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<4>-3

「ハァ…………すまん、なんか騒がせたみたいで」


「すごいねぇ。真結良ちゃん、あの問題児ノービスすなんて」


「ああいう人騒がせな人間はさっさと収めてしまうのが一番だと思ったから、そうしたまでだよ」


「真結良かっこいいなぁー。あたしが男だったら間違いなく好きになってるなぁ」


 京子の言いたいことはわかるが、彼女が男だったら、私がかっこいいから好きになるという理由が、どうもちぐはぐ(・・・・)な気がしてならなかった。

 ――普通カッコイイ人間にかれるのは、女性側ではなかろうか。


「確かに、あの荒屋誠とかいうのは問題児…………だったな」


「先生や教官たちもほとほと手を焼いているっていうしね」


 だとしても、『委員長』の蔵風遙佳や、

『小動物』の稲弓那夏、

『毒舌』の市ノ瀬絵里の三人は、

 問題児と呼ばれるような生徒には見えなかった。

 もう少し穏やかにして有意義な生活を送れるかと思っていたが、自分がイメージしていた落ち着いている学舎(・・・・・・・・・)とは違うようだ…………。



「――谷原、アレはあんま関わらん方がいいぞ。ろくな事にならん」


 今まで黙っていた安藤が腕組みしながら、くうにらむ。


「とにかく、何するにもやる気が無く。特に能力が高いわけでもないのに、好きにのさばってる勝手な連中なんだ…………すまんな愚痴みたいで。かなり上から目線の嫌なヤツに聞こえるだろ?」


「…………………………いや」


「俺は自分が優秀だとは思っていないし、誰かをどうこう言うよう資格があるとも思えない。たかが入学試験が良かったからってコイツ()を渡されても、正直荷が重い。……でも、周りの手本となるよう任されたからには、腰に下げているモノが

 単なる張りぼて(・・・・)にならないよう、日々の努力は怠っていない。人一倍に、取り組んでいるつもりだ」


 けんそんを含まない彼の言葉には、確かな重みと強さを感じた。

 人よりも高い意志を持って日々を望んでいる人間を、どうして否定などできようか。


「だからこそ――俺は何もしないアイツらを……自分の基準を押しつけるような事はしたくないが、普通の生徒たちがしている最低限の事すらしないアイツらを――俺は心底、けんする」


 返す言葉も無かった……。

 どこに行っても、ああいう連中は存在している。

 士官学校出も程度は違えど、どうしようも無い人間は確かに居た。


「…………ふう」


 一度、小さく深呼吸。

 頭の中ではせんこく言われた、市ノ瀬絵里の言葉がはんすうされていた。

『手を抜いて相手をして欲しい』……まったく冗談じゃ無い。私も安藤と同じ意見だ。

 遠慮などしない。私は常に全力で相手をする。たとえひゃくせんれんの強者であろうが、

 弾かれ者の問題児であろうが、立ちふさがるのであれば、容赦なく切り伏せる覚悟だ。

 今はまだ『士官学校の転校生』という肩書きで評価されているようであるが、

 私は、自らの実力を見てもらい、評価をされたい。

 形だけの立場などいらない。

 私は本物を得るために、この土地へと足を踏み入れたのだから……。

 密かに気を引き締め、真結良は授業開始のチャイムを迎えた。



 ……グループでの行動には、大きな意味がある。

 実際の戦場でも単独行動は許されてはおらず、よほどの例外が無い限り、常に複数の人間がバッケージとなって任務に当たる事を義務づけられているからだ。

 対人ならばいざしらず、相手が人外の怪物ともなれば、一人で戦うことはなんである。

 故に、常日頃から班との結束、連帯感をやしなう必要があった。

 複数の人間と組むということは、利点もあれば欠点も同時に背負わされる。

 訓練ならば、失敗は許される。

 誰かの負いをてんすれば良いだけの話。

 ――だが、実戦では仲間の失態が即、死に直結すると言っても過言では無い。

 真結良は自分が『単独行動が出来る優秀な人材』であるとは断じて思わない。

 実戦での経験は無いし、想定外の出来事に見舞われれば混乱もする。窮地に立たされたら取り乱すだろう。

 そうならぬよう、自分を高めたいと思うのは当然の成り行きであり、

 遅くない未来、自分が誰かと班で行動を共にして、足手まといになるようなことは絶対にあってはならない。私自身がそんな事を許しはしない。

 このグループ実技は、正に――『班としての信頼を強固にする』と同時に、

『生きるために必要不可欠な生存能力を高める』役割も担っていると言っても良い。



 数人の教官らしき人達がしゅうれんじょうへと入ってくる。

 彼らは生徒たちと同じトレーニングスーツを着用していた。

 教官の一人が合図を送り。

 集合した人数は五十人前後。全員が一年生。

 ――説明が始まるや否や、


「だっはーぁぁああああああああ。間に合ったぁ!」


「……いや。間に合ってないから」


 扉を叩き開けて現れたのは、二人の男女。



 ――かたや、肩で息をしながら額の汗を拭う銀髪の女子。

 ――かたや、隣の少女の行動に辟易へきえきして眉を寄せた男子。



「遅いぞ! ……何度、遅刻をすれば気が済むんだ!」


「いやぁ。すまんすまん。道に迷ってしまってな。だっはっは!」


 小柄――にしては随分と小柄――な少女はまったく悪びれる様子もなく、

 教官相手に信じられないほどのおうへいな態度を示した。


「おー。待たせた。おはようだな」


 生徒たちの冷たい視線など眼中に無い様子で悠然と闊歩し、蔵風遙佳くらかぜ はるかの前に立った。

 …………あの二人も『問題児ノービス』の人間か。


「あの男の子のほうは、間宮くん。それで銀色の髪の女の子が、エリィさん」


 京子が周りに聞こえないよう、耳元で言った。


「さっきの荒屋くんみたいに、喧嘩はしないけど、態度が悪いことで有名なんだよ」


「…………なるほど」


 説明よりも先に、まざまざと行動を見せつけられた。

 アレが問題児にならぬ理由は無いだろう。



 ――遅刻をすればまだ良い方……か。

 荒屋誠はそう結論づける。

 ヘタすれば授業に出席すらしないのだ。

 基本的にしっかりと出席している点、自分は偉いと、心の中はわれめのおおあらし


「おせえよ。ミニ子(・・・)


 腰を両手に当てふんぞり返り開口一番、無遠慮な挨拶をかける。


「毎度の事ながら、われに喧嘩を売ってくるとは良い度胸だな。無礼者め」


「……お前も〝面倒くさいの(エリィ)〟に付きまとわれて大変だな十河」


 鼻を鳴らしてせせら笑うエリィを指さし、誠は同じような表情を作った。


「別に。もう慣れ――――てないが、どうにもならん」


「なーッ! トウガ。お主はわれを面倒くさい女だと思っているのか! 朝からわれを連れ出して甘くも幸せな思いをしたというのに!」


「良い思いをしていたのは、お前だけだろうが……」


「え。なに間宮くんそれ。エリィちゃんと何をしてたの? 事によっては……」


 割って入る遙佳。笑顔であるが笑顔の中にとんでもない凄みを持たせていた。

 妙な威圧を前に、十河は微かな気後れ。


「べ、別に何もしちゃいない……ほら。これやるから。落ち着けよ」


「あ、バカ。それわれのドーナツゥ!」



「――いい加減にしないか!」


 今日、一番のせいが彼らに向かって放たれた。

 関係の無い人間たちの時間が静止してしまうほどの威力だ。


「遊びでやってるんじゃないんだぞ! 今後の生命に関わる訓練を行うというのに、たるんでいるぞ貴様たち!」


 今にも体から何かがふんしてきそうなげきこうぶり。相当頭にきているのだろう。

 怒られている当人よりも、周りの生徒たちの方がろたえている。


「へーい……」


「す、すみませんでした」


「ドーナツくらいで、そんなに目くじら立てなくとも良いのになー」


「ハァ…………エリィ……。お前のせいだろうに。あとドーナツは関係ない」


 たった一人、しんに謝罪する遙佳を除けば、どれも反省しているようには見えなかった。


「ほんと……アンタ達って怒られるのが好きなのね……」


 今まで黙っていた絵里は呆れ混じりに溜息をついた。


「せっかく大人しくしてたのに。まるでアタシたち二人もらったようなもんじゃない……ねえ、那夏?」


「で、でも。わたしは――嫌いじゃ、ない……かも。仲いいのって、いいよね」


 怒鳴られ損であったにもかかわらず、場違いな思いを語り、

 那夏はクスクスと笑いをかみ殺す。



「でたでた……またあいつらかよ」

問題児ノービスめ」

「ほんっと空気よめよ」

「遅刻とかありえないんだけど」

「どんだけ態度でかいのよ」

「いっつもやる気ないよなアイツら」

「出ました、毎度おなじみ。落ちこぼれ組の茶番劇……」



 口々に不満を吐き出す生徒たち。

 真結良もまた、黙ってはいたものの、同じような心境だった。

 このごたごた(・・・・)、今に始まったことでは無いらしい。

 ――そして思う。『彼らは本当に兵士として機能するのか?』と。


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