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ヒカリと影と  作者: 洒落頭
25/43

取り戻せない心と見えない思惑

「早速だけど死になさい」

 桧江の短い言葉。

 手に持った鞭を振りかぶり、真上から叩きつける様に腕を振るう。

「"光速移動(アクセル)"!」

 結城は唱える。

 "キューブ"の埋め込まれた足が燃えるように熱くなる。

 迫り来る鞭を目視しながら、結城は右に跳ねた。

 地面を抉りながら結城は着地。その約一秒後、桧江の鞭は先程まで結城のいた地面を叩いた。

「相変わらず逃げ足の速い!」

 桧江が悪態を吐きながら結城の方へと踏み出す。

 腕を引き鞭を自分の元へと寄せ、結城の元へとまた振り下ろした。

「逃げてるだけだなんて思わないで!」

 結城は"キューブ"に意識を集中させる。

 熱くなる足。

 前屈みになって、今度は桧江の方へと踏み込んだ。

 一瞬。

 それだけで結城は女の目の前に迫る。

「くらいなさいっ!」

 左足を軸に、結城はその場で回し蹴りを繰り出した。

 それも、"光速移動(アクセル)"の付加された脚力で。

 ブンッ!と野太い音が鳴る。

 がら空きになった桧江の脇腹に、結城の足がめり込もうとした、瞬間だ。

「ひーちゃん!」

 それは真の声だ。

 桧江の背後に回った真は強引に桧江を後ろに引き寄せた。

「っ!」

 結城の視界から桧江は姿を消し。放たれた足は空を横薙に切り裂いて終わった。

「草理君、やっぱり…………」

 体勢を立て直し、結城は前を見据えて呟く。

 真は、桧江の盾になる様に、その前に立っていた。

「ひーちゃんを傷つけるのは、許さない」

 結城を見つめるその瞳は、いつか逃げたしたときと同じ目だった。

 友ではなく、敵として。

 桧江を守る"献身的彼氏(ボーイフレンド)"として。

「ひーちゃん、俺から離れないでね」

 優しく桧江に語り掛けると、すぐに結城を鋭く見据える。

「絶対に助けるから」

 今だけは、覚悟を決めて。

 短く息を吐き、結城は"キューブ"を意識する。

 対して、真の胸元に埋め込まれた"キューブ"も赤く光を灯し出す。

「いくよっ!」

 駆け出す。

 地を抉り、結城は真に肉薄する。

 そのまま駆け込んだ勢いを利用して、シンプルな突進を喰らわす。

「くっ!!」

 真は、いつの間にか取り出していたつるぎをあてがって身を守った。

 そのまま、真は迫る結城を押し返す。

 結城は、寧ろ押し返してきたその剣の側面に体重を乗せ、地を蹴り後ろに飛び退いた。

 ズザザザザザッ!と滑る音。

 土埃を撒き散らしながら、真は何メートルか押し出される。

 体勢こそ崩されなかったものの"光速移動(アクセル)"により付加された力は大きい。

 結城は着地。

 真の様子は、土埃によるカーテンによってうまく伺うことができない。

「やった…………訳ないよね!」

 茶色いカーテンを引き裂いて真が姿を現す。

 剣の腹に手を添えて迫り来るその様相は、まるで西洋の騎士が如く。

 結城は今一度"光速移動(アクセル)"を発動。

 まずは真の脇を斜めに駆け抜ける。"光速移動(アクセル)"では小回りが利かないため、今度は走り抜けてきた場所からほぼ直角に真横に跳躍。

「とった」

 真の背後。

 そのままその真を、捕まえる!

 しかし、

「ヤメテ!!」

 悲鳴にも似た怒号。

 さらけ出されていた結城の背中を、鋭い衝撃が走った。

「っ!?」

 思わず膝から崩れ落ちる。

 苦痛に顔を歪めながらも、結城は振り返った。

「まこちゃんに、近づかないで」

 そこに居たのは、目を血走らせた桧江だ。

 カタカタと錆びた人形の様な動きをしながら桧江は結城に迫る。

「ひーちゃんに近寄るなあ!!」

 真も身を翻し、雄叫びを上げると共に走り来る。

「近寄ってきたのはそっちなのに!」

 背中の痛みに襲われながら、結城は"光速移動(アクセル)"で一度二人から距離を取る。

 二対一。あまりにも部が悪い。一人で突っ走ってきた手前、仕方のないことではあったが。

 どうにかして真と桧江の間に距離を取らせなければならない。

 真を視界に捉えながら、次の一手を思案していた結城の元に、

「真!!」

 声が響く。

 天井隼人。その人だ。



 ×



 上高に続く坂道で、

「何者だ?」

 正義(ジャスティス)は、顔を顰めてそう問うた。

 小さく首を左右に向けるが、メディナ、麗は共に首を左右に振っった。

 つまり、第三者の介入、と言うことだろう。

「予感は当たってしまったわけか……」

 戦闘態勢に入る正義(ジャスティス)達とは対照的に、少年はハツラツとした声で言う。

「"何者か?"だって?よっくぞ聞いてくれました!僕ちんは"戦慄の子供役者(ボーイアクター)"、東雲鳴!!」

 続けて、その隣の青年がどこか気だるげそうに口を開く。

「俺は……えっと、"恐怖の二枚目俳優(ダブルアクター)"、深桐回道……」

「さあ、かかってこいやあ!」

 特撮だったら背後で爆発が起きそうな声高々な少年の言葉が締め括る。

「…………」

 正義(ジャスティス)達は、状況も忘れてポカンとした表情で一連の流れを見つめていた。

「あのよぉ」

 頼りない月明かりしか光源がないため、よくは見えないが、心做しか表情を赤くする青年、回道がぼそりと言う。

「やっぱこの自己紹介やめた方がいいと思うぞ。見ろ、お相手方が完全に戸惑ってらっしゃる」

「えぇー、そうかなー、僕ちん的には最高に格好いいんだけど」

「いやいやそれはねぇって、そもそもさ、子供役者(ボーイアクター)はまだ分かる。でもよ、二枚目俳優(ダブルアクター)って絶対間違ってると思うんだわ」

「そんな細かいことどうだっていいじゃん、かっこよかったら!」

 地味に口論を始める乱入者。

 置いていかれた正義(ジャスティス)達は、ただただ困った表情で見守ることしか出来ないでいた。

 あーだこーだと延々と言い争いをする二人。

 しまいには、死ねだ、アホだと、暴言まで飛び交うようになった。

「すまんお前たちよ」

 煮えを切らした正義(ジャスティス)が、未だ口論を続ける闖入者二人に声を掛けた。

「「なに?」」

 無駄に声を揃えて二人は正義(ジャスティス)達へと首を向ける。

 どことなく、口を挟んだ正義(ジャスティス)に対する怒りの様なものが混じっていたような気がしなくもないが、正義(ジャスティス)は気にしない様にして続けた。

「我等は急いで行かなくてはならない場所があるのだ。用がないのならば行ってもいいだろうか?」

「そうだよそうだよ、バカのバカみたいな文句で忘れる所だった」

 問い掛けられて、鳴はポンッ、と手を鳴らす。

 その隣で回道が「あんだとぉ」と青筋を浮かべていたが、鳴はさして気にする様子もなく、

「さっき言ったでしょ?君達には時間稼ぎをさせられてもらわないといけないの。だから、君達には僕ちん達の相手をしてもらわないといけないのだ!」

 ビシッ!と折りたたみ傘を再び突き付け、鳴は得意気な表情になる。

「まあ、そう言う事なんだわ。ちょっとばかし付き合ってくれや」

 パキポキと手首を鳴らしながら、回道も呟く。

「戦わなくては、ならぬのだな…………」

 拳をギュッと構え、正義(ジャスティス)は鋭く二人を見据えた。

「その意気やよし、さあ、見せてやろう僕の力を!」

 鳴は手に持った折りたたみ傘をくるくると回す。

 その先端を天に突き向けると、高らかに叫んだ。

「"形態変化(スタイルチェンジ)"!」

 折りたたみ傘全体を、淡い光が包み出す。

 光が包み込むと同時に、折りたたみ傘に異変が現れる。

 とっては鳴の身長程まで伸び、本来傘として雨から身を守る先端部分が横長に引き伸ばされた。

「えっへん」

 鳴が鼻を鳴らすと、"折りたたみ傘だったもの"を包んでいた光が消え失せた。

 代わりに姿を現したのは、

「ハンマー…………?」

「僕ちんの愛用品なのだ。めっためったにしてやるから覚悟しろよ!」

 小さな少年の手に新たに握られたのは、身長を優に追い越す大槌だった。

 そんな大槌を、鳴は軽々しく持ち上げると、折りたたみ傘でそうしていたように、大きなその先端を正義(ジャスティス)達に突き付けた。

「俺達は時間を稼ぐだけだ、殺すんじゃねえぞ」

 隣で冷めた目をしながら回道はぼやく。

「カイドウもちんたらしてないで準備しろよな!」

 頬を膨らませながら鳴は地団駄した。

「わーってるよ」

 気だるげな声音でそう言いながらも、回道は自らの"キューブ"の名を唱える。

「"不可視鎧(アーミー)"」

 回道の全身を光が包む。

 しかし、それは一瞬。

 回道を飲み込んだ光は、弾けるように霧散した。

 変化と言う変化は、全く現れていなかった。

 ただ、回道の浮かべる表情はどこか自信に満ちあるれている。

「じゃあ、僕ちんあっちの女の子相手にするから、カイドウはあのむさいオッサンをお願いね」

「……どっちだって構わねえよ」

 今までにないにこやかな笑顔でメディナと麗に視線を送る鳴。子供に似つかわない、いやらしさの篭った下卑な笑み。

 対して回道は、慣れたような調子で、ため息混じりに言いながら正義(ジャスティス)を見た。

「行くぜ」

 回道の一言。

 それが戦いの合図となった。

 まず、回道と鳴は、どちらともなく駆け出した。

 "不可視鎧(アーミー)"によって、回道からは一歩を踏み出す事にガチャガチャと音が鳴る。

「やるしかないかっ!」

 表情を顰めながら正義(ジャスティス)は"鉄拳制裁(メシア)"を解き放つ。

 鋼の篭手が、正義(ジャスティス)の両腕を包み込んだ。

「まずは一発」

 唇に微かに笑みを浮かべながら、回道は走り込んだ勢いを乗せた右ストレートを放つ。

「ふんっ!」

 避けられない。そう判断した正義(ジャスティス)は、両腕を眼前でクロスすることによってその拳を受け止める。

 ギンッ!と火花が散った。

 火花は、正義(ジャスティス)と回道の顔を僅かに照らし、回道の笑みが、先程よりも深く刻まれている事を正義(ジャスティス)は見た。

「はあっ!」

 雄叫びを上げ、正義(ジャスティス)は回道の拳を押し返す。

「おっと」

 僅かによろめきながら回道は二歩程後退した。

 正義(ジャスティス)も同様に、その場から後退る。

 回道は驚いた風に言葉を漏らしながらも、やはりその表情には高揚が見て取れた。

「貴様、ただの戦闘狂か。瞳から輝きが増しているぞ」

 体勢を立て直し、正義(ジャスティス)は玩具を目の前にした子供のように瞳に爛々とした光を宿す回道に向けてそう言った。

「それはオッサンも、同じように見えるけどなあ」

 唇の端を引きつらせながら、回道は正義(ジャスティス)を指差す。

「正々堂々と滅することのできる悪がいることに、喜びを感じているだけだ」

 正義(ジャスティス)も、気分の高揚を感じていた。

 自分自身の力で悪を成敗することが出来る。

 それは、正義(ジャスティス)にとって何よりも嬉しい事であった。

 故に、その表情には、回道と変わらぬ笑みが。

「こりゃあ楽しくなってきたぜ」

 ジャラジャラと鎧から音を放ちながら、回道は呟いた。


「余所見してちゃダメだよ!」

 正義(ジャスティス)、回道のすぐ隣で、鳴が大槌を振り回しながら叫んだ。

「どっせい!」

 鳴は、跳躍と共に大槌をメディナに向けて振り下ろした。

「っ!?」

「"結界(ウォール)"! 」

 すかさず麗はその間に割り込み壁を敷く。

 ドンッ!と鈍い音が響いた。

 "結界(ウォール)"は鳴の大槌を跳ね返し、その反動に跳ばされた鳴は、中空で一回転しながら着地。

「くっそー」

 悪態をつきながらも、その顔にはこちらも笑み。しかし、回道と違った、下心にまみれた品の無いものだった。

「やっぱりいいねー女の人は、戦いの中でも美しさがある。ふとした接近で漂う香り、たまんないねー!」

 興奮し切った調子で、鳴は息を大きく吸い込んだ。

「巫女のお姉ちゃんはすっごく甘い匂いがするんだねー。今度はメガネのお姉ちゃんの番だよ!」

 目を見開き、子供とは思えぬスピードで鳴は駆け出した。

「させませんっ、」

 すぐさま麗が手を伸ばす。

 "結界(ウォール)"を張り、鳴の行く手を阻む。

 鳴は立ち塞がる"結界(ウォール)"を蹴って後退。

「ちっ」

 露骨に舌打ちをしながら、阻害を続ける麗を睨んだ。

「相性が悪いです」

 振り返らず、麗は背後にいるメディナに言った。

「傷が一つでも付けば、わたくしの力で追い討ちをかけることが可能なのですが…………」

 柳眉を下げながらメディナは呟き、首を横に向ける。

 そこでは、火花を散らし、激しく音を立てながら、正義(ジャスティス)と回道の戦闘が繰り広げられていた。

「私たちでなんとかするしかないと言うことですか」

 鳴の出方を伺いながら、麗は問い掛ける。

 鳴の方は、暇そうに大槌を手の内で回している。二人が何か話し合っているのを判っていながら手を出さないでいるようだった。

「あの方達は、時間稼ぎに来たと言っていました。防戦一報にはなってしまいますが、三ヶ峯さんの力があれば、しのげる事は可能かと」

「持久戦なら任せてください」

 肩ごしに振り返り、麗は頷いた。

「おわったー?」

 退屈そうに大槌を弄びながら、鳴はぼやいた。

 大槌を肩に軽く担ぎ直すと、激闘を繰り広げる正義(ジャスティス)と回道へと視線を送る。

「オッサンは好きじゃないけど、あっちにすれば良かったかなー。お姉さん方、全然好きなんだけど、今回においてはつまんなすぎ。つまんなすぎて殺してしまいそうだー」

 ニヤリ、と鳴は唇を歪め、視線を麗達に戻した。

 その表情は笑みであるはずなのに、二人を見据える双眸は、獲物を逃さんとする狩人のそれだ。

「……っ」

 真正面から見据えられた麗の背中を悪寒が走る。

 この子は、普通じゃない。

 殺意とは違う、どす黒い欲望を感じ取った。

 異様な少年の気配に、麗は"キューブ"への意識を高めた。

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