閑話
「やっと消えた」
二つの人影が見えなくなるのを確認して、一人の少女が呟いた。
肌は病的に白く、顔立ちは整っているのに目の下に作られた深い隈が台無しにしている。腰以上に伸ばされた髪は、手入れがされていないのかボサボサで清潔感が欠けている。
そんな少女がいるのは、草理家の二階の奥の部屋。いつもならば真が寝起きしている部屋だ。
カーテンを閉めてうざったい夕日を遮る。部屋は薄暗に包まれた。
「ねぇマコくん。今の二人はだぁれ?」
隈の出来た目を細く歪めて、壁に縛り付けられた少年、草理真を見て言った。
「わかる……訳ないだろ……ここからじゃ……何も見えないんだ……」
真は震える声で細々と答えた。良く見れば、その体もどこか小刻みに震えている。
それは、少女――砂那桧江――に対する恐怖からだった。
「そう…………でも誰でもいっかぁ、邪魔して来てもまたヤっちゃえばいい訳だしぃ。ねー、マコくん」
恍惚に表情を染めて、桧江は真の顎を撫でる。そのまま顔を寄せ、真の唇に、自らの唇を重ねた。
舌を絡ませ、真の唾液を啜りとる。艶かしく喉を鳴らす度に、桧江はビクンッと体を震わせた。
「桧江達の世界は誰にも邪魔させない」
桧江は優しく包み込むように真を抱き寄せた。
「…………そう、誰にもね」
胸元に埋め込まれた"匣"が、弱々しくも光を灯した。