訓練か。なっとくだぜ」


 誠は一方的に拳を加えてゆく。相手に与えられるダメージは皆無に近いのだろうが、気持ちをを損なうには十分の効果を。足止めには十二分の仕事を果たしていた。

 複数人での相手を無傷のままに行うのは、さすがの彼らでも難しいと判断し、

 出来るだけ一対一の状況を作り上げることで、確実に時間を稼ぐ手法をとっていた。

 ――ただ、十河の戦い方は、いくらダメージが入らないとはいえ『えげつない』の一言に尽きる。相手が行動するよりも、なお素速く。手が付けられないほどの徹底的な斬撃殴打を浴びせていたのだから。


「…………あとは、吾妻の方だけど、大丈夫かな? 死んでねえといいけど」


 十河は心配するだけ、余計なお世話というものだが、吾妻式弥は別である。

 戦いの経験も無い人間が、命がけに作戦に投じられているのだ、加勢をしてやりたい気持ちはあるものの、今の自分では目の前の相手をするのに意識を集中させておきたかった。


「よそ見――してんじゃねえよ!」


 雅明は怒りのままの一刀を振りかざす。


「おっと。足腰――なっちゃいねえな!」


 刃が直撃するよりも速く。気合いを乗せた下段の蹴りが、雅明の膝を捉え、体勢と軌道を崩す。

 続けざまに下りてきた頭を両手で持ち、飛び膝蹴りを叩き込む。


「がァッ」


「散々、俺らのことバカにしやがって。まさか不利な立場の人間が特攻仕掛けてくるとは思わなかったろ!」


「くっ、ぅ」


「コレが俺たちのやり方だ。こんなの日常と変わりねぇんだよ!」


 ――と、言ってみたものの。相手が弱いとはいえ、戦況は最悪だ。

 実戦ならば数十回は殺せただろうが。

 それだけ不正に手が加えられたトレーニングスーツの恩恵は大きく、

 ゾンビのように戦闘に復帰する永井雅明と山田和夫。

 さすがの二人も悪戯に体力が消耗してゆくだけで、お手上げ状態だった。


『荒屋……いったん、離れるぞ』


「はいよ」


 殴り足りなかったが、無理に攻め込んで致命傷を負う気はさらさらない。



 二人はバラバラに退散。無線機で連絡を取りあって合流し、物陰に座り込んだ。

 やはり相手が追いかけてくる様子はない。


「十河……怪我はねえか?」


「フン。あんなヤツにやられるわけないだろ。お前こそ息が切れてるんじゃないか?」


 誠は肩をすくめて、皮肉めいた笑いで余裕を示す。


「アイツら、一人は能力バレて戦闘向きじゃないってわかってるけど、もう片方も刻印使えるんじゃなかったっけ? まったく使ってこねえよな」


「…………お前は、異界で経験したことないのか?」


「なにを?」


「刻印は〝ただ起動させる〟だけだったら誰でもできる。しかし、今のように戦いながら刻印を起動し続けるというのは更に技術が必要になるものだ。たかが数ヶ月学んだだけで、実戦で刻印を自由に使えるわけじゃない。おそらく代表戦というのはそういった欠点を知らしめるためでもあるのだろうな」


「そういうもんなのか? ……俺は刻印が出たときから普通にあっち(異界)で使いまくってたけど、不便を感じたことねえなぁ。使えば使うほど強くなってったしなぁ」


「………………」


 このせいじん。コイツは刻印を感覚だけで制御――いや、異物として拒絶せず、最初から手足のように受け入れた。……才能の塊。努力とは無縁の場所にいるようなタイプか。

 オレは自分の刻印を知るのに何日もかかった。金属の棒きれしか作れず、刃を作れるようになるのに長い時間を要したものだ。


「……奴らと、かち合ってたとき、ヘタしたら気絶してもおかしくない攻撃を何回か当ててるけど、もっと痛がるはずなのによ。かましてもかましても、全然効かねえ。やっぱりダメだったな」


「攻撃を十回当てたらなんて……もうルールは考えない方がいいぞ。要らない情報はさっさと忘れた方が良い」


 手応えがあるのに、まったく相手が傷つかないのは不思議な感覚だった。


「やっぱり、委員長が言っていた、増幅器とかいうのが本当にあるのかね?」


「信憑性はゼロに近いが……何かしていることは確かだと考えていいだろう。追いかけてこないということは、やはりあの範囲に何かがあるということだろうな」


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