表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

始業式。2

 それから二言三言交わし、神菜と別れる。直接結衣に当たるのは危険なため、一応は朝宮が消えた影響が出ていないか、各自学年の攻略対象の様子を見ようという方針だ。神菜は一年のショタ後輩を、俺はバスケ部のエースを担当する。もう一人の二年である不良はこの時期、停学を受けているため除外。生徒会長もこの後の始業式で壇上に上がるため、そこで様子を見ようと除外した。


 手帳を覗くと、バスケ部エースの名前は西条(さいじょう) (あきら)。いかにもリア充臭い。同じクラスみたいだし、観察は容易だが。はあ、気が重くなってくるぜ……。


 ● ● ●


 教室に到着すると、一先ず入り口から様子を伺う。笹原と結衣は省略するとして、一人だけその他大勢と別格のオーラを放っている男子生徒を発見した。マジで輝いてる。なるほど、イケメンは光るのか。そんなわけあった。第一印象は死ねである。


 オレンジのツンツン髪を逆立てた、爽やかイケメン。制服は若干着崩し、それが他と違うお洒落感を醸す。何、その手首のリストバンド。バスケアピールか。お前のゴールにシュートしたいのか。腹立つ。


 友人らしきモブと会話するだけでも星っぽいエフェクトが散る。人懐っこい笑みは王子様のようだ。机に腰掛けるとか、リア充レベルが高すぎる。近づいただけで消滅させられる勢い。


 ……こっちは問題なかったってことにしよう。あれに話しかけるのは、俺じゃレベルが足りない。むしろホモに目覚めそうなまでのイケメンだ。


 悲しい顔面格差から目を逸らし、空いている席へと座る。始業式まで多少の時間があるので、予習を兼ねて手帳を読み込んでおこう。取り出して読み始める。……だが、視界の端に変な物がチラチラと映って、どうも集中できない。なんなのアイツ……。


 表面上は笹原と話しているようで、横目で西条を伺い、赤くなって悶える結衣。美少女補正の入っているクラスメイト達は気になっていないようだが、ぶっちゃけ挙動不信すぎてキモい……。


 まあ、気持ちはわからなくもないのだ。ギャルゲーで攻略した、結衣の場合は乙女ゲーか。攻略したキャラ、本来なら手の届かない位置に居る相手がすぐ傍に、手の届くところまで来ている。俺も同じ状況なら興奮するだろう。にしても、ここまであからさまだと不審がられるぜ? 西条の好感度を下げる行為だけは謹んでほしいところである。


 笹原は笹原で「あはは、何してるの結衣、カワイー」と素っ頓狂なこと言ってやがるし。それでいいのか親友。


 妙な物を見てしまったせいで、勉強する気分でもなくなった。百八ある俺の特技の一つ、寝たふりを使用する。なんとこの特技を使うと周囲の人間が話しかけてこなくなるのだ!!


 いや、まあね、元々話しかけてこないんだけどね? クラス代えの直後とか、隣の席の奴が「これから一年間、よろしく?」とか、何故か疑問系で話しかけたりしてくることが稀にあるんだよ。それでテンパって変な返しをして、気付いたら机の距離がちょっと離れてるとか、よくあったわけだよ。というか毎回。


 悲しい記憶に蓋をして、うつ伏せになる。あれ、おかしいな。視界が滲んできた……。


 ● ● ●


 結局あれから始業式の時間となり、今後担任になるであろう中年の男性教師が「講堂に集まれ~」と緩い感じの号令をかけ、ゾロゾロと生徒が立ち上がる。


 俺も起きるか……と行動を起こそうとして「ね、ねぇ……」と隣の女子生徒から肩を叩かれる。女子に触られるなんて経験のない俺は「ひゃ、ひゃいっ!?」と過剰に反応してしまい、引き気味に「あの、移動だよ……」と教えてくれた。モブっぽい女子と目が合う。どうしてだろう、彼女が三十割増しくらい可愛く見える……。それもうほぼ別人じゃねえか。


 移動する際も胸が苦しく、呼吸が荒くなっていた。瞼を閉じれば思い出すのはさっきの女子。これは、まさかーーー、


「ねえ、さっきの見た? チョーキモかったよね(笑)」「うん、あそこまでキモいとか、話しかけなきゃよかった(笑)」「もうほぼ罰ゲームだよね(笑)」


 あれ、急に苦しさがなくなっちゃった。どうしてだろうね?


 ちょっと泣いた。


 そんなこんなで今である。前の世界では、集会などを行う時は体育館に体育座りをして聞くのが普通だったが、この世界には体育館と別に講堂があるようだ。備え付けの椅子がフカフカでめっちゃ気持ちいい。持って帰りたいくらい。


 椅子でフカフカして遊んでいると、壇上に一人の女子生徒が上がる。顎の辺りで髪を切り揃え、切れ長の目をした美人。大人びた印象から、先輩ーーーそれも、副会長であると予想する。明らかにモブじゃないし。


「二、三学年の皆さんはこんちには。一年生は初めまして。司会を務めさせていただきます、生徒会副会長の桜井と申します」


 深くお辞儀をする副会長。その仕草は様になっていて、大和撫子を連想させる。さて、初のお相手役が登場したわけだが……かなりスペックが高そうだぞ? 結衣が勝てるとはとても思えない。どうするんだろう?


 俺が一抹の不安を覚えようが関係なく、プログラムは進んでいく。やがて、会長の出番がやってくる。


「それでは会長、お願いします」


「うむ」


 うむて。やけに偉そうだな……。


 副会長の言を受け壇上に上がったのは……一言で表すなら厳格そうな男、って印象か。四角い眼鏡をかけ、清潔感のある七三分けのイケメン。口元は引き結び、目元も厳しい。


 その会長がマイクの前に立つと、ちょこちょこと黄色い声が上がる。


「静粛に。それでは、新入生に簡単な挨拶をしようと思う。僕の名は朱雀院(すざくいん) 龍騎(りゅうき)。生徒会長を努めている」


「ぷふーっ!」


 あっ、やべ。周囲から睨まれちゃった。軽く頭を下げておく。にしても、す、すざっ、すざくいんて。え、ネタだよな? 込み上げてくる笑いを噛み殺すのに精一杯で、思考が纏まらない。この世界では、一般的な名前なのか? 俺と同じように吹き出してる奴が全くいない。唯一の同じ世界の出身者である結衣はどうしてる? と覗いてみた。


「朱雀院様……」


 うっとりしてた! おい、さっき西条にときめいたばかりなのにそれはダメだろ。いや、確かにまだ共通パートではあるけどさ……。


「結衣ー? 涎垂れてるよー」


 笹原……。今お前がすべきなのは、涎を拭いてやることじゃないだろ。なんだかアイツも使えない予感がしてきたぞ。


 頭が痛くなってきた……。初日からこんな展開じゃ、今後どうなるかわかったもんじゃない。


 とりあえず。現時点での人物総評。


 結衣。臆病。危険な能力持ち。ビッチ。


 笹原。使えない。


 朝宮。噛ませ犬。恐らくもう出番はない。


 西条。キラキラしたイケメン。嫌い。


 会長。眼鏡。


 副会長。大和撫子。


 神菜。ドジ。あざとい。


 ふむ……役に立たねえ情報ばっかだ! というか全員キャラが立ちすぎだろ。いや、こういうゲームはキャラが立ってることは重要ではあるんだけど、今は迷惑でしかない。


 特に結衣。あっちにフラフラ、こっちにフラフラされると全員から嫌われるバッドエンドも有りうる。ゲームなら各キャラクターと会話してもどうということはないが、ここは現実に酷似している。ただでさえ存在感のある対象と取っ替え引っ替えイベントを起こすと、あっという間に評判が地に落ちるだろう。おい、むしろ難易度高くなってるじゃねーか。簡単とか言ったのどこのツインテ妹だよ。なんにせよ、早めに対象を絞らせないとな……。


 となると、笹原とは関係を持っておくべきか……? 女子と会話なんて出来る気がしないんだけど。そこは神菜に任せりゃいいかな。一応神様だし、どうにかするだろ、うん。


 能天気に思考しているが、今は下校の真っ最中である。あれから始業式が終わって一旦教室に戻り、簡単な連絡を済ませて今日は解散。特に語ることもなかったし、というか語ってない。一言もな。その内喋らなさすぎて喉が劣化しそうなので、カラオケにでも行こうと考えました。くうっ、今日もいい仕事したぁ~。


 満足した俺は、のんびりと帰路に着いた。十割くらい神菜に仕事を任せればどうにかなる。あ、これ丸投げだね。てへぺろ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ