其之壱 「双生児(5)」
瑶子は夜空の下で火を焚いて湯を沸かしながら、風呂場の中にいる美花に声をかけた。
「お湯加減はいかがですか?」
檜の湯船に浸かっている美花は柔和な顔をしていた。
「はい、良い湯加減です……あっ!」
「どうなさいましたか!?」
「いえ……なんでもありません」
美花の視線の先、湯煙の先に立っていたのは美咲だった。
包み隠さず裸体を晒す美咲。発育途中の身体だが、腰はくびれ、尻は張りがあり、胸は小振りながら御椀型で美しい。
その裸体を見ることが――いや、見られることが美花は恥ずかしくなった。
美花が視線を背けたのに気づいて美咲は微笑んだ。
「自分の躰には見慣れているのではなくて?」
「恥ずかしいものは恥ずかしいですから」
「女同士よ。あと、双子なのだから、その口調はやめてもらえないかしら?」
「ごめんなさい、こんなしゃべり方しかできないんです」
この口調は養父母に対するものと同じだった。美花は友達の接し方も知らない。自分と周りが違うと感じはじめたころから、友達や周りの人たちと距離を置くようになったからだ。
美咲は湯船からお湯を桶に取り、背中に湯を浴びた。
身体の曲線を滑るお湯。白い肌は水を弾き、ほんのりと桜色に染まった。
美咲は湯船につま先をつけた。そのまま滑らかに湯に体を沈め、美花と向かい合った。
真正面から向かい合う双子の姉妹。まるで鏡に映っているようだ。
湯に緩やかな波を起こしながら美咲が美花に近づいた。
「本当に鏡を見ているみたい」
美咲の指先が美花の頬を撫でた。
鼓動を乱しながら美花はただじっとしたまま、美咲にされるがまま躰を預けた。
繊細の指先は頬をなぞり、耳、首、肩、鎖骨、一つ一つの部位を確かめるように、美咲の指は細やかに肌を滑る。
そして、形の良い胸が包むように触られた。
「そこは触らないでください」
頬を赤らめながら美花は顔を背けた。
「自分の躰を自分で触っていると思えば恥ずかしくないわ」
「そんなことを言われても……嗚呼っ」
胸を強く握られた。
そのまま胸を揉みしだかれ、美花は抵抗しようともがいた。
しかし、美咲はそれを許さず無理やり美花を押さえつけ力を込める。
水飛沫が散り、美花の口に湯が入る。
「お姉さま……やめ……」
揉み合う間に美花は頭まで湯に沈み、口から気泡が漏れ、足をばたつかせた。
中の騒ぎを聴いて目を丸くした瑶子が窓から顔を出した。
「どうなさいましたか?」
「いいえ、別に何もないわ」
美咲はにこやかに答えた。
その腕にはぐったりと首を垂らした美花が抱かれていた。
「少しじゃれ合っていたら度が過ぎてしまったのよ。美花は湯にのぼせてしまったみたい、運ぶのを手伝って頂戴」
「はい、今すぐそちらに向かいます」
瑶子が窓から姿を消すと、美咲は美花の頭を愛しそうに撫でて微笑んだ。