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白い悪魔の夜語り  作者: runa
Ⅰ ~月語り~
6/32

Lies always lead to more lies

…昨夜は大変失礼しました。

不肖の妹が急遽代役を務めることと相成りましたが、皆様には多大なご迷惑をお掛けしたかと…


え?

むしろ普段より話が進んだ気がする?


(…ドールめ。まさか初めからこれを狙っていたか?ならばそれなりの報復を…)


やや。私としたことが、若干内心を駄々漏れしてしまいました。お気になさらず。ええ。その方が貴方の為ですよ。


さて。気を取り直して参りましょう。



***



年齢を感じさせない美貌は久方ぶりに見えたとはいえ、些かも衰えはない。

艶やかな深藍色の髪と、魔女の笑み。


「久しいな。…今はメリアだったか。残念ながら諦めろ。それは昔から君が絡むと暴走する傾向がある。恐らくこの先も。期待はしないことだ」

魔女からそれ、と名指しされた当人は飄々としている。変わらず嫌な師弟である。

そして、もう一つここで注意しておかなければならないのは『声』だ。

焔・燐こと、殺人鬼である彼女はその特異な声質をして魔女と称されることがある。

しっかり気を持たないと、酩酊しそうになる。

父は生前この美酒のような声を含めて、僕の女神などと称することがあったが…。正直そんな可愛らしい部類に当たらないだろう。機会があれば言いたい。


「…熱が高いですよ、メリア。貴女は少し休んでいてください。過程はここに来るまでの間で、ほぼ収集し終えていますから」

紫鳶がそう言って額に濡らした布巾を当ててくる。

それは有り難い言葉だった。しかしながら、相変わらずの情報収集力である。むしろ恐ろしい。協力関係にあるとは言え、内心そう思う。

だからこの時点で釘を指しておくことにした。


「勘違いしてくれるなよ、紫鳶。助力は乞うたが総てを預けたわけではないからね。…過分に手を出すことがあれば報復も問わない」

言い終えて見据えた先の紫鳶。彼は暫し沈黙したが、何を思ったか蕩けるような微笑を向けてきた。


ぞわ、と一瞬にして背筋を悪寒が走り抜ける。

何ゆえ、そうなる。

その答えは紫鳶ね傍らにいる魔女が教えた。


「逆効果だ、メリア。それは君に報復されるとなれば喜んで手を出す」


どんな思考回路だ。

内心の声を包み隠し、仕方もない。言い直した。


「冗談だ、紫鳶。…過分に手を出すなら、今後君たちに助力を乞うことは止める」

途端に、笑みを消した彼はぼそりと呟く。

「タダ働きは御免です。自分の利にならないことを進んでやる理由もありません」


とりあえず一旦落ち着いた場に安堵して溜め息をつく。同時に緊張が解れたのだろう。体に力が入らず、ぐらりと傾く。

片腕を付いて支えたが、今までのやり取りで明らかに熱が上がっていた。

気の緩み。どのような手段を選択するにせよ、依頼の成就のために動くこと。それが、嘘飼いとして生きる自分の本分であるから。

彼らを召集した時点で、少なくともそれは守られる。

そんな確信がための、弛緩。

そんな少女の内心を、召集された彼らが読み取れない訳もない。


「休んでおいで、メリア。君が普段から極力私たちの召集を避けてきたのは分かる。…だが、今回の判断は別だ。早々に私たちを呼んだのは最善といえる。君はあの男に直接関わるべきでないから」


あの男?

その言葉に疑問を覚えて問う前に、意識が途切れる。ふつりと、糸が絶たれるように少女は寝台に沈み、少女の眦に身を寄せた魔女が口付けを落とした。

「おやすみ」と囁き、身を起こした魔女の顔からは表情が抜け落ちている。


「私の娘に手を出そうというのだから…あれにもそろそろ白蝶ごと消えてもらわないといけないね」


どこまでも優しげな口調とは対照的に。

血の香を含む紅が、ゆっくりと微笑を浮かべる。


「冗談は寝言だけにしてください、先生。あれは、俺の餌です」


魔女の言葉を遮るように、後方から響く声。無論紫鳶が発したものである。それに対し、全く笑っていない目を向ける焔。

「ほぉ…言うね。先に言っていたタダ働きは御免です発言は偽りか。紫鳶」

「へぇ…そこを突きますか。なら、先生。貴女こそあの発言は誤りでしょう。この人が絡むと暴走する、というのは寧ろ先生の方ですしね。今後は連名で詫びて下さい」


据わりきった目を向け合う師弟の間で、少女は気を失ったまま、死んだように眠りについている。


「言うようになったじゃないか、紫鳶。師である私にそこまで言えるなら、いい加減この子と素で話せるように改めたらどうだ」

「余計なお世話です、先生。貴女こそ、いい加減に困った弟子を見守る私、的なスタンスで義理の娘と少しでも関わろうとする姿勢を改めてください。見ているこちらが痛々しいですよ」


殺気をじっくり練り込めたような視線の応酬。その間で、やや寝苦しい様子で寝返りを打つ少女。

このまま止める者がなければ、師弟の間でまず殺し合いが始まりそうな空気が立ち込める。


この空気を破ったのは、例によって不規則なノックである。


「…ん? 返答ないな。留守か」


呟きを聞いた師弟は、ここでようやく互いへの殺気を解いた。

扉の近くにいた紫鳶が、扉を開く。


「……な、何であんたがここにおるんや」

一瞬よりも僅かに長い絶句と続く悲鳴じみた叫びを、魔女の笑みが迎えた。

「蜂の巣の小僧か。…なるほどね。とりあえず中へ入れ」

否応なしに、小屋の中へ引き摺り込まれた弐羽はそこにいたもう一人の人物に、ぎょっとして立ち竦む。

「な、…紫鳶までおるんか。一体いつの間にそんな切迫した状況になってたんや」


弐羽の呆然とした表情に対して、紫鳶は微笑みを張り付けたまま素で対話する。


「よぉ、久しいね。弐羽。初めにいっておこうか。俺の中であんたは福虎の次くらいに嫌いなやつだ。だからさ、…俺の機嫌次第では生きてここから出られないよ」

直訳しよう。

素で、お前を殺そうか迷っているよ。

そういわれたも同然である。

弐羽がこれにぎょっと身を竦めるのも無理はない。


「煩い、紫鳶。今は黙れ。…まず話を聞かないとね。弐羽、この子から依頼されていた件は片付いたんだろう?」

二人の間に入り、弟子を牽制したのは魔女である。

身を竦めたままの弐羽の肩にその美しい顔を寄せ、耳元で問い掛ける。

嫌な師弟に囲まれた弐羽は、そこでふと寝台に眠る彼女に気がついた。


「おい…メリア、体調崩したんか」

一瞬で状況を飲み込み、冷静に立ち返った彼に真顔になった焔が頷く。


「昨日の長雨に打たれたのが響いたんだろう。とりあえず今日一日休めば少しは回復するはずだ」

「…そういう経過やったか。まず、確認させてくれ。あんたらを呼んだのはメリア本人で間違いないな?」

返答次第では、死んでも口は割らない。そんな意思を透かし見て、自然と魔女は笑む。


「魔女の誇りと、あの子にかけて。偽りはない」

その宣誓に、ようやく彼は本来のペースを取り戻したようだ。

弐羽は頷き、笑う。

「メリアから頼まれてた件は片付いとる。メルフィー・ローズは今現在、白蝶に潜伏して幹部連中を探れる位置まで来とる。あいつの依頼主は不明や。だが、おそらく白蝶内部に精通しとるで」

報告に、師弟はただ笑みを深めた。それぞれの笑みが意味するところは間違いなく異なる。


「相変わらずのようですね、あの人。流石先生の血縁なだけあります」

「…我が息子ながら相変わらず可愛げがない。惜しいな。これでほんの僅かでも彼に似た不器用さがあれば、もう何も言うことはないんだが」


醒めた目で師を見遣る弟子と、その視線に気付いているのかいないのか。そのまま話を続ける魔女の間の温度差たるや。

弐羽は傍らにいて、ひきつりそうな頬を力業で自然な笑みに変えて相槌を打つ。


「白蝶の幹部といえば…現時点で6人だったか。有名どころは双子と学者だったな」

魔女の呟きに、弐羽が頷く。

「そう、その通りや」

弐羽の肯定に続けて紫鳶が残りを羅列していく。

「あとは、犬狂いと爆発娘…最後の一人は情報が秘匿されてますね」

聞きしに勝る、変人の巣窟。冗談みたいな羅列である。しかし、実際のところ幹部個々の戦闘能力は馬鹿にならないと聞く。元々の出自が一様に海賊業を起点としているだけにその信憑性は高い。


「俺の勘では、死体のあった路地へ現れたんは学者だろうと踏んでる。ま、確証を取るのは今となっては無理な話や。仮に取ったところで、そいつが殺したかどうかはまた別の話やろうし…」

そう纏めて大きな溜め息を溢した弐羽へ、いい笑顔を向けるのは紫鳶だ。


「相変わらず良いのは勘だけの男ですね。そもそも、ログ・ノートンを殺したのが誰かなんてところで思考を止めてるようじゃ話にならない。…ミルフィー・ローズが白蝶に潜り込んだ経過も見れば、はっきりする話に気付きもしないわけだ」

この言葉には、表面上隠された嘘も含めてかなりの意味が晒されている。

まさに、付け火になった。

紫鳶にとってはまるごと皮肉とも解釈されて構わない言葉も、弐羽にとっては求める答えへの示唆となる。

魔女はその事に気付きながら、敢えて言葉を差し挟まずに弐羽の言葉を待った。

僅かな沈黙を挟み、その場に落とされた答え。


「つまり、これではっきりした訳だよ。全ては彼らの狂言に過ぎない」


その声は、弐羽から発せられたものではない。

魔女は微笑み、紫鳶は苦笑し、肝心なところを取られた弐羽は絶句した。

三者三様。その様子を順繰りに見ながら、意識を取り戻した嘘飼いの少女は続けて彼らに問い掛ける。


「嘘飼いに狂言を仕掛ける。…この意図は何処にあると思うね、君たち」







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