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あやかしの棲む家  作者: 秋月瑛
其之壱 「双生児」
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其之壱 「双生児(完)」

 目を覚まさない二人の姉妹。同じ寝室で隣り合わせに寝かされている。

 姉の美咲は頭に重傷を負いながらも、それは呪われた一族の力なのか、どうにか一命を取り留めた。しかし、まだ目を覚まさない。

 頭から血を流し動かなくなった姉の姿を見て絶叫し、そのまま気を失ってしまった美花も、それからいっこうに目を覚ます気配を見せなかった。

 部屋に差し込む優しい陽の光。

 寝かされている二人の姉妹を見守っていたのは瑶子だった。

 すでに姉妹が目を覚まさないまま数日の時が流れている。その間、瑶子は二人の世話をした。躰を濡れ布で拭き、着物は毎日着替えさせた。髪も時間さえあれば櫛で梳かしていた。

 姉妹はとても安らかな顔をしている。殺し合っていたとは思えないその表情。

 二人が目を覚ました時、それはただの悪夢だったと思えればいいのに。

「またあとで来ますね」

 にっこりと微笑みながら瑶子は会釈して、静かに部屋を後にして行った。

 それと入れ替わるように静枝が部屋に入ってきた。

 静枝はまず美咲の傍らに膝をついた。

「愛しい美咲、早く目を覚ますのよ」

 艶やかな髪を優しく撫で、麗しい瞳で愛娘を見つめた。

 だが、その目はすぐに狂気を彩った。その視線の先に寝ているのは美花。

「すべてお前のせいよ、どうして潔く死ななかったの。お前が死ねば美咲は生きられる、死ぬのよ、お前が死ぬのよ!」

 静枝は隠し持っていた短刀を握り、美花の首を切ろうとした時――。

 背中が急に熱くなり、全身に痛みが走った。

 眼を剥きながら振り返った静枝が見た者は、包丁を持った菊乃の姿。

 菊乃と静枝の躰が重なり合った。

 包丁は再び肉を貫いた。

 無表情な顔をして菊乃は何度も何度も静枝の腹を刺した。内臓はずたずたに傷つき、腹からは腸が飛び出している。

 それでも静枝は死せることなく菊乃につかみかかった。いや、もたれかかったというべきか。

「どうして……わたしは鬼頭家の頭首……なぜ……?」

「貴女様は双子を産み落としたその日から、すでに頭首ではございません」

「そんな……ぐあっ」

 首を捌かれ口から血の泡を吐いて絶命する静枝。

 力なく転がる静枝の骸。

 一つの生が失われ、双子の姉妹の瞼が微かに動いた。

 虚ろな瞳。

 魂を悪夢の中に置いてきてしまった。

 上体を起こして互いの顔を見合わせる姉妹。そこに感情はなかった。

 ただ互いの顔を見つめたまま動かない。視線の先にいるのが双子の姉妹だということ理解しているのだろうか?

 菊乃は感情のない顔で二人の姉妹に会釈をした。

「おはようございます、美咲様、美花様」

 無表情の少女たち。傍らに転がる無惨な死骸。


 その日の夕食――。

 食事を調理したのは菊乃だった。

 食卓に料理を運びながら瑶子が尋ねる。

「今日はめずらしく豪勢ですね。肉料理がこんなにいっぱい」

 顔を向けられて尋ねられた菊乃は何も答えなかった。

 それでも瑶子はしゃべり続けた。

「ところで奥様の姿が見あたらないんですけど?」

「この屋敷で人が一人二人いなくなって不思議ではございません」

 菊乃はにべもなくそう答えた。

 食卓で虚ろな表情をする二人の姉妹。

 美咲は頭を打った後遺症で重度の痴呆となり、美花は精神的な衝撃から精神を崩壊させた。

 二人が殺し合うことはもうないだろう。

 瑶子が肉を箸で摘み美花の口へ運ぶ。

「いっぱい食べて早く元気になってくださいね」

 肉を租借する。

 他の命を喰らい生き延びる。それはごく自然なこと。


 二人の姉妹は虚ろなまま、それから数年の時が流れた。

 数え年で十歳、それからまた一年、さらに一年。

 姉妹は現実を忘れたまま生き続けた。

 十歳になっても死ぬことはなく、呪いが嘘か誠か知る術はなかった。

 ただ姉妹は生き続けているという現実。

 そして、急速な老化も止まり、緩やかな成長をしているという現実。

 姉妹の平穏はいつまで続くのだろうか……?

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