始まり
気長に更新する所存です。
真っ暗な空間に居た。
少年は、気づいた時には居た。そうとしか表現できない。
天も地も判然とせず、自分が今本当に地に足を着けているのかも不安になる。
光の一切もが入り込んでいない筈なのに、自身の体はしっかりと視認をすることができる。何とも不可思議な空間だった。
――――?
いつの間にか少年の目の前に、少女が一人佇んでいた。
端整な顔立ちをしており、纏う雰囲気はどこか大人っぽく妙に色っぽい。
小さな体とのアンバランス感には何故か違和感はなく、寧ろ魅入ってしまう。不思議な少女だった。
そして、何よりも印象的なのは、自身の身長程もある、長い銀色の髪だ。
光のない空間であるのに、その髪は自らが光を放っているのではないかと錯覚するほどに輝いて目に映り、真っ暗な空間に浮かぶその姿は、夜空に煌めく月の様だと、少年は密かに思う。
「――――」
そんな少女が不意に口を開いた。
何かを少年に対して語りかけているようだが、少女の言葉は少年には届かない。
聞こえないよ。
少女に対する言葉も、音になることはなく、言葉の一つ一つが喉につっかえた様な不快感だけを残した。
困惑に染まる少女の表情は、彼女自身にも原因が判らないと言う事を物語る。
そして少女は、徐ろに両手を差し出した。
――――?
少女の視線を追って、少年は彼女の掌に目を移す。
何だこれ?
音にはならない。判っていたはずであったのに、少年は思わずそう言葉を漏らした。
少女の手に乗せられていたのは、小さな立方体。
その色は漆黒に染まっており、少女の掌に乗せられていなければ、この空間に溶け込んで二度と見つけることは出来ないだろう。
黒い立方体を見つめていた少女の瞳が、少年を見た。
長い銀色の髪とは対照的な、黒く澄んだ瞳が少年を見つめる。
その瞬間。
少年の腕が彼自身の意思を無視して、立方体へと伸びていった。
――――!?
止めることができない。そもそも、力を込めることすら許されなかった。
理由は判らないが、何故だか"触れてはならない"と本能が叫んでいる。しかし少年にはなんの抵抗もできなかった。意思に反して動く腕を見ている事しか出来ない。
止めてくれ!
喉に詰まっていくのも構わず、少年は少女に向かって叫んだ。
少女は何も答えない。ただ悲しそうな顔をしたまま、少年を見つめる。
澄んだ瞳から、一雫の涙がこぼれた。
同時に、少年の手は立方体に触れた。
瞬間、視界は闇に塗り潰された。